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29.ある年若い中級神官の夜明け前 3

コピペで貼り付けたら最後まで入力できてなかったし何故か修正前の分だった。

修正前はしれっとライナスが中級神官の名前を呼んでますが無かった事にしてください。

 油を辿って一気に燃え広がった炎に、油の道の直ぐ近くにいた二人は慌てて飛び退った。

 他にも仲間がいるのか居住区のいたる所で火の手が上がる音がする。この居住区は基本的に土でできているため燃えずらいはずだがそれでも室内に火が入り込めばひとたまりも無い。器の男の探索でいつもより寝ている人間は少ないのは幸運だが寝ていない人間は探索に向かって居住区にいないものも多いので差し引きはゼロだ。

 「まて!お前!!」

 火をつけた神官が自分達に気づき逃げ出そうとするがその前にライナスが飛び掛り押さえ込む。ライナスが片手をひねり上げるが、神官は残った片手で短剣を取り出そうとする。中級神官は慌てて持っていた明かりの魔法を掛けた自分の短剣で神官の腕を切りつける。取り出し損ねた短剣はそのまま手から滑り落ち床に甲高い音を響かせた。


 「お前ダニエルさんの班の奴じゃないか…?」

 「ライナス、知ってる奴なのか?」

 「ああ、名前は知らないけど…中級神官のダニエルさんとよくチームを組んでる奴だよ、っていうか顔ぐらい知ってるだろ?」

 「なんとなく…」

 「…まぁいいや。おいっ何でお前火なんかつけたんだ?」

 ライナスの詰問にしかし神官は答えようとしない。ライナスは神官の絞める腕に力をこめるが神官は表情一つ変え様としない。

 その能面のような表情に中級神官は思い当たるものがあった。


 「ライナス、こいつ誰かに操られているのかもしれないぞ」

 「操られてる?誰かって誰だよ」

 「そんなの僕にも分からないけどさ。でもこの顔、薬を使われた人にそっくりだ。」

 「……なんか知らない間に随分とややこしいことが起こってるみたいだな…どうする?」

 「とりあえず、今のこいつに聞いても何も答えなさそうだ。それよりも先に火を消すことに専念しよう。このままほっといたら人死にが出るかもしれない」

 「こいつはどうする?」

 「手足を縛ってそこらへんの倉庫にでも放り込んで置こう。薬が抜ければ何か有益な情報が引き出せるかもしれない」

 そういって中級神官はローブの中から荒縄を取り出す。器の男を捕まえたときのために用意したものだがまさか仲間相手に使いことになろうとは思いもしなかった。

 

 神官を縛り上げて適当に鍵の開いている部屋にほうりこむ。だれか下級神官の部屋のようだったが今は緊急事態という事で勘弁してもらおう。

 二人は道々燃え盛る炎を魔法で消して回る。ライナスは土の属性魔法が使えるし年若い中級神官は魔力が強いので水の属性魔法で大量の呼び出すことができる二人は非常に効率よく鎮火していく事ができた。

 しかし二人が思っているより広範囲に油がまかれているのか居住区に広がる炎はまだまだ勢いよく燃え盛っている。ついに下級神官の居住棟の一つが炎につつまれ、二人では火を消しつくすことができなかった。

延焼を防ぐため二人は居住棟の周りを壊し先へ進む、さすがにここまで来るといい加減おかしいことに中級神官は気が付いた。同僚の下級神官を見るとライナスも同じ意見であるらしく、言いようの無い表情を浮かべている。


 「人…いないよな?」

 「いくら皆寝ているからってこんなに火の手が上がってちゃ皆気づくよな?」

 事実火の手が上がった時は居住区のあちらこちらから、いきなり上がった火の手や消火活動のために人を呼ぶ声が聞こえていたし。確かに最初の頃は自分達の他にも同じように鎮火している人間がいる事は炎の向こうに確認できた。しかし、もはやそんな声も聞こえないし二人が進んできた道にも人の気配無かった。二人が鎮火してきた場所は下級神官居住区なのでこのあたりの人間は皆外に出ていて火事に気がいないというのは無くもないがさすがに一人も出てこないのは無理がある気がする。

