第4話
『どしたん?いきなり電話なんて』
柔らかに響く声の前で僅かに残ったプライドが涙をせき止めていた。
『別になんもないんよ。ちょっと…疲れたんかしらね-』
震えそうになる声を抑えて私は必死で明るく言った。
つもりだったのに。
『…あいちゃん。京都に帰っておいで。』
なんでこの人にはわかるんだろう。
『あいちゃん、よっぽど疲れとるんね』
なんでこんなにほっとするんだろう。
『お母さんが美味しいもんいっぱいいっぱい作って待ってるから』
なんで涙が止まらないんだろう。
ただただ私は泣きじゃくりながら何度も何度もうなずいた。
以前にこんなに泣いたのはどれぐらい前だろう。
涙は私の胸に溜まっていたいろいろなものを洗い流してくれたかのようだった。
電話を切ったら何だか久しぶりに心地よい眠気に襲われて、私はベッドに倒れ込んだ。大きな波に飲まれるように私は眠りに落ちていった。
深い眠りの中で私は夢を見た。
それはとても鮮明に私の胸に突き刺さるものだった。
夢の中で私はもう京都に帰っていた。
夏の始めの、寂しいような、それでいてどこかワクワクするような空気に抱かれて、私は鴨川のほとりに座っている。
これ以上ないというくらいに強い幸福を感じながら。
顔いっぱいの笑顔で私は隣に座っている人物と話をしている。
少し長めの髪の毛も、薄い唇も、綺麗に通っている鼻筋も少しも変わってはいなかった。
あの人はにっこり微笑んで囁いた。
ーーあいちゃん帰って来るん、ずっと待っててんでーー