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第46話「帝国辺境の初陣──揺れる抵抗勢力と騎士団の力」

国境を越えて数日が経過した。

王国の遠征軍は三方向に分かれ、それぞれが帝国領の内側へ進行を開始している。王女セレスティアや騎士団長が率いる本隊がゆっくり進む一方、シチトラが先導する先遣隊は馬を走らせて最前線へと踏み込んだ。

荒れ果てた帝国の農地や放置された砦の残骸が続き、道端で難民らしき人々が疲れた顔を見せている。かつての繁栄は見る影もなく、荒野と化した地域が広がっていた。



「ここまで来ると、本当に酷い状況ね……」

ベアトリクスがローブを翻しながら馬上で呟く。見渡せば、廃屋と瓦礫が散乱し、村だった痕跡が残っている。

「帝国の内乱は相当長引いてますし、まともな政府機能がほぼ失われているんでしょう」

ラニアが言葉にすると、シチトラもうなずきながら答える。

「姫様が狙うのは、こうした混乱に対して正規の支配を敷き直し、王国の秩序をもたらすってことだろう。現地住民にとっては救いにもなるかもしれない」


ロデリックが前方を警戒しつつ、「副団長、この先の道沿いにまだ人が住んでいるようです。けれど、何だか慌てた様子でこちらを見ている……」と声をかける。

続いてフェリシアが遠くを見やり、「戦いに巻き込まれるのを恐れてるのかもしれませんね。わたしたちが帝国を侵略しに来たと思えば、そりゃあ警戒されるでしょう」と返す。

ガレットが冷静に地図を見ながら、「まずは接触を試みて、可能ならば“敵ではない”と伝えるべきでしょうね。あるいは抵抗勢力が先に来るかもしれません」と言葉を足す。



そこから進むこと半日、先遣隊は古い砦跡のそばで大きな炊き出しを行う人々を発見する。

近づいてみると、どうやらそこはいくつかの村の寄り合いが拠点として使っているようで、顔付きの厳しい男たちが武器を手に構えている。

「何者だ。王国の……騎士団か?」

男の一人が声を張り上げる。

シチトラは剣を鞘に収めたまま馬を降り、穏やかに両手を広げてみせる。

「おれは王国の副団長、シチトラ・ハシダだ。あんたたちを討ちに来たわけじゃない。帝国の混乱を治めるために出陣した先遣隊だが、まずは話をしたい」


相手は迷っていたが、周囲から「彼らは森を切り開いた王国の男爵じゃないか?」と囁く声が聞こえてくる。どうやら帝国内にも彼らの噂が多少伝わっているらしい。

「……話だけなら聞いてやる」と意を決したように男が武器を下ろすと、住民らしき人たちが少し緊張を解く。

ラニアとベアトリクスが馬から降りて「危険はありません、私たちは力づくで征服しに来たわけじゃないです」と微笑む。人々も少しだけ表情を和ませるが、やはり内乱の恐怖を捨てきれないようだ。



砦跡の一角で焚き火を囲み、シチトラや住民たちが状況を確認する。

どうやらこの地域には、抵抗勢力と呼ばれる武装集団がいて、帝国内で小勢力を保っているらしい。正式な帝国軍ではなく、領主や豪族がバラバラに支配している状態で、収奪や奴隷のような扱いも横行しているとか。

「俺たちも当初は帝国の兵でしたが、もう上からの命令はないし、ここを拠点に生き残りを図っているだけです。王国が攻めてくると聞いて、一部は“徹底抗戦だ”などと言ってますが……」

シチトラは地図を指し示しながら唸る。

「なるほど。おれたちが敵に見えたのも仕方ないな。けど、王女様は領民を救う気もある。略奪目的じゃないんだ」

すると住民の代表者が少し苦々しい面持ちで尋ねる。

「けど、王国に併合されたら、わしらには何が残るんだ? 増税や支配が始まるだけでは? 結局、どこかの国の奴隷になるのでは……」


この言葉にラニアがしっかりと首を横に振り、「そんなことはありません。わたしたちは領地で移民も受け入れて、魔法や剣を教えながら共存してます。できれば同じように、帝国の人たちにも新たな生き方を示したいんです」と伝える。

住民らが目を丸くして「魔法や剣を教える……? 本当にそんなことを?」と驚く。ベアトリクスが補足する。「ええ、私たちの男爵領ではすでに軌道に乗り始めてるわ。旧帝国から逃げてきた移民もいるし、もしよければあなたたちも……」

