15.変形、魂運用
魂が抜けた下級神官をそのまま吊るし上げ、確実に死んだことを確認すると下級士官の体を落としふわふわ飛んでカンテラを掲げたままの死体(暫定)の首に降りた。
門番だった下級神官その1とその2は死んだ。今までのように『精神支配』をかけたのでは無く、『魂狩り』で魂を抜き取ったのだ。二人の魂は私の体の中に取り込まれた。もちろん『精神支配』で自分の駒にする事も可能だったのだがこれから本拠地に乗り込んでいくに当たって私はこの居住区にいる人間の魂を片っ端から狩って行くつもりなのでいざ『魂狩り』をしようとした時に上手く技能を使えないと困ると思い、この二人で試験起動してみたのだ。中級神官と奴隷を使って二人を分断し一人づつ不意を付いて狩って行ったのでほとんど騒がせずに狩ることができた。
ちなみに奴隷はここまでくる居住区の片隅の道でわめいて暴れていたので静かにさせるために『精神支配』をかけて大人しくなせた。『精神支配』のかかり方が今までの下級神官と少しおかしい気がしたのが気がかりだったが、ほっとおいて『精神支配』が解けて私の事を誰かに伝える事があると困るかと思い連れて来たのだが、ペンダントを隠すために布を頭から被っていても不信がられ無かったし、下級神官その1が奴隷をちらちら見てくるので布の隙間から『精神支配』もかけやすかった。さすがに目線を合わせてかけた訳でもないのでかかり方は中途半端だったが後は奴隷が上手く連れ出してくれたので、案外いい仕事をしてくれた。
下級神官二人を手にかけて分かったことだが『魂狩り』の条件は相手に触れている事で、発動難易度を下げるためには相手に体に深く触れたり、相手の精神や意識が不安定な状態であると良いらしい。後者の条件は『精神支配』と同じなので相手の魔力の強さなども『魂狩り』の発動難易度を上下する要因になるだろうと予想される。
死体(暫定)の首に戻ってきた私は体を40型円形蛍光灯からジャラジャラと飾りの多いネックレスに変形させる。傍から見ると下級神官がでかいネックレスをしているという変な図になるが40型円形蛍光灯よりネックレスの方が首に落ち着く座りがいいのである。
出来るならもっと目立たない服の下に紛れ込めるようなデザインに変形したいのだが、この形状へ変形すとという『精神支配』が強かったせいか他の形状に変形しようとしても出来なかったのだ。更に言うなら、どうも基本的な体積を変えることもできないというファンタジーにあるまじき物理的な障害にもぶつかった。そんな訳で私は現在40型円形蛍光灯形態とごついネックレスの2パターンを行ったりきたりしているのだ。もし他の形状になるのなら強いイメージを持ってもう一度『精神支配』をかけるしかないのだが今はそんな暇もないだろう。円形のでかい飾りにいくつかの針がぶら下がっているというなんとなくエジプトの偉い人がつけていそうなデザイン―体積のあうデザインを思い浮かべたらそれしか出てこなかった―は色黒でグラマラスな奴隷には似合っていたし、ふかふかとした胸の上は大変居心地が良かったが、いくら『精神支配』していても他人の首にぶら下がっているのは中々に落ち着かないもので死体(暫定)の首に戻ってきた私はようやっと人心地付くことが出来た。
『魂狩り』を経て私の中に魂が増えたわけだが、それによって分かった事を順番に説明しよう。
本来ならば私がソウルイーター体と死体(暫定)の体を両方を操る場合、互いの体を近づけて―今までは首にぶらさげて両手でつかんでいた―魂を分割し、死体(暫定)を歩かせる、ソウルイーター体を光らせる、程度の行動を可能にしていた。もし本格的にどちらかを動かそうとすれば片方の体には魂が無い状態になるので私達は唯の切れた40型円形蛍光灯と地面に転がる死体(暫定)に成り下がる。特に死体(暫定)の方は体から私が抜けるとそのまま肉体が死んでしまうので基本的には私は死体(暫定)の方にいてソウルイーターの体を動かしたい時は必要以上死体(暫定)から離れる距離と時間が少ないようにしていたのだが下級神官のその1の魂を狩った時に私には体の中の魂を吸収し自分の魂の総量を増やすことが出来る事に気がついたのである。というよりも『魂狩り』を行うと狩った魂はそのまま私の燃料か何かになって吸収されると思っていたのでまったく変化の無い私の魂に疑問を生じてまた自分自身に『観察・考察』をさせたのだ。その結果―
ソウルイーター:『チェノボグの使い』
残存魂:2
技能:魂狩り・精神支配・観察・考察
特性:魂吸収・魂運用・肉体運用
なんかレベルアップした感じになりました。
私自身は特別、出来ることが増えたような気がしないのできっともともとあった能力が条件がそろったか何かで開示されるようにになっただろうが、基本操作の取り説も無ければ、操作リモコンも無い体なので能力の名前だけでも分かるのは大変ありがたい。
『肉体運用』というのは恐らく変形のことだと思うのだけど『魂狩り』とは別に『魂吸収』と『魂運用』がある。
技能というのはスキル的なものだとすると特性というのはなんだろう?技能と別にしてあるということは特性とは技能とは別にもともとあるソウルーター本来の特徴ということだろうか?たとえば猫は爪が出したり引っ込めたりできるとか、人間は声帯を収縮させて多彩な音階を出すことができるとか。ならば手足を伸ばすように特性を使用できるはずである。
ではまず『魂吸収』からやってみよう、私は私の中にある私とは別の魂の存在を探し出す。その魂は私の魂のすぐ側に落ちていた。『魂吸収』が特性ならばきっと思うようにすれば『魂吸収』ができるはずだ。そう思い私はその魂にイメージの中で牙を立て、喰べた。
喰べきった後の私の中には私の魂が一つだけ、一回り膨らんだそれが浮かんでいた。なるほど、こんな感じなのだなと私が納得すると、今度は『魂運用』だ。なんだか『運用』とか言われると資産かよとか思うが、まあきっと私が死体(暫定)に入ったり、ソウルイーター体と魂を別けたりしていることじゃないかと思う。
つまり私は本来なら何も考えずにできたであろう体の変形や魂を別けたり移したりをわざわざ『精神支配』まで持ち出して行っていたのだ。なんだか盛大に遠回りをしてきた気分だがきっとこれは私が転生者であることの弊害なのだろう。前世も何も無く私がソウルイーターとして生まれてきていれば自然に分かるであろう事が現代知識と常識をもってまま転生してきてしまったため、それらが邪魔してソウルイーターの自分を自然に受け入れる事が出来なかったのだ。げに恐ろしきは思い込み。しかしそれも次第に慣れることで緩和していくことが可能だろう。なにせ当初はいちいち『精神支配』を繰り返してソウルイーター体と死体(暫定)とを『魂運用』していたが、気がつけば『精神支配』のステップを省略して私は互いの体を行ったりきたりしているのだ、この調子で行けば『肉体運用』も自由に姿を変えるように慣れると思う。しかし、今のところ転生特典をマイナス効果にしかつなげていないのは、悲しい話である。これがラノベやネット小説なら3行ぐらいで常識を捨てて異世界に順応できるであろうに、現実はそんなに甘くは無い。