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Node3.4:再起への交差点

――そして迎えた決勝戦。JVBL特設センターコート。数万の観客アバターが見守る中、対面には腕組みをして仁王立ちする、Xの姿があった。

「待っていたぞ、お嬢さん!!ここまで上がってくるとは、まさに奇跡!いや、君の魂が手繰り寄せた必然だ!!」


ブザーがアリーナに轟き、決勝の幕が上がる。Xは不敵な笑みを浮かべ、重戦車のような足取りで一歩を踏み出した。その一歩だけでコートが震え、風圧すら感じる。

「さあ、思う存分にかかってきなさい!君の全てを、この私にぶつけてみろ!!」

Xのドライブは、その巨体からは想像もつかないほど雷鳴のように速い。ドッ、と空気を切り裂くようなドリブル音が響く。Xの攻撃は全てが規格外だった。

ゴール下へ強引に切り込み、文字通りリングを粉砕せんばかりの勢いで叩きつけられる強烈なダンクシュート――「ハンマー・スラム」。 リングが悲鳴を上げ、衝撃波がNOVAを襲う。だが、NOVAは怯まない。Xとの練習で培った体幹の制御、そしてQUEEN戦で覚醒した「未来予知」に近い観察眼をフル稼働させる。


「まだ……まだ追いつける!」

NOVAは低い姿勢から、光を置き去りにするほどの―「ライトニング・クロス」―を発動。Xの鋼鉄のようなディフェンスの"死角"――巨漢ゆえの膝下のわずかな隙間を縫うようにして、その懐へ鮮やかに飛び込む。

「ハッハッハ!やるじゃないか!その動き、まさに新星の輝きだ!!」

Xは豪快に笑いながら、不意を突いたリバース・スティールでボールを奪い返す。NOVAも即座に反応し、必死に食らいついてXのドライブを阻止する。1on1。逃げ場のない、純粋な魂の削り合い。

そしてまたXは、羽毛のようにしなやかなユーロステップを披露した。 **右へ踏み込むと見せかけ、空中で大きく左へと進路を切り替える変則的な二歩ステップ。**左右に大きく揺さぶり、ディフェンダーを翻弄するそのモーションは、まさに―「地獄の三段跳び(ヘル・ステップ)」―。

NOVAは必死に腕を伸ばすが、計算されたリズムのズレに、わずかに指先が届かない。

それでも負けじとNOVAはボールを奪い返すが、Xは眼前に立ちふさがる。

NOVAはボールを内側へ持ち込むと見せかけて外側へと弾き飛ばす、鋭いインサイドアウトのフェイントから、後方へと力強く飛び退いて一気にシュートレンジを確保する電撃的なステップバック。全身のバネを使い、ふわりと宙に浮くような高精度のフローターを放つ。ボールは美しい放物線を描き、リングをかすめて吸い込まれた。


残り数秒。スコアは、NOVAの1点ビハインド。遥は、かつての迷いを捨て去っていた。背後に感じる父の面影も、ユウタを失った喪失感も、今は全てが自分を押し上げる力に変わっている。

「これで……決める!!」

遥は、自らの進化を証明するかのように、あえて最長不倒のディープスリーを放つ準備に入った。

――しかし、Xの巨大な影が、太陽を遮るように立ちはだかった。

「甘いぞ、お嬢さん!勝利への渇望は、私の方が上だ!!ガード・クラッシュ!!」

XはNOVAのシュートモーションを完璧に読み切り、天を突くような豪腕のブロックを叩きつける。火花が散るような衝撃。ボールは無慈悲に宙で軌道を逸らされ、そのままXがガッシリとボールを掴み取った。


試合終了を告げる長いブザー。決着。1点差。勝者は、X。

「……負け、ちゃった」

膝に手を突き、肩で息をするNOVA。悔しさはあった。だが、その胸の内を占めていたのは、かつて感じたことのないほど清々しい、

夏の終わりのような解放感だった。全力を出し切った。世界で一番、バスケを楽しんだ。その実感が、彼女の心を温かく満たしていた。

「負けたことは、気にすることはない!お嬢さん!」

Xが歩み寄り、ガバッと親指を突き立てた。

「今の君の目を見ればわかる。敗北は終わりではない、次なる勝利へのプロローグだ!君は、まだまだ、どこまでだって強くなれるぞ!!」

その言葉は、NOVAの胸を熱く震わせた。悔しさの奥底から、もっと高い場所へ行きたいという、純粋な欲求が湧き上がってくる。


ゲーム後、Xは仮面を少しだけ押し上げ、滲んだ汗を拭いつつ豪快に笑い飛ばした。

「ハッハッハ!昔はね、私も夢を追ってバスケをやっていたんだが、つまらん事情で一度はコートから離れた。……だが、この世界がくれたんだ!最高のバスケを、最高の舞台で、最高の好敵手(仲間)を…… ……そうっ!一人では越えられない壁も、仲間となら乗り越えられる!」