話がようやく柔らかい雰囲気になりかけたその時、砦の入口で激しい物音が響いた。



「なんだ?!」

ロデリックが武器を構え、フェリシアとガレットも飛び出していく。どうやら抵抗勢力の小部隊が先にこの砦を占拠しようと突撃してきたらしい。

「まさか、こんな時に来るとは……!」

住民が悲鳴を上げる。砦跡の柵が破られ、十数名の荒くれ者が現れた。彼らは帝国内で独自に勢力を拡大し、“王国に降るならおまえらを容赦なく潰す”と脅している連中らしい。

「ここは俺たちが支配する領土だ。王国の犬どもが来たなら、いい見せしめにしてやる……!」

リーダー格の男が斧を振り上げ、不気味な笑みを浮かべながら進んでくる。


「ロデリック、フェリシア、ガレット、配置につけ! ラニア、ベアトリクス、周囲に被害が出ないよう結界を頼む!」

シチトラが素早く声を張り上げる。

ラニアとベアトリクスが杖を構え、周囲を保護する結界を展開。ロデリックたちが前衛に立ち、魔物の森での経験を活かしながら相手の突撃を抑えにかかる。



先頭に躍り出た抵抗勢力の男が大振りの斧を振り下ろすが、フェリシアがすばやく盾で受け流し、その隙にロデリックが大剣を振り下ろして相手の武器を砕く。

「副団長、任せてください!」

ロデリックが豪快に叫び、フェリシアと息を合わせて連撃をかける。

ガレットは砦の側面を回り込み、別の盗賊風の敵を背後から取り押さえる。“正面衝突だけが戦いじゃない”とばかりに、周りの隊員を指示して有利な位置を取っていく。

それらを見守りながら、シチトラは敵のリーダーらしき人物へ馬を進め、刀を鞘から抜く。

「やっかいな連中がここを支配してるなら、話し合いの余地はなさそうだな。やめるなら今のうちだが……」

「ふざけるな、王国の犬め……!」

敵リーダーが狂気のような笑みを浮かべて斧を振りかざすが、次の瞬間、シチトラの刀が閃く。金属音とともに斧が地面に弾かれ、あっさりと武装解除される。


「う、うわああ……!」

男が尻餅をつき、慌てて後ずさると、視線の先には冷ややかな目つきのベアトリクスがローブをなびかせて立っていた。

「戦意がないなら引き下がりなさい。でないと、私の氷で一瞬にして固めることになるけど?」

威圧感たっぷりの声に、男はひたすら後退。味方も続々と倒されており、あっという間に抵抗勢力の小隊は壊滅状態だ。



わずかな衝突で敵は逃げ散り、一部はロデリックらに捕らえられた。住民たちは茫然としながらも、シチトラらの強さに改めて驚愕する。

「こんな短時間で……抵抗勢力が一方的に撃退されるなんて……」

代表者が震えた声で言うと、フェリシアが盾を降ろしながら微笑む。「わたしたちは王国の騎士です。あなた方を守るためにも動く気はあるんですよ」

住民側は恐る恐るだが、シチトラたちに感謝の意を示す人も出てきた。「あんたたち、本当に私たちを支配しに来たんじゃないんだな」と。

ラニアが「この砦を安全に使えれば、あなたたちも落ち着いて暮らせるはず。少しずつ国が安定すれば、今みたいな紛争も減るかもしれません」と優しく声をかける。


シチトラはリーダーを失った敵の残党を見回して、厳粛な態度で宣言した。

「抵抗を止めて、俺たちの指示に従うなら命は奪わない。だが、これ以上暴れるなら容赦しないぞ。――今はそれだけ言っておく」

男たちは恐怖に駆られ「了解だ、分かった……」と頷き、命乞いをする。この砦跡は先遣隊が制圧した形となり、帝国領の一角が王国の手に落ちた。



こうして帝国領への進軍が始まり、わずか数日の行軍でシチトラ率いる先遣隊は最初の拠点となる砦跡を抑えることに成功した。

住民や小勢力との接触は当初険悪だったが、シチトラの部隊が“抵抗勢力”を蹴散らしたことで一目置かれ始め、少しずつ心を開く者も現れる。

この先、より大きな諸侯や武装組織が待ち受けるのは確実だが、王女セレスティア率いる本隊とも合流しながら、帝国併合への道を着実に進めていく。




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