強者の探索
更新は自由気儘です。書いてる途中で上げることも普通にしますのでそこはご了承ください。
人気の無い路地裏に黒いローブに身を包みフードを深く被った少年が目の前にいる男を痛めつけていた。
「ひっ…や、やめてくれ!そ、そいつがお前の女だったんなら謝る!許し……」
「……弱っ」
ポツリと一言呟き、表情一つ変えずに男の首を赤と黒で染め上げられた刀で切り飛ばした。
切り飛ばした後、刀に付いた血を払い腰にある鞘に戻しその場から消えようとしたとき後ろから声をかけられた。
「た、助けて下さってありがとうございました」
ぺこりと礼儀正しく腰を折る少女。
少年は足を止め助けたと勘違いしている少女の方に視線を向ける。
「勘違いだ。俺は強い奴を探していただけだ……無駄足だったがな」
「そ、それでも!わ、私はあなたに助けて頂いた恩を返したいのです。何かありませんか?」
勘違いを解いても礼をしたいと言う考えを変えない少女を見て、少し考えた後、一つ望を口にした。
「強い奴を知らないか?知っていたら教えろ」
「つ、強いお方ですか……?」
「知らないなら構わない」
今度こそ、その場から消えようとしたとき少女は声を張り上げて、少年の足を再び足を止めた。
「こ、この【アルケイル】には騎士様がいます!その騎士団の隊長様なら強いのではなでしょうか!?」
少女の話を聞いて、少し思考を巡らせると軽く頷く。
「騎士団の隊長か。なるほど、強い奴の可能性は高いな。これで礼は済んだな」
「は、はい。あ、あの…?」
「なんだ?」
少年から反応があったので少女は勇気を振り絞り自分の望を口にした。
「お、お名前を教えて下さいませんか?」
「アヤト」
それだけ呟くと少年の姿は目の前から消えた。
残された少女は聞き取れた名前を忘れないよう心で反芻していた。
☆☆☆
少女の元から姿を消した、アヤトと名乗る少年は今、建物の屋根の上を走り抜けていた。
しかし、誰一人としてアヤトが屋根の上を走っていることに気づかない。いや、アヤトの走るスピードが速過ぎて気付けないのだ。
そんな重力を無視した走りでアヤトは目的地である強者のいる騎士団の駐屯地に向かっている。
それから走るスピードを維持すること数分、アヤトは騎士団の駐屯地前で足を止めた。
「な、何者だ!」
いきなり現れた様に感じたのか門番である騎士が手に持っている槍を構えてアヤトのことを警戒している。
「……」
そんな門番を無視して門を通り抜けようとするアヤト。その態度に騎士は怒りを爆発させ無礼者であるアヤトに鋭い一撃を向けた。
「騎士を無視するとはいい度胸だ!何処の誰だか知らんが無礼者は排除する!」
「遅い」
しかし、さっきまで目の前にいたアヤトは陽炎の様に姿を消すと門番の後ろから声をかけた。
「なっ!?い、いつの間に後ろに!」
「…弱者には興味はない」
「な、なんだとっ!?……って貴様!また無視する気か」
さっきの出来事を無かったかの様に再び歩みを進めるアヤトに怒鳴り散らす門番。この数分の騒ぎに気付いたのか駐屯地の城から数人の騎士を引き連れた金髪の少女が現れた。
「一体なんの騒ぎですか?」
「ア、アリエス様!こ、この無礼者が門番である私を無視し門を潜ろうとしたので、その行動を阻止しようとしたからであります!」
現れた少女を様付けで呼んだ門番が驚愕な表情で今の状況を簡単に説明した。説明を聞いた少女はアヤトの方に視線を向ける。
「貴方は、何故騎士の駐屯地にやってきたのですか?」
門番とは違いアリエスは冷静にアヤトの目的が何かを質問した。勿論、アヤトの目的は一つである。
「ここにいる強者である騎士団の隊長に戦う為だ」
アヤトの目的を耳に入れた周りの騎士達がざわめき始めた。それをアリエスは一言で沈め目を鋭くしてアヤトを見る。
「皆静かに!……理由はわかりました。いいでしょう、騎士団の隊長である私、アリエス・エルリヤードが貴方と戦いましょう」
騎士団の隊長の存在が女だと知ると、アヤトはガッカリしたのか分かりやすく、ため息を吐き出した。
「……騎士団の隊長はその女なのか」
アリエスを侮辱するような態度に騎士達は再び騒ぎたしたのだがさっき同様に一言で騎士達を沈めるとアヤトに向け殺気を向ける。
「ええ、いかにも私が騎士団の隊長ですが。隊長が女では何かまずいでしょうか?」