 ライナスは唸りながらまだそこまで被害の出ていない居住棟の一つに足を踏み入れた。


 「おいっ大丈夫か!?」

 居住棟にライナスの声が響いた。


 中級神官はライナスの後を追うとそこに倒れこんだ下級神官と下級神官を抱き起こすライナスの姿を見た。

 下級神官の胸には血がにじんでいる。

 「ライナス、そいつは…?」

 「胸を一突きにされてる。もう駄目だ。」

 「…」

 下級神官が倒れている場所は居住棟の入り口だった。火事に気づいて飛び出した所をぐさりとやられたらしい。

 「やっぱり、他にも操られている奴がいんのか…」

 「もしくは操っている奴本人かも知れないけどな」

 「一体なんでこんな事に…」

 今まで通り過ぎた家屋の中にもこんな風に殺された神官たちがいたのだろうか?そう思うと中級神官の背中にどっと汗が噴出した。炎に焼かれて空気の温度も上がって暑い程なのに、体の芯から冷えていくのが分かる。

 ライナスは下級神官を床に寝かせ居住棟の奥へ進もうとする、他に誰か生きている神官がいないか確認しようとしているのだろう。

 「ライナス、ここはもう火事も消したし、多分他の奴も…」

 火事はまだ続いている。居住区は洞窟の入り口に近く、居住区を作るときに洞窟内部に換気口をいくつも作ってあるがこのまま燃え続ければ煙が充満して危険だ。今は消火を優先するべきだ。

 「ああ、だが一応確認させてくれ、すぐに終わるから」

 そういってライナスは一番手近な下級神官の部屋の扉を開ける。

 開けて―


 倒れた。

 「ライナス!?」

 思わず駆け寄ろうとするが、ぴたりと足を止める。ライナスは魔力を温存するために明かりの魔法を使っていなかった。カンテラも油に引火しないよう火を入れていなかったので室内にある明かりは中級神官のもつ明かりだけだ。その明かりにぼんやりと照らされて、ライナスが開けた扉、その奥から短剣が飛び出ている。

 自分が持っている配布装備の短剣にも似ているがそれより一回り小さい。今、まさに目の前でライナスを刺したと思われるその剣には不思議なことに血の一滴も付いていない。その事が中級神官に言い知れない不安を呼び起こさせた。

 ゆっくりと短剣が下がり代わりに扉の奥から足が伸びる。何の変哲も無い皮のブーツ。それが倒れたライナスを跨ぐ様に踏み出した。

 「…」

 幽かな声がした。ライナスだ。ライナスが倒れたままこちらを見ている。

 「…来るな…」

 彼は走り出した。ライナスに向かって。

 早口で聖句を唱え扉の向こうに力を叩きつける。下級神官の安普請の扉は砂糖菓子のようにひしゃげていく。

 中級神官がライナスの元までたどり着いたときはライナスを刺した人物はもうそこにいなかった。部屋の窓が開いている。どうやら逃げられたらしい。歯噛みをして彼はライナスに向き直る。

 「大丈夫か?」

 ライナスは脂汗を流し、荒い呼吸を繰り返している。彼の問いに答える余裕はなさそうだ。ざっとライナスの傷を確認すると、治癒の魔法を掛けていく。暫くすると傷がふさがりライナスの呼吸も整ってきた。

 「ありがとう、もう大丈夫だ」

 「油断したな」

 胸を刺された下級神官の体はまだ暖かかったし血も乾いていなかった。刺されてそれほど経ってないのならまだ刺した人間が近くにいる可能性は高かったはずだ。

 「火を消すより、生きてる奴を探して回ったほうがよさそうだな」

 「上級神官たちはこの事をしってるんだろうか?」

 「これだけでかい火事が起こってるんだ。知らないはずが無いとは思うが…」

 ライナスは立ち上がるとそのままぐらりとよろけて壁にすがる。傷は塞げても失った血は戻らない。もしまた襲われたら今度こそ命を落とすかもしれない。

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