ヒロインという女を憎まずにはいられない
心身ともに疲れていたのか、練習がてら書いたものですがものすごーーーく暗い話になっております!
婚約破棄の断罪の話、狂った女・処刑・血の表現などなどデス。
ハッピーエンド推奨!な方は救いなしなので胸糞悪いと思います・・。
やめろ!!彼女に向かってなんて口をきいている!!
男爵令嬢如きが王太子殿下の婚約者でもある侯爵令嬢に意見するなどなんて無知な!!
やめろっ
やめるんだ!
やめてくれぇぇーーーーっ!!!
そう、いくら叫ぼうともただの無音。自分の声なのに私自身にも聞こえないし、何の音すらも聞こえない。
暗い・・くらい所から、私は自分自身の事をまるで第三者の様に眺めて居る事しか出来なかった。
「王太子の婚約者だからと言ってやって良い事と悪い事・・・侯爵家のご令嬢はそんなことも知らぬのか?」
この国の第一王子で次期国王でもあるフロスト殿下が冷酷な目で見下ろしているのは、彼の婚約者の侯爵令嬢を始め、殿下の学友の婚約者の令嬢達5人。
その中には私の婚約者でもある彼女の姿もある。
「かわいそうに・・・ジュリエッタは私達には迷惑がかかるからと1人耐え忍んでいた。何か申し開きはあるのか!!!?」
殿下に寄り添う儚げな男爵家令嬢ジュリエッタ。淡い栗色の髪と子猫の様な庇護欲をそそる瞳、最初こそはどこにでもいる平凡な女と思ったのに・・・いつの間にか私達が愛しんでしまう最愛の女性となった。
「お言葉ですが殿下、やっていないものは何を言われようと認める事は出来ませんわ!わたくしも、ルーチェ様もユーリカ様もアビー様もイオン様もエリーゼ様も決してそのような愚かな行いはやっておりません」
近衛騎士達に捕縛され広間の中央で押さえつけられているのに、彼女たちは何と傲慢で――――なんて、凛々しく美しいんだろう。
「黙れ!!この期に及んで見苦しいぞ!!」
普通なら証拠を提示したうえで断罪していくものなのに、この時のこのおかしなやり取りは茶番としか言いようがなかっただろう。
「証拠もなくそのような事を言わ―――」
「黙れと言ったのが聞こえなかったのか!愛らしく可憐なジュリエッタがお前たちにやられたと言っているのだ!」
きっぱりと言い切る侯爵令嬢コーラン嬢の言葉に続くように、他の令嬢達も強い意志を持った瞳で私達を見上げている。
それでも、その時私達はそうするのが当たり前の事だと言う。
殿下が断罪しているその背に守られる様にいる儚げな彼女はハラハラと涙をこぼし、恐怖を思い出したのか震えている。
「ジュリエッタ・・・怖がらないで、大丈夫。私達が付いているよ」
「そうさ、ほら殿下が君の事を守ってくれる」
「殿下だけじゃないさ、俺達だって君の事は命を懸けて守るよ」
「涙を拭いて、愛しいジュリエッタ」
「涙は似合わない」
「ひっくひっく・・・う、みんな・・・」
そういって甘くささやき支えてあげれば、ジュリエッタはふんわりと朝露に濡れる薔薇のごとく可憐な笑みを私達に見せてくれる。
彼女だけを見て居たいのに、何故―――――
一体どうして・・・
私は、ジュリエッタに愛をささやきながらも・・・
どうしてジュリエッタを虐めていた憎らしいあの婚約者の事が気になって仕方ないのだろう・・・???
そんな疑問を抱きながらも、私達に安心したようにすり寄ってくるジュリエッタに愛しさと安堵――――――と心の奥底から湧き上がってくる、この嫌悪感。
何だ、何かを忘れている・・・。
一体何を・・・?
心の奥底で誰かが何かを叫んでいる。一体それがなんなのか、訳も分からず時間だけが過ぎていく。
「もういい!!お前たちの処罰は確定している!処刑だ!連れて行け!!」
「殿下!!!」
近衛に引きずられる様にして連れて行かれるその令嬢達。今日のパーティーは始めから彼女たちの処罰の場だった為に全ての準備がされていた。
少し高い位置にあるバルコニーから処刑台を見下ろす。彼女たちは諦めたのか、全員顔色は悪いが己の足で断頭台までの道を歩いている。
最初にフロスト殿下の婚約者だったコーラン嬢。
次は騎士団長嫡男のジュライアの婚約者だったエリーゼ嬢。
外交大臣子息のサフィアの婚約者だったルーチェ嬢。
そして、私の婚約者だったユーリカ嬢。
「?」
彼女は一度私の方へと向き直った。
青白い顔をしている彼女と視線が絡むと、何故か胸が締め付けられる様に痛い。
「フローさまぁ、わ・・わたし、もうこわいっ。まだ終わらないの?」
「ん?あぁ、さっさと処罰を終わらせよ!」
一瞬の様なその時間に、ジュリエッタの愛らしい声が急かす様に殿下を呼ぶ。
「?・・・?!」
殿下の声にハッとしてジュリエッタを見ると、小刻みに震える華奢な肩、両手で覆ったその愛らしい手の下に、とても醜く歪んだ笑みを浮かべていた。
そして―――。
「や・・・やめろ!!処刑を止めろ!!」
「えっ、サリスト様?!」
私は叫びながら、私に手を伸ばしてきたジュリエッタの手を振り払ってバルコニーを飛び出した。
そうだ、そうだった!何故私は忘れていたんだ!!!
