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2.外へ出るために、自分を知る

 つまり私の記憶が無いのは今まさに異世界転生でここに生れ落ちたからではないかと思うのだ。

 ならば私が私についてもこの場所についても何も知らないというのに異世界転生だのゲーム知識だのと一般生活において何の易にもならない知識を持ち合わせているのはそのためではないだろうか?残念ながら神様にチート能力を貰ったかどうかは今ここに至るまでの記憶が無いので不明だがそこらへんは自分でおいおい試して調べていけば良いだろう。

ゲームは説明書を見ずにプレイする派だ。前世の記憶は無いがそうだった気がする。


 さらにもう一つこの仮説を補強する要素がある。それは目の前にある見えない壁だ。


 出口穴から周辺を探索しようと穴から顔(というか胴体)を出そうとした私は穴出口の50センチ手前にある見えない何かによって私の進行を阻まれてしまった。

 こんないかにもなファンタジー要素のある存在を出されて「いや、異世界だなんて、転生だなんで非現実的だよ」というのはさすがに野暮である。私は人以外のなんだかよく分からないもの(恐らくダンジョンコア)に転生し、ここは異世界のダンジョンなのだという仮説が濃厚になった。


 しかし、問題は私自身がここから出られないということだ。進もうとすると押し返される強い圧力と全身に感じるヒリヒリとした感触はこの場所に私を閉じ込めたものへの悪意を感じさせる。

 意気揚々と振り上げた手を何処に下ろして良いのか分からない私はせめてもの恨みをこめて見えない壁を睨みつけた。私がロボットモンスターであったなら目から破壊光線が発射されたかもしれない。しかしロボットモンスター等ではなく40型円形蛍光灯(暫定)である私にはそんな機能等無いらしく見えない壁も私の視線などそ知らぬ顔でそこに存在し続けている。

 せめて消えないまでもその姿が見えるようにならないものだろうか、せめて形状だけでも分かればこの壁を何とかできる取っ掛かりが分かるかもしれないのに。


 そんな事を考えながら見つめていた壁にゆっくりとその変化は起こった。壁の中心に青黒い紋章のようなものが浮かび上がってゆく。一分ほどの時間をかけて浮かび上がったその模様はいくつかのパーツと層に別れ一つの大きな紋章を形作っていた。丁度穴と同じ程度の大きさだ。つまりこの出口をふさぐ壁には私がうまくすり抜けられるような隙間が無い。

 落胆すると共にこの壁自体を何とかできる方法が無いかとしばし紋章自体を観察していると中心の紋章が紋章の前後に圧力を最前列と最後列の紋章が触れたものに痛みを与えるものであることが分かった。


 何故そんな事がわかるのかといわれても観察しているとそう理解できたとしか言えないのだが、そもそも私は40型円形蛍光灯ではなくダンジョンコアであったのだった。(暫定)

 ならば40型円形蛍光灯には出来なくともダンジョンコアには出来る不思議な能力が備わっていても不思議ではないのでなかろうか?とするとこの見てたら物の構造が分かる能力は異世界物でありがちな『鑑定』だろうか?


鑑定:専門的な知識を持つ者が、科学的、統計学的、感覚的な分析に基づいて行う、評価・判断。


 違うくさい。ところでさっきからちょくちょく出てくるこれはなんなのだろうか?私には辞書かウィキペディアでも備わっているのかもしれない。

 とにもかくにも能力の名称は今は置いておこう。大事な事は物を観察するとそれが何か分かるということだ。この能力でもう一度部屋の中を観察してみよう。


 私は部屋の中心に放置されていた死体(暫定)の前まで戻ってきた。私のこの『見てたら物の構造が分かる能力』は対象物を観察することでなんとなくその状態がわかるものであるらしい。最初に目が覚めたときにこの死体(暫定)の身体に重篤な欠損があるわけではないことも、この体からもはや魂が消滅していることも、どうやらこの能力で分かったことであったようだが、状況の異常さに気をとられ能力のことにまで疑問を差し挟む余裕が無かったようだ。


 さて、件の死体(暫定)だが、幸いなことに未だ(暫定)のままであった。しかし私が目を覚ましたときよりも鼓動が弱くなっており、確実に命の砂時計は進み続けていた。心臓を機関部に脂肪を燃料タンクに例えるならば魂とはスイッチだ。簡単な電灯等を分解してもらえば分かるがスイッチとはその稼動によってONとOFFにに切り替えるものだ、電車の分岐器のようにONという配線とOFFという配線に切り替える。スイッチとはその構造そのもので、この体からはスイッチ(たましい)そのものがごっそり消滅してしまっている。配線ごと無くたった電灯は勿論もう用を成さない。切り替え部ごと分岐器をなくした線路はいつか脱線を起こす。今はまだ惰性で動き続けている死体(暫定)から(暫定)が取れるのも時間の問題だろう。


 改めて死体(暫定)を見ても分かったことはそれぐらいだった。死体(暫定)を蘇生させることができれば

どうやってこの部屋に入り込んだのかぐらい聞き出せそうなものだと思ったのだがよくよく考えれば『見てたら物の構造が分かる能力』しかない私ではこの死体(暫定)に身体的な外傷があったとしてもそれをなんとかする力は無いのである。


 いや、本当にそうだろうか?


 私がダンジョンコアであるならば『見てたら物の構造が分かる能力』だけで本当にダンジョンを運営、管理していくことができるだろうか?

 否、最低でも罠や宝箱を設置する能力や、モンスターを召喚する能力が必要なはずだ。

 勿論この仮説はすべて私がダンジョンコアであるという前提で成り立っているのだが、もし私が『見てたら物の構造が分かる能力』があるだけの唯の40型円形蛍光灯だった場合もうこの状況は詰みでしかないので考えるだけ無駄だ。その時はの死体(暫定)と共に蛍光灯の寿命が切れるのを待とう。


 そう結論付けると私は早速死体(暫定)の顔側に回り込み、見開かれた瞳に自身の姿を映した。感情の抜けた眼球はつるりと丸く、涙を流し続けているその表面は今だ光を反射し続けていた。そしてその光の中心に私が写りこんでいる。私は瞳を通して私自身に視線を合わせた。


 瞳に写る発光体を見つめること暫しゆっくりと私自身についての情報が私の中に浮かび上がってきた。


ソウルイーター

技能:魂狩り・精神支配・観察・考察


 残念なお知らせ、私ダンジョンコアじゃなかった。

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