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12.神様と作戦会議

 「居住区の様子はどうだった?」

 戻ってきた中級神官Dに質問した。それいかんによってこれから私達が取れる方法が変わってくる。


 「もう遅い時間だったので休憩や補給のために戻ってきている神官が多かったです」

 「全体の何割ぐらいが戻ってきている?」

 「6割ぐらいかと思いました」

思ったより多いな…


 「このまま私が見つからなければ神官たちはどうすると思う?」

 「代わりの『チェノボグの使い』の器を立てるかと思われます」

 『チェノボグの使い』か・・・そういえば私達が3人を罠に嵌める前に、そんな事を彼らが喋っているのが聞こえていた。


 「チェノボグとは何?」

 「死の神です」

 「死神?」

 「いいえ、全ての死を司る神で、我々の派閥が信仰している神です」

 こいつら死神を祭っているのか…別に死の神が悪いわけではいけど…なんだろう、すごく邪神教くさいと思うのはきっとこいつらが生贄を使う儀式とかをしていたせいだろう。死の神が悪いわけじゃない、こいつらが悪い。それに死の神は大体生の神とついになって始まりの神様にあたる事が多いし。


 「派閥?他の神を信仰している派閥もあるのか?」

 「王都には我々のほかにも生命の神や豊穣の神を信仰している派閥もあります」


 王都ということはこの国は王国らしい、そして多神教なんだろう。追々聞いてゆくと基本的には同じ神々を信仰しているが地域性や集団によって主立って崇める神が違うようだ。そして彼らは死の神を崇めていると。


 「では『チェノボグの使い』とは何?天使のようなもの?」

 「『チェノボグの使い』はチェノボグの使いです。チェノボグのかわりに現世へ降り立ち魂を間引く(・・・)のです」

 「間引くというのは死んだ人の魂を連れて行くということ?」

 「いえ、命の炎を燃やし尽くした以外での死、その事全般を我々神官はチェノボグに間引かれたといいます」

 つまり寿命以外で死んだものは全部死の神に間引かれた(・・・・・)という解釈なのか。間引くはなんという意味だったかな確か―


間引く:元来は植物を栽培する際、苗を密植した状態から、少数の苗を残して残りを抜いてしまう作業のこと。転じて、増えすぎたとされるものを人為的に減らす意味。


 久しぶりにウィキ機能が来た。これの発動条件がいまいち分からないけれど便利なのでほうっておこう。

 つまり病気や事故など外的要因での死は彼らにとっては他の命を成長させるために神がとった行動で、運命のようなものだという解釈であるらしい。まあ、結局の所『チェノボグの使い』とは死神のようなものだと思っておけば良いだろう。


 「つまりソウルイーターは貴方達の言う所の『チェノボグの使い』ということだな?」

 「ソウルイーター?」

 おや?

 「ソウルイーターという言葉に聞き覚えは?」

 「ありません」

 どういうことだろう、私は確かにソウルイーターのはずだ、そして彼らによるとこの洞窟には『チェノボグの使い』という死神が封印されているという。『チェノボグの使い』は洞窟とその洞窟周辺に圧力(プレッシャー)を発生させ動物や人を遠ざけていたが、私が目覚めると圧力(プレッシャー)はきえてしまったという。圧力(プレッシャー)が消えたのは謎だがタイミング的にどう考えても『チェノボグの使い』はソウルイーターだ。


 仮に彼らがソウルイーターと『チェノボグの使い』を別のモンスターと認識していたとしてもソウルイーターを知らない理由にはならない。なら…


 私はローブの内ポケットに入れていた携帯を取り出し顔の前で開く。電源の入らない携帯の画面に写る死体(暫定)と40型円形蛍光灯に『観察・考察』を発動させる。


人間:日本人:異世界召喚者:死体(暫定)

ソウルイーターに使役されている魂の無い人型の肉


ソウルイーター:『チェノボグの使い』

技能:魂狩り・精神支配・観察・考察

 

 携帯を閉じると体をひねり祭壇室のプールを見つめる。


水:水の祭壇室のプール。儀式的に体を清めるために使用されている。水源は地中から湧き出る清水。


 『観察・考察』を使った時の情報が更新されている。これは私自身が後々知っていった情報によって更新されているのだろうがやはり私の情報にはソウルイーターの文字が入っている。この『観察・考察』の技能は私の思い込みまで反映されるのだろうか?いや、私は『観察・考察』を使うまで自分がソウルイーターだとは知らなかったのだ。だとしたら私がソウルイーターなのは間違いないだろう、そして『観察・考察』が私の思い込みを反映するものでないのなら私は『チェノボグの使い』、もしくは彼らに『チェノボグの使い』だと思われている存在であることもまた間違いないのだ。


 なら深く考える必要は無い。私がここの洞窟にいた『チェノボグの使い』。それだけでいい。彼らがソウルイーターの名前を知らなかったのは単純にこの王国ではあまりメジャーじゃない名前ではないというだけかもしれない。もしくは異世界転生者の私のために分かりやすい名称がつけられてるだけなのかもしれない。

 全て推測の域を出ないが、ここでこれ以上考えても無意味だ。それよりももっと確認することがほかにある。


 「代わりの『チェノボグの使い』の器を立てると言っていたけれど誰が代わりになるんだ?」

 「今のところまだ正式に決まっていませんが恐らく新しく入った奴隷になる予定です」

 「その新しい奴隷とやらは上級神官のお気に入りなのか?」

 「今のところまだ誰のお気に入りにもなっていません」

 「どんな外見をしている?」

 「髪は白、身長は140cmぐらいでしょうか」

 異世界なのに単位は変わらないんだな、いや、そうじゃない。

 「ずいぶん小さいが・・・・」

 「まだ子供なので年相応の身長だと思います」

 なるほどまだ誰のお気に入りにもなってないはずである。

 「ちなみに他の奴隷も同じような年齢なのか?」

 「いえ、ほかは大体20台前後です」

 それでも十分若いけれど。とりあえず、こいつらがロリコンの集団じゃなくって安心した。


 ともかく140cmの子供なら私が奴隷になりすまして上級神官の元まで行くのは不可能なのが良く分かった。お気に入りの奴隷じゃないのなら顔も覚えられていないだろうから入れ替わることも出来るかと思ったのだがさすがに140cmの白髪の子供に170cmの黒髪の人間が成りすますのは無理がある。

 いや、そもそも上級神官は私を探しているのだから成りすます必要はないのでは?


 「もし今私があいつらに捕まえられれば儀式とやらは何時になる?」

 「明日の明朝に再開されると思われます」

 「それまで私はどんな扱いになる?」

 「手足を拘束して見張りを立てられると思います」

 「看守に暴行される可能性は?」

 「長時間探索にまわされてが立った者が多いので高いと思います」

 「拘束されて上級神官と一対一でもしくは一対複数程度で対面できる可能性はあるか?」

 「低いと思います。朝が早かったので上級神官のほとんどはもうお休みになられている方が多いと思いますし、明日の朝からなら上級神官と対面できるのは儀式の最中のみになります」

 「儀式に参加する神官の数は?」

 「上級神官全員と中級神官5名です」


 わざとつかまって上級神官を機を見て『精神支配』をかけることは難しそうだ。

 だとしたらもう出来ることは正面突破しかないな。ならば今から準備をしなければいけない。私は腰掛けていた石の台から降りると神官たちに指示をだそうと口を開いて、止まった。


 そうだもう一つ聞きたいことがあった。

 私は中級神官Dに向かって問いかけた。


 「ところでヤンネとやらは何で死んだの?」

 

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