第1話 「ルールの外側に立たされた日」
※本記事は、個人が体験した出来事をもとに構成しています。
特定の人物・企業・団体を指すものではなく、
個人が特定されないよう、時系列・場所・設定の一部にフィクションを含めています。
また、本稿は特定の国・文化・価値観を批判する目的ではなく、
筆者自身の視点の変化を記録したものです。
乾いた現場と、言葉のない朝
朝八時。
工業団地のゲートが開くと、埃を巻き上げながらトラックが入ってくる。
私はヘルメットを被り、現場に立っていた。
骨組みだけの工場。
コンクリートはまだ乾ききっていない。
「今日の作業、確認します」
そう言っても、誰もこちらを見ない。
作業員たちは、英語も日本語も通じない。
カンボジアやベトナムから来た出稼ぎ労働者たちだ。
指示書はない。
図面も配られていない。
それでも彼らは、
鉄骨を指さし、うなずき、
身振り手振りだけで作業を進めていく。
私は、少し離れた場所でその様子を見ていた。
「……誰が決めてるんだ?」
隣に立つタイ人スタッフに聞くと、彼は肩をすくめた。
「流れ、ですね」
流れ。
その言葉が、朝の熱気の中で妙に浮いた。
日本では、
誰が、いつ、何をするか。
すべて決まってから、現場は動く。
ここでは違う。
現場が動きながら、決まっていく。
私はその輪の外に立っている気がした。




