第5話
夢の中だとはいえその声は余りにも柔らかく不思議な響きを帯びていた。
あの人がふんわりと動いて。
星が瞬く夜の鴨川のほとりで私はあの人に抱きしめられている。
幸せで一杯の筈なのに何故だか涙が止まらくて、それは幸せからくるものではないと自分でもわかっていた。
目が覚めたのは夕方の5時だった。
授業をサボって帰って来たままの格好で、私は6時間も寝ていたことになる。
我ながらよくよく疲れていたらしい。
起き上がった時部屋の鏡に自分の姿が映った。
その時気付いたのだけれど、どうやら私は実際に涙を流していたらしく、目が真っ赤で頬には涙の筋がくっきりと残っていた。
今日は全くよく泣く日だな、と一人苦笑いを浮かべる。
こんな顔じゃ外に出ることもできない。とにかくまずはシャワーを浴びて、
それから夕食の材料でも買いに行こうか。
けれども全く食欲なんてなかった。
あんなに眠った後なのに体がだるくて。
結局シャワーを浴びてまたベッドに潜り込んだ。
当然眠れるはずもなく、手慰みに携帯を弄っていたらふと、ひとりの友達のことが頭に浮かんだ。
大学には友達と呼べる人はいない私だけれど、高校生のころはごく普通に仲の良い友人はいた。
そして、どんなに辛いときも苦しいときも一緒に過ごして支えてくれていた、友達もいる。
ー葉山夏姫ー
‘夏のお姫様’という名前がぴったりな、綺麗で明るい人だった。
勝ち気で、自分をしっかり持った人だった。
彼女と私は正反対のタイプの人間だったと思う。
共通点は、お互いに‘超’がつくほどの気分屋だといえば、おそらく誰もが、私達が喧嘩の絶えない毎日を過ごしていたと想像するのではないだろうか。
その想像は半分あたりで半分はずれだ。