「なるほど、力を隠していたわけか。戦意があるなら戦うまでだ」
次の瞬間、アヤトは俊足でアリエスの懐に飛び込み初手で決めるつもりで赤黒い刀を抜刀したが何かに防がれていた。
「私に初手でこの剣を抜かせるとは貴方は本当に只者ではありませんね」
抜刀を防いだのはアリエスの髪と同じく黄金に輝く大剣であった。アヤトはアリエスの使う武具が宝具と知ると一旦距離を取った。
「それと、私の剣で防がれて貴方の武器が破壊されないということは宝具なのでしょう?」
「……ああ、そうだ」
アヤトは静かに頷くとアリエスは周りの騎士達をこの場から遠ざける指示を出した。
「皆!この場から避難しろ!」
「しかし…」
「口説い!この者は宝具使いなんです。相手が出来るのは同じく宝具使いなのです」
「わ、わかりました…」
騎士達はアリエスの気迫に押され指示に従いこの場から身を引いた。
「同胞が引くのを待って頂きありがとうございます……えっと、貴方の名前は?」
「……アヤト。始めるぞ!」
アヤトが自分の名前を告げた瞬間、アリエスの目の前まで移動し抜刀した。しかし、またしても黄金の大剣に防がれると、そのまま押し返すようにアリエスは大剣を振るった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
「…デタラメな力だな」
アヤトは受け流しながら距離を取る。お互い構え直したと同時に今度はアリエスの方から攻める。
「今度は私が攻める番です。受けてみなさい」
そう言って、アリエスは自身より巨大な大剣を難なく上段に構えるとその場から消えた。
「…速いが。まだまだだな」
「なっ!?私のスピードに完全についてこれているのですか」
アリエスが驚愕の表情を浮かべる理由は、アヤトが少女の攻撃を圧倒的な余裕を持って回避したことにある。
そこでやっと、アリエスはどんなに足掻いても目の前にいる少年に勝機がないことを悟ってしまった。
手元の宝具が地面に落ちる。次の瞬間ドスーンっと音を立てて地面が陥没していた。
常人が見たら自分が夢を見ているのだと錯覚するだろう。
アヤトは、戦意を失ったアリエスを見ると赤黒い刀を鞘に収める。
「お前はまだ強くなれる。その時は必ずお前を殺す」
それだけ呟くとアリエスに興味を失ったように騎士の駐屯地から出て行こうとする。
アリエスは慌ててアヤトの後ろ姿に疑問を投げかける。
「な、何故私を生かしてくれるのですか?」
アヤトは振り向かずにアリエスの疑問に答えた。
「俺より強くなれそうな奴には一度だけチャンスを与えてやると決めている。それだけだ」
「そ、そうなのですか……。最後に一つ良いでしょうか?」
「…なんだ」
「もしかして、貴方は1年前の【勇者】ではないですか?」
「ふっ、違うな。あんなのは勇者ではなく、ただの偽善者だ」
つまらなそうに呟くとアヤトは一瞬でその場から陽炎の様に消えた。
☆☆☆
目的であった騎士の駐屯地を出てると、また屋根の上を走るアヤトは少しばかり苛立っていた。
そこに声をかけるものが現れた。
『ふふ、主人様よ。珍しく苛立っているようじゃの』
凛とした声の持ち主は10から14歳くらいで、艶のある黒髪を腰まで伸ばした美少女だった。
平然とした表情で走り続けるアヤトは、隣を飛んでいる美少女に愚痴を零した。
「ふん。久しぶりに勇者なんていう偽善者の塊だと思われれば腹が立つ。それより、何故出てきた【ルシファー】」
【ルシファー】。明けの明星、光をもたらす者と呼ばれる悪魔の名前。色々な説はあるが天使の長であったルシファーは創造主である神との対立により堕天したと言われている。
「つれないの。儂は堕天使であるが一人の女としても扱って欲しいものじゃ。好意を持っている殿方に会いたい理由が必要なのかの〜」
可愛らしく頬を膨らませ怒る堕天使にアヤトは平然と対応する。
「…そうだな」
その一言が嬉しかったのか堕天使はニヤけるのを我慢している様子だった。
「あ、主人様がデレたのじゃ!今日は儂を抱いてくれのじゃな」
「抱かない。お前は何故俺の世界の言葉を知っている?今更だがその服装もだがな」
隣を飛ぶルシファーの服装は日本の伝統的な着物姿だった。黒を基調として、赤い帯を締めていて背中の方でリボン様に結ばれていた。