その声はどこか懐かしく、しかし絶えず明るい。

「V.B.Lは、何度でも挑戦できる、第二の人生だ!あまり難しく考えるな。


Don't think, just MOVE!!だ。また会おう、お嬢さん!」


ひときわ大きな笑い声とともに、Xは光の中に消えていった。

(やっぱり、お父さん?……あんなに楽しそうに笑うんだ)

遥は確信しながらも、その答えは心の中に大切に留めた。自分もいつか、あんな風に誰かを照らせるプレイヤーになりたい。そう強く願いながら。


◇ ◇ ◇


――季節は巡り、冬。リアルの公式戦、ウィンターカップ地方予選が始まった。

体育館の天井を突き抜けるような大歓声。その熱気の中で、遥は堂々と、コートの中央に立っていた。

(私は……もう逃げない。この小さな体で、最高の景色を掴むんだ)

ゲーム開始のブザー。遥は軽やかにステップを刻み、鋭いクロスオーバーで相手を翻弄する。リム下では、かつてなら絶望していたような大柄なセンターが壁のように立ちはだかる。だが、今の遥には見える。

Xの巨体を前に学んだ「死角」が。QUEENとの死闘で研ぎ澄まされた「リズムの綻び」が。

遥はディフェンダーの腕を冷静に判断し、一歩踏み込みながら、相手の頭上を越える高弾道のフローターを放った。

攻防は続く。そして残り時間はわずか。チームの勝敗がかかる局面。だが、遥は焦らない。V.B.Lで極限まで高められたメンタルの「度胸」と「判断力」が、彼女の視界をクリアに保っていた。

「ここで……繋ぐ!」

遥は鋭いドライブで相手ディフェンス二人を引きつけると、まるでコート全体を俯瞰しているかのように、一瞬で最善の道を見つけ出した。

ディフェンスの意識が自分に集まった瞬間、真逆の方向へ、矢のようなノールックパスを放つ。

味方が放ったシュートが、美しい放物線を描いてゴールへ吸い込まれた。


ブザー。歓声。逆転勝利。

「やったぁぁぁぁぁ!」

翔太が観客席で飛び上がり、仲間たちが遥を抱きしめる。遥は汗だくで笑いながら、胸の奥に灯る確かな熱を感じていた。

(V.B.Lの“理想の私”も、リアルに生きる“私”も……繋がっている。どちらも、最高の自分だ!)


体育館の片隅。観客に紛れ、帽子を目深にかぶった男が、遥のプレイに誇らしげな笑みを浮かべ、静かに去っていく。

「……やるじゃないか」

その独り言は、誰に聞かせるでもなく、冬の風の中に溶けていった。

しかし……。そのさらに離れた観客席の最上段。フードを深く被り、一人静かにコートを見下ろす青年がいた。彼の瞳は、遥の華麗なプレイから一瞬も離れない。彼女の笑顔、彼女を囲む仲間たち。その全てが、今の自分には手の届かない眩しさだった。

(俺は……あいつの隣に、いたかった。あいつを支えるのは、俺のはずだったのに)

拳は膝の上で、白くなるほど固く握りしめられていた。


優太は、コートに背を向けた。

彼のポケットの中で、スマートフォンの液晶が冷たく光る。画面には、一通のメール。


差出人は―「最適化エージェント」―。件名は、『ID復活プログラムv3.0:最終検証フェーズへ移行します』。


優太は深く、暗い息を吐き、そして迷うことなくそのメールをタップした。遥が掴み取った光の裏側で、優太は再び、危険な闇の契約に手を伸ばそうとしているのか?それとも……

彼は、失った居場所を取り戻すため、再び動き出そうとしていた。





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