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10.ある中級神官の話

 「無理です」


 それが上級神官を攫えるかどうか聞いた私へのローブの男の答えだった。


 「理由は?」

 「まず上級神官の居住区は私達の居住区とは隔離されているので下級神官の私には立ち入ることができません」

 「上級神官の居住区に入れる人間は?」

 「上級神官本人と上級神官の側仕えとして中級神官との奴隷です」

 「ちなみに私が奴隷に成りすまして上級神官の居住区に入ることは出来る?」

 「出来ません。上級神官の居住区に入れる奴隷は上級神官のお気に入りだけです」

 「お気に入り?上級神官の世話係の奴隷ということでは無く?」

 「上級神官の身の回りの雑事は側仕えとして中級神官の仕事です。奴隷は中級・下級神官たち全ての身の回りの世話をします。その中で見目の良いものが上級神官のお気に入りになり上級神官の居住区に入って上級神官の世話をします」

 「中級神官と一緒に雑事をするということか?」

 「神官と奴隷は一緒には働きません中級神官がする雑事以外の世話をします」

 「…世話?」

 「夜伽です」


 どうしよう。神に仕えるものが奴隷を慰み者にしていると堂々と言われた。この世界ではこれが普通なのか彼らが異常なのか分からない…いや、でも元の世界でも修道とか神職が見目のいい信徒の男の子を手篭めにしいたスキャンダルは結構あった訳だし神官の実態なんてこんなものなのだろうか…?

 

 「ちなみに中級神官が側仕えに選ばれる基準は?」

 「お気に入りです」


 私は思わず頭を抱えた。どうしよう。こいつらの魂を食うのが嫌になってきた。



 攫うことが出来なくても私が上級神官の所まで行く事が出来れば『精神支配』で操れると考えていたが、80人ほどの顔見知りばかりの狭いコミュニティではこっそりと紛れ込むことも誰かに成りすますことも考えてみればどだい無理な話である。


 「さっき、理由を言う前に『まず』と言ったな?他にも理由があるのか?」

 「二つ目の理由は上級神官の部屋には必ず側仕えの中級神官がいるからです」

 「側仕えがいない時は無いのか?」

 「側仕えの神官がいない時は奴隷が夜伽をしている時だけですがその間も側仕えは隣室で控えています」

 「側仕えの一人ぐらいなら不意打ちで無力化することは出来ないか?」

 「中級神官は私達下級神官より魔力が高いものが多いので不意をついても神術で無効化される可能性が高いです」


 魔力…か、そういえばさっきも魔力を持った人間が修業を積んだのが神官だとか言っていた。神術とはつまり魔法のようなものなのだろう。つまり下級より中級が、中級より上級の方が魔力が高いわけで中級神官を何とかすることができても上級神官事態に神術とやらで抵抗されれば、上級神官攫うのも確かに無理そうではある。一人(・・)ならば。


 「さっきこのあたりを捜索している神官は少ないと言ったな。ここから一番近い他の神官が私を捜索している所へ連れて行け、出来れば中級神官がいるところが望ましい」


 一人で出来ないのなら仲間(精神支配出来る人間)を増やせばいいのだ。


◇◇◇


 洞窟の中3人の男達がいた。3人とも同じ緑色のローブを着ているが内一人だけローブに縫い付けられた刺繍の模様が違う。模様の違うローブの男は後の二人と違い中級神官だった。上司一人と部下二人のグループで3人は探索を続けていた、部下の下級神官二人が持つたいまつで洞窟は随分明るい、中級神官もカンテラを手に下げているがたいまつがすでに二つあたりを照らしているのならカンテラまでつけるのは無意味だとおもったのか火は入っていない。石油も綿糸ここでは消耗品だ、節約するに越したことは無い。


 「見つかりますかね?」


 もう何度目かの問いを下級神官が発する。


 「見つけなければ儀式は続けられないだろう、封印は最後の一つを残して解いてしまったのだ。もう一度5年前と同じだけの封印を施すことは不可能だ、もう儀式を続けて『チェノボグの使い』をわれわれの手で起こすしかない」

 「ヤンネ様がまたご健在だったなら…」


もう一人の下級神官がぽつりとつぶやいた。ヤンネとは2年前に逝去された上級神官の名前だった。もともとある程度の年齢が多い上級神官たちだがヤンネはその中でも比較的若い部類で長引く洞窟暮らしの中、いきなり倒れ二日と持たないうちに無くなってしまった。


 「やはりヤンネ様はチェノボグに間引かれてしまったのですか?」


 下級神官の問いに中級神官は苦い顔をした。ヤンネの死因は公表されず上級神官たちの間で秘匿されたが人の口に戸は立てられないもので上級神官の側仕えの中級神官やその友人達の間ではヤンネの死因は公然の秘密となっている。


 「確かに広義でいえばヤンネ様はチェノボグに間引かれたといっても過言ではない」


 下級神官の顔に緊張とわずかばかりのおびえが見える。


 「だが下級神官の間で噂されるような事ではない。神官たるものが神の祟りにおびえることこそ神に対して不敬であると肝に銘じておけ」


 中級神官は自分の顔の中で一番いかめしい表情を顔に浮かべ下級神官をたしなめながら、こっそりとため息を吐いた。何故俺はこんなことに苦心しなければならないのだろう。ああ、もう言えるならばすっぱり言ってしまいたい。ヤンネ様は自分の採ってきた洞窟の奥に自生していた茸に中って死んだのだと!


 「所でさっきから圧力(プレッシャー)を感じなくなってきてるような気がするんですがこれは何ででしょう」


 心の中で悪態を吐いている中級神官に、下級神官が問いかける。


 「ああ、恐らくだが『チェノボグの使い』の圧力(プレッシャー)から守るために簡易的に上級神官が結界を張りなおしたのだろう。このままあの男が見つからなければ次に『チェノボグの使い』の器に出来るのはあの新しく入った奴隷ぐらいなものだからな」

 「奴隷ですか…あの男みたいに逃げませんかね?」

 「隷属印があるから抵抗は出来ないだろう。精神が不安定な場合は薬を使う事も考慮に入れてある、出来れば使いたくは無いがどちらの意味としても最後の手段だな」

 「奴隷ですか、今いる奴隷でまともに話が通じるのがあれだけだからなるべくその最後の手段は使いたくな…あっ」

 「どうした!?見つけたか?」


 中級神官が下級神官の見ていた方向へ視線をのばすと洞窟の左右に分かれる太い方の道に緑のローブが倒れているのが見えた。

 あわてて駆け寄った下級神官がゆすり起こすが反応が無い。ローブのフードが頭までかかっているので一体誰かは不明だがローブの刺繍から下級神官だということが分かる。

 この洞窟には人を襲う動物はおろかねずみ一匹住んではいない。下級神官本人以外の意思で道の上に倒れているならそれをやったのはあの男以外にいないことになる。中級神官はその場を下級神官にまかせ道を戻り細いほうの枝道を覗き込んだ。下級神官の一人から借りたたいまつで道の奥を照らすが誰かが潜んでいる気配はなった。

 ほっとして下級神官の元へ戻ろうとしたとき、視界がぼやけるほどの近距離を白い何かが落ちてゆく、思わず状態をのけぞらせようとしたが首を何かに阻まれてバランスを崩してしまう。その何かは体勢を崩した体にぴったりとくっついてきた。首を阻んだ何かを認識する前にその何かに勢いよく首を吊られ中級神官は意識を失った。

まさか作中一番初めに出てきた人名がもう死んでいるモブになるとは私も思ってもみなかったです。

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