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18.上級神官の部屋へ行き、衝撃の事実を知る

 側仕えと中級神官Eが警備室に入っていくのを確認すると私は下級神官A、中級神官Dとで―下級神官BCは門番不在を不審がられないために上級居住区入り口に立ってもらっている。―側仕えを追い出した部屋へ入っていく。

 奴隷に、奴隷を『お気に入り』にしている上級神官の側仕えの中で、一番若くてかわいい顔をしていて、奴隷にいい顔をしていない上級神官の部屋を選んでもらったのだ。

 奴隷にいい顔をしていない側仕えなら他の上級神官の元に奴隷が尋ねてきたら追い返そうとするだろうし、奴隷に向こうから押しかけられるなんて失礼な事をされたら怒るだろうし、それは奴隷に上級神官が見下されているという事でもあるから他の人間には知られたくないだろう。

 そうするとどうなるか、怒って自分で奴隷を追い出そうとするのだ。上級神官に可愛がられている側仕えならなおさらである。


 奴隷を『お気に入り』にしている上級神官は他にも何人かいるので、そのうち誰かがつれればいいと思ったのだが最初の一人で罠にかかってくれた。側仕えの中級神官は本当に若く二十歳ぐらいの年に見える、まだ人生経験が足りないため不意の事態への対応が感情に左右されるのだろう。本当に助かります。



 上級神官の居住区は基本的に何処もほかの場所より壁に模様を入れたりして、手の込んだ作りになっているが私室は更に凝っていた。

 私が最初に目が覚めた場所がここならどこかのお金持ちの邸宅か何かだと思っただろう。部屋自体はそれほど広くは無く、窓も無い―洞窟だからあたりまえか―が壁にはきちんと壁紙が貼られ磨き上げられた木製の執務机とキャビネット、革張りのソファやローテーブルがバランスよく並んでいる。キャビネットの中にはガラス製と思われるグラスと酒瓶が並んでいた。

 よくもまぁ洞窟の中にこれだけの住宅環境を作り上げたなぁと呆れるばかりである。


 そんな全体的にピカピカした感じの部屋の奥に大きな扉がある。その扉の向こうに上級神官の寝室があり、今まさに上級神官が寝ているはずだ。

 私は神官たちに執務室の明かりを全て落とさせる。驚くことに上級居住区の明かりは全て魔法でまかなわれているため明かりを消すためには光っている物自体に覆いをかぶせて物理的に光を遮断させるか光を打ち消す魔法をわざわざかけなおさなければいけない。普通は光を消したいときは覆いをかぶせるだけらしいが今回はわざわざ神官たちに光を消す魔法を使わせて全ての光源を消し去った。そして十分に闇に目を慣らせると寝室のドアを開けた。


 執務室に負けず劣らない装飾をされた寝室は、部屋の中心に置かれたベッドの枕もとにある小さなランプの明かりにうっすらと照らされている。

 その明かりに元柔らかなベッドの真ん中に初老の男が眠っていた。


 寝室の明かりも神官に消させると私は魂の気配を頼りに寝室に足を踏み入れ、上級神官の枕元に立った。神官ADも魂の私の魂のリンクを伝って所定の位置に着かせる。上級神官は寝室に侵入する複数の気配を感じてか呻き声のようなものを上げて覚醒の兆しを見せ始めていた。

 目が覚めなければもっと楽だったのだが仕方がない。私は横臥している上級神官に体ごと寄せ、掌を愛しい人を撫でるように肩から腕に滑らせた。正直気持ち悪い。


 「フィオレ…?」


 私が頭からすっぽりかぶった白布から奴隷の気配を感じて夢現の上級神官の体から緊張が抜ける。もう一言二言何か声をかけようとしたのか上級神官の口が開く。

 私はその口めがけて炊事場から持ってきた雑巾の塊を押し込んだ。


 「ヴォッッ」


 油断していた神官の悲鳴は雑巾にさえぎられくぐもった呻きとなって寝室に落ちる。暴れる神官の手足を体重を乗せて抑え込むと抗議のに声に悲痛の色が混じった。

 私たちは手早く神官の手足を縛り上げその顔にずた袋をかぶせる。もちろん口に入れた雑巾は吐き出せないように更にその上からさるぐつわを噛ませた。神術は聖句を、魔法は呪文を唱えないと発動しない、『精神支配』をかけている間に魔法を使われたらたまったもんではない。


 そのまま上級神官を手近な椅子に座らせると椅子ごと神官の体が動かないように固定してく。警備の中級神官に『精神支配』をかけた手ごたえからさっするに、上級神官にまとも『精神支配』をかけていたら時間が無くなるかもしくは『精神支配』自体をレジストされてしまう可能性があった。さっきの中級神官のように酸欠状態にして『精神支配』をかければ上手くいくかもしれないが下手に抵抗が強すぎると『精神支配』をかける前に落としてしまう可能性もある。ついでに言えば首を絞めたあとも残る、神官たちは皆詰襟の神官服を着ているから目立たないがこの上級神官は今薄手のネグリジェのようなものを着ているのでそのままだと絞首の痕が見えるかもしれないので、それは最後の手段にとっておく。


 手足を縛られ頭一つ動かすことができなくなった上級神官の前で私は腰紐にぶら下げておいたランプに火を点すと神官たちに合図して上級神官のずた袋の目の部分を切り取らせる。上級神官は突然視界に入るランプの火に驚きうめき声を発しながら目を瞬かせる、やがて光に目がなれてきたのかゆっくりとこちらに視線をよこしてきた。今上級神官は頭を固定され、ずた袋に視界を阻害され目に入れられるものは私の顔とランプだけのはずだ。上級神官の瞳には怒りと恐怖、そして困惑が浮かんでいる。


 「始めまして上級神官さん、私は貴方のお名前を存じませんし知る必要も無いので今後はこう呼ばせていただきます」

 「ヴヴぉヴヴぅぉ?」

 「どうしました?確かに私をつれてきたのは貴方たちなので貴方達からすれば始めましてではないのかもしれませんね」

 「ヴヴぉヴヴぅぉブブブぉ!?」


 あれ?おかしい上級神官の瞳から怒りと恐怖が薄くなり変わりに困惑が強くなってくる。それは私が喋るたびに増えていくようだ。これってひょっとして…


 「私の言葉、上級神官に通じてる?」

 私は傍らに立つ神官Aに問いかける。

 「いいえ、通じていません」


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