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第42話「旧帝国からの来訪──新たな縁と領地の騒動」

シチトラの領地では、剣や魔法を学ぶ若者の声が日に日に熱を帯びる一方、旧帝国出身の人々が移住を希望する動きが加速していた。

フロリウスによる経営戦略のひとつとして、「旧帝国は内乱や苦境で行き場を失っている人が多い。その労働力や技術を取り込めば、領地はもっと伸びる」という狙いだ。

そんな噂を聞きつけ、王都の屋敷には何組かの“移住希望”がやってきた――ところが、その中に面倒な連中も含まれていて、少し騒動が起こりそうな予感がする。



---

ある日の夕刻、屋敷の応接室で、シチトラとフロリウスがテーブルを挟んで書類を確認していた。

ラニアとベアトリクスも同席しており、二人とも興味深そうに旧帝国の地図を覗き込む。


「こちらが今回の移住希望者たちのリストです。元帝国軍の下級兵士だった者や、中小商人、それから農民が中心ですね。あとは……」

フロリウスがめくる先には、“よく分からない肩書きを持つ人たち”が混じっており、ラニアが首をかしげる。

「『元宮廷芸術家』? 『猛獣使い』? 『火薬の研究員』……ずいぶん色々な肩書きの人がいるんですね」

「そうですね。帝国がバラバラになり、仕事を失った職人や技術者、それから怪しい職業の方まで、各々行き場を探しているようで……」

フロリウスは苦笑気味に説明する。


「なるほど……。受け入れるなら、ちゃんと身元や目的を精査しないとな。スパイ混じりじゃないかとか、治安面で問題が起きないかとか」

シチトラが唸りつつ、ベアトリクスがローブの襟を整えながら言う。

「ええ、怪しい連中を無条件で入れたら危険よ。ただ、有能な技術者や商人なら大歓迎じゃない? 領地の発展に繋がるし」

フロリウスも頷く。「その通りです。帝国は魔法工芸や芸術面で優れた人材が多い。うまく取り込めれば領地にとって大きなメリットになるかと」



---


数日後、フロリウスがセッティングした“面接”のような場が、屋敷の別室で行われることになった。

シチトラが主に話を聞くが、必要に応じてベアトリクスやラニアが“魔力感知”をしたり、経歴を洗ったりする流れだ。


元帝国軍下士官「祖国が崩壊して職を失いました。戦闘経験はありますが、もう争いよりも平和な仕事がしたい……」


商人「帝国内乱で売り先がなくなり、こちらの領地が発展していると聞いて来ました。商隊を組織できます!」


怪しい肩書き職人「火薬の研究をしていました! 爆音で魔物を追い払う仕組みを……」



中には本当に怪しい風貌の者もいて、ベアトリクスが冷ややかに睨むことも。「その技術、領地を破壊するんじゃないかしらね……?」と突っ込まれ、相手が額に汗をかくシーンもあった。


「まあ、全部を受け入れるわけじゃない。だが、有用な技術や真摯さを感じる人なら歓迎したい」

シチトラが淡々と話すと、フロリウスが「面接後に改めて報告書をまとめますね」と仕切る。

ラニアは一部の人から「奥方さま、魔法を教えていただけないか」などと頼まれるが、「初心者でも受け入れられる仕組みができたらいいですよね」と柔らかく応じる。



---


その日の面接の終盤、少し揉め事が起こった。

「わたしは帝国宮廷の芸術家だったのだぞ! こんな片田舎で浪費しろというのか?」

と声を荒げる男が現れた。豪奢な身なりをしているが、どこか嘘くさい雰囲気がある。


「……あなたの作品を実際に見てみないことには評価できません。具体的に何ができるんです?」

フロリウスが丁寧に問いかけると、男は「素晴らしい絵画や彫刻の数々!」と自画自賛。しかし、試しにサンプルを見せてもらうと技術が微妙で、まるで偽芸術家のようだ。

「こんな領地ごときで僕の才能を分かるまい!」と憤慨し、逆ギレして立ち去ろうとする姿に、ベアトリクスは呆れ顔。

「……まぁ、詐称っぽいわね。怪しい人物が紛れてきたのも仕方ないけど、実害がないなら放っておけばいいんじゃない?」

「そうだな。受け入れる価値はなさそうだ」


彼のように虚言を弄しているだけの移民希望者も紛れ込んでいるのが現実だ。最終的にフロリウスが警戒リストを作成し、領地への侵入を許可しない判断が下された。



---


面接(というか選別作業)を一通り終え、夜になってシチトラは屋敷の書斎でフロリウスや二人の妻と話し合いを続ける。

「結果的に、有力そうな人材は十数名。商業に明るい商人もいるし、農業に熟練した人もいた。あとは“火薬研究員”……危険かもしれないが、使いようによっては役立ちそうだ」

「そうですね。騎士団の許可や技術管理の問題があるので、安易には使えませんが……」

フロリウスが資料をまとめながら返事をする。


ラニアはその火薬研究員の話に興味を示す。「へえ、魔法の力だけじゃなく、火薬で魔物を追い払うのも面白そう……でも、扱いが難しそうだなあ」

ベアトリクスは冷静に言葉を添える。「何にせよ、旧帝国の技術は侮れないわ。うちの領地でうまく融合できたら、かなり大きな利点になるでしょうね」


「よし、じゃあこの十数名は正式に移住を許可して、必要な住居や仕事を手配しよう。王都のほうにも報告して、危険な人物がいないか最終チェックだな」

シチトラの一声で、話がまとまる。フロリウスは頷き、「すぐに手続きに移ります」と疲れた笑みを浮かべる。



---


遅い夕食を済ませ、屋敷には静かな夜が訪れる。

ラニアとベアトリクスは食後にそれぞれ温かいお茶を飲みながらリラックスムードだ。二人はいつも通り和気あいあいと話していて、シチトラもそれを眺めながらほっと一息。

「何かと大変だけど、この領地が段々いろんな人を受け入れる場所になってきてるんだな……」

彼はつぶやくと、ベアトリクスが杖を脇に寄せて軽く微笑む。

「いずれ商人や技術者が集まれば、都市としても成り立つ可能性があるわ。そうしたら、あなたの領地は相当な影響力を持つんじゃない?」


ラニアも「わたしたちが教えている魔法や剣術も、みんなの力になれば嬉しいですし。さらに新しい人材が来れば相乗効果が出るかも!」と声を弾ませる。

「うん……それを軌道に乗せるには、まだまだ大変だろうけどな。フロリウスや、みんなの協力をうまくまとめていかないと」


三人は明かりを少し落とした室内で、明日の予定を確認しながら軽いやりとりを交わす。

こうして、旧帝国からの移住者を迎え入れる一歩が踏み出され、シチトラの領地はまた一段と変化の波を迎えようとしていた。

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