第45話「王女と騎士団の新たな戦い」
王都の城下には、国の変化を感じさせる高揚感が満ちていた。
ついに王女セレスティアが主導する“帝国領遠征”が正式に決定され、王都には国中から兵と物資が集まっている。
王女の内政改革で国力を高めた王国は、満を持して北の帝国を取り込むための大規模な遠征軍を編成する運びとなった。
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王城の大広間では、華やかな軍装を纏った王女セレスティアが、多くの貴族や騎士たちに向けて声を響かせる。
「諸君、わたくしは帝国領を制し、この国をより盤石にしたい。いまや帝国は内乱の混乱で弱体化している。好機を逃す理由などないわね」
次期王の呼び声も高いセレスティアが高貴な横顔を上げると、周囲から「万歳!」という歓呼の声が起こる。老いた王はほぼ象徴的な立場になっており、この遠征に口を出す者はいない。
(誰もが、姫様こそ次の王になるだろうと認めている。遠征の成功は王国全体の悲願になるはずだ)
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王都の東門近くでは、これまでにない数の兵士が整列していた。騎士団の精鋭を中心に、貴族の私兵や冒険者風の戦士たちが混じり、見た目にも相当な規模だ。
そこに騎士団長が現れ、総指揮を執る形で出陣の準備を指示する。王女は“大将”として君臨し、必要に応じて前線へと赴く計画だ。
その一角で、副団長のシチトラ・ハシダが一隊を率いていた。彼は帝国境への“先遣隊”を担当する。周囲には彼を慕う若手騎士たちが固まっている。
「副団長、準備万端です! 帝国領に入ったら、先行して状況を探りましょう!」
大柄で豪快な性格のロデリックが、白い鎧越しに興奮を隠さず声を上げる。
その横には、女性騎士フェリシアが落ち着いた態度で続く。「焦りは禁物です、ロデリック。副団長や私たちが率先して状況を確認し、損害を最小限に抑えるのが先遣隊の役目でしょう」
さらに、頭脳派のガレットが地図を片手に「帝国から逃げ出した難民の話では、北西方面には大きな抵抗勢力がいるとか。まずはそこをどう突破するかが鍵になりそうですね」と言葉を添える。
三人は一年の間にシチトラの下で修練を積み、魔物の森開拓にも同行してきた有能な騎士たちだ。
シチトラは彼らを見渡し、「よし、頼もしい顔ぶれだ。姫様と騎士団長が本隊を構えて後方に控えている以上、俺たちが先陣で穴を開ける形になる。気を抜かずに行こう」と声をかける。
周囲の騎士たちも「了解!」と気合を示し、馬上や歩兵の隊列を整えはじめる。
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シチトラのもとには、火と結界の魔法を操るラニアと、風と氷に通じる魔法使いベアトリクスが並んで立っていた。彼女たちもこの遠征に加わるための装備を身に着けている。
ラニアは袖を翻しながら、「シチトラさん、わたしもちゃんとついて行きますからね。危険かもしれないけど、あなたを護りたいし……この国のためにも力を出したいです!」と真剣な眼差し。
ベアトリクスはローブの襟を直しつつ、「私も領地を出てくるときフロリウスに留守を託したわ。あなたの副団長としての初大仕事、しっかりサポートするわよ」と控えめに微笑む。
「おう。二人がいてくれると心強い。……ロデリックたちも魔法の援護をあてにしてるからな。頼むぞ」
シチトラが照れ臭そうに返事すると、二人は同時に「任せて」と頷く。こうして三人は息の合った“少数精鋭”の感覚で先陣に臨む気構えを固めた。
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出発前夜、シチトラは自領のフロリウスと最終打ち合わせを行った。
「留守の間は領地を頼む。何かあれば連絡を回せるように、騎士団との連絡網を強化してくれ」
フロリウスがひかえめな笑みで頷く。「もちろんです、男爵殿。安心して帝国を攻め落としてきてください。領地の住民も“男爵様が頑張ってるなら、自分たちも負けられない”と意気込んでいます。しっかり再開発を進めておきますよ」
わずか約1年の間に、荒地だった領地がここまで発展するとは思わなかったと、シチトラは感慨を覚える。ラニアやベアトリクスが魔法で援助し、住民が自主性を持って街を作り、フロリウスが経営面で指揮を執る。
(俺が戦に出てる間も、これまで通りに運営してくれれば問題ないだろう。領地がこのまま安定して成長すれば、帰ってきたときにはもっと大きくなってるかもしれないな)
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翌朝、王都の東門広場で出陣の儀が行われた。大勢の兵と馬車が並び、王女セレスティアが厳かな姿で現れる。
「皆の者、帝国領へ進軍する。わたくしが自ら赴き、この国の未来をさらに切り開くのよ。……騎士団の力を信じているわ」
彼女の言葉に、兵たちは大きく旗を振る。騎士団長も馬上から堂々と応じ、「王女殿下に続け!」と号令をかけるなか、シチトラの部隊は一足先に先遣隊として門をくぐる。
「よし、行くぞ!」
馬を駆けるシチトラの後ろを、ロデリック・フェリシア・ガレットたち精鋭騎士が続き、ラニアとベアトリクスも合流点で合図を交わす。
こうして、長期わたる準備を経た大遠征がついに動き出す。
帝国領は内乱の最中で、あちこちに抵抗勢力や荒れ果てた街があるはず。
(姫様が本気でここを併合すれば、国はさらに拡大する。おれも副団長として……いや、こんな大仕事、失敗は許されないだろう)
まばゆい朝日の下で、馬を進めながらシチトラは強い決意を固める。
そして、運命の歯車はこの遠征を通じて大きく回り始めるのだった。