「ユーリカ!!私のユリー!!」
一歩間に合わず、断頭台の階段を駆け上がった私の目の前で私のユーリカの首が落ちた。
「ゆ・・・ユリ・・・ユリー?何故だ・・・あぁぁぁ」
彼女の血で汚れるのもそのままに、私はユリーを急いで抱き上げる。
私が呼びかけるとユリーは何度かその瞳を瞬かせ、笑みを浮かべて逝ってしまった。
「私を残していくなユリー!すまない、愛してるっ、君だけしか愛せないんだ!ユリーーーっ!!」
ユリーの血で真っ赤になりながらその亡骸に縋りついて大泣きする私に、残りの処刑を待つ身だったアビー嬢とイオン嬢も彼女たちの婚約者が慌てて駆けつけてきたことにより抱き合って泣き崩れる。
「アビー!!」
「シェルさまっ」
「イオン!イオン!僕はどうしたっていうんだっ」
「あぁ、元に戻ったのね!マーカス!」
バルコニーの上には、無表情で号泣する殿下に、唇を血が出るほど噛みしめているジュラ、サフィアも焦点の合わない瞳で止めどなく涙をあふれさせている。
「な・・・な、何よこの茶番!!こんなのゲームにはなかったわ!!」
騎士達も処刑の見学人達も静まりかえる中で響いたのは、清楚で優しく守ってあげなくてはいけない気にさせるジュリエッタ。
「フロー様?フロー様!どうしちゃったのよ!ここで“悪の華は散った、私だけの至高の花は君だよ”って・・・まだ2人処刑が残っているから?ねぇ、早く終わらせてよ!さっさとあの2人を殺してよ!!」
ただ無邪気に、それでいてとても楽しそうに・・・何を言ってるんだこの女は?
最初の出会いは政略結婚だったとしても、コーラル嬢はフロスト殿下が愛したただ一人の女性で、彼女も殿下の為だけに頑張ってきた淑女の中の淑女だ。
政略結婚が主な貴族世界で、他のみんなも決められた中で愛情を育み、家の思惑と愛情とを手にした珍しくも最高の婚約をしていたのに・・・これを、私達の幸せを壊したのはこの女か!!!
壊れた人形の様にゆっくりと、キーキー喚くあの女の方を向く私に殿下たち。私だけではなく、殿下たちの瞳にも明らかに憎悪の炎が揺らめいている。
「この・・・この魔女を捕えろ!!」
縋りつこうとするあの女から距離を取り ――まるで悲鳴のような声で―― 殿下が出した命令に、騎士たちは何かに気が付いたかのように目を見開いてすぐ憤怒の表情を浮かべてあの女を取り押さえる。
「きゃぁ!な、なななによ!私はジュリエッタよ!この世界のヒロインよ!!こんなことをして済むと思ってるの?!」
漸くすべての異常を察したのか、民衆の間にもざわざわとした余波が広がっていく。
「ちょっ・・いやだやだやだやだやだぁぁぁぁ!!!!こんなストーリー知らないよぉ!!私は乙女ゲームのヒロイン様よ!!!お前たちの様なモブは私の思い通りに動いて私だけを崇めていればいいのよ!!!」
私達は一体何を見ていたんだろう。愛おしい者を遠ざけてその命を己の手で散らして―――・・・いや、分かってる。
そう、すべて手遅れなのも・・・でも、それでは最愛の女性を奪われた私達の気持ちが収まらない。
「ユリー・・・来世こそは一緒になろう」
徐々に熱を失っていく彼女に最後の口づけを落し、私は彼女を抱きしめたまま断頭台より飛び降りた。
遠くで悲鳴と私を呼ぶ声が聞こえたが、ユリーのいない世界になど最早未練はない。
“ヒロイン”?“おとめげーむ”・・・・ゲーム?
貴様のゲームで最愛の彼女を殺されてたまるか!
許さない。許さないからな、魔女め!!
その後、あの女に下されたのは城の地下の最奥にある神殿での“神の怒り”という永遠に続く拷問と幽閉。
あの後、あの女が死にたくても死ねない苦痛の中でどれほどのた打ち回ったか、そんなこと私は知らないし
―――――――――どうでもいい。
いつもは自分の文章に自信がなくって親友にチェックを入れてもらってから投稿するのですが、中々会えないためそのまま投稿。
久々の投稿がこんな感じの話で申し訳ないです。
出来れば批判等は聞きたくないですが、誤字脱字などの指摘はお願いいたします。
次からの投稿はもちろんコメディー系恋愛や面白い(?)話にする予定です!