【クラリス裏報告日誌】“王妃陛下(仮)観察記録”1
後書きのほうが長いような…?
王妃陛下代理・セリナ様、本日も訓練継続。
午前:微笑訓練、午後:礼法・歩行動作・座礼。
■進捗
表情指導にて「口角角度第12型」および「沈黙型の微笑」定着段階に入る。
今のところ、鏡を見て一人で笑っている姿に恐怖心を覚えなくなった。よって合格寄り。
■問題点
訓練中における動物の干渉がやや増加傾向。
・犬(白):午前に3回妨害動作確認。明らかにクラリス(私)を凝視しつつ、セリナ様の足元にて伏せ。前足をしきりに彼女の手に触れさせていた。
──応援または慰め行動の可能性。私をじっと見る場面が複数回あり、気圧されかける。
・猫(黒白):棚の上より訓練風景を監視。棚上にて欠伸・身繕い・時計を読むような動作数回。
こちらの視線にあくびで返答。“自分のタイミングで訓練を終わらせる能力”があるようだ。
王宮内ではこの猫にとって何が「正解」なのか、基準不明。今後の観察対象。
■その他
セリナ様の言動に「慣れてきた」というより「気力で突破している」印象あり。
ある種の強さはあるが、持久力については未知数。
それでも、自ら練習に取り組む意志は本物。
王宮の空気にまだなじみきらぬ様子だが、
“誰かに似せている”というより“誰よりまっすぐな者”という印象。
決して素直ではないが、他者を疑う目がない。
我が筆頭として、個人的に一抹の……いや、余計な情は書かぬ。
正規王妃陛下とは異なるが、“異物としての拒絶”は薄れてきている。
──それが良いことかどうかは、まだ判断しない。
次回は“静止美の座礼”および“空間所作と残像歩法”に入る予定。
彼女にとっては地獄、我々にとっては希望の序章。
以上。
──影の袖筆頭補佐 クラリス・ローデン
【もふもふのヒミツの読書会:クラリスの裏報告に物申す】
シリル「わ……クラリス様、こんなに細かく見てたんだ……!ボク、しっかりしないと……!反省会します、今すぐ!」
ベルヴァルド「やめろ。なぜ反省する必要がある。あれは“気高き猫の自由な所作”というものだ。評価:不可侵」
シリル「でも、“妨害行動3件”って……もうちょっと空気読むべきだったのかも……」
ベルヴァルド「甘いな。空気に合わせたら、それはもう“空気”だ。わしは“猫”として誇りを持って邪魔するのだ」
シリル「でも、クラリス様“あの欠伸のタイミング”にはちょっと気づいてたかも……」
ベルヴァルド「……あれは、わしの深謀遠慮による“精神負荷調整機構”じゃ。破壊と癒しのセット配信」
シリル「(※要約:ただのあくび)」
ベルヴァルド「ふん。ともあれ、クラリスめ──“情は書かぬ”と書きながら、
しっかり“希望の序章”などと綴っておる。照れておるな、あれは」
シリル「そ、そんな風に見える……!?」
ベルヴァルド「見える者にだけ見えるのだ。王宮の影には、そういう光もあるのだ」
シリル「伯爵さま……なんだか今日、かっこいいです!」
ベルヴァルド「明日には忘れろ。わしは自由だ」