第3話
空を見上げていたらなぜだか涙が溢れて止まらなくなった。
私は東京が嫌いで東京の人が嫌いだ。
そう、思っていたけど本当はきっと。
--好きになりたかった。--
そして好きになって欲しかった。
誰かに必要とされたかった。
東京には一人も友達なんていない。
ひとりぼっち。
私のための居場所は東京には無い。
止まらない涙を無理やり止めようと目をゴシゴシこすったものだから、化粧はとれて目は真っ赤だった。
パチン、とコンパクトを閉じて私は笑顔を作ってみた。
頬を無理やり引き上げて目を細めて。
出来上がったその顔はきっと到底笑顔なんて呼べない代物だろう。
だから私は鏡をみない。
見たら情けなくてまた泣いてしまうから。
これ以上泣いたらもう自分を保てなくなるから。
今あたし笑とるんよ。
小さく小さく呟いたらなんだか本当に虚しくなって不細工な笑顔のままわたしは新たな涙を流し続けた。
そのまま私は自分のアパートへ帰った。
大学から自転車で15分ほどのそこはお世辞にも綺麗とは言えない、私に似合いの建物だ。
階段を上がるときすれ違った若い女が私をみて少し哀れむような顔をした。
部屋に入るとムッとした空気が私を包み込んだ。
それはまるで拭いきれない虚しさのようにまとわりついて離れなかった。
靴も脱がずに玄関に座り込んで私は実家へ通じる短縮ダイヤルを、半ば無意識に押していた。
無機質な呼び出し音が2度ほど鳴っただけで私をもっとも包み込んでくれる声が受話器から流れでた。
『あいちゃんやん。どしたん?』
『……おかあさん』
特別仲のいい母娘ではなかった。
高校生の頃はろくに話もしなかった。
それでも離れた土地で聞いた母の声はそのまま乾いた心に染みこんでいった。