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第41話「剣と魔法の指南──志願者たちの奮闘と領地の新力」

陽が差す中庭で、先日のにぎわいが嘘のように静かな空気が流れていた。

けれど、よく見ると十数名の若者たちが集まっていて、興奮でそわそわしている。そして、その中心にはシチトラ立っていた。



---


「えっと……男爵様。今日、私たちに剣を教えてくださるというのは本当ですか?」

まだあどけなさが残る青年が、緊張した面持ちでシチトラに問いかける。

「もちろん。剣術の基本を知りたいって人が増えてきてると聞いたからな。おれも副団長として、領民が戦えるだけの力を持つのは大切だと思う」


数日前、領地の村人たちや移住してきた若者の間で「男爵さまの剣術を少しでも学びたい」という声が高まった。魔物の森を攻略した“英雄”の技に憧れて、あるいは領地の発展を護るために力をつけたいと考える者が増えたのだ。

「今日から定期的に稽古をするつもりだ。動きやすい服装で来てくれたのは助かる」

シチトラが彼らを見回すと、目を輝かせる若者、少し怖がる少女など、反応は様々だが、意欲は感じられる。



---


「じゃあ、まずは“構え”からやろう。剣を振る前に、姿勢が大事なんだ」

シチトラは落ち着いた口調で説明を始める。元の世界では実戦が主だったが、そこを少しアレンジして基礎から教えるよう心がけている。


足幅は肩幅より少し広めに。

膝の角度は力みすぎず、重心をやや低めに。

剣を振り下ろす前に腕を締め、無駄な力を抜く。


「構える段階で“斬ろう”と力んだら、すぐにバランス崩れちまうからな。むしろ、相手の動きに合わせて動けるように、重心を探ってみろ」

最初は何が何やら分からず固まる志願者たちも、シチトラの手本を見れば「なるほど……」と唸る。

「でも、男爵様がやると、すごくサマになるんですけど……自分たちがやってもカッコ悪くて……」

「地味な反復練習が大事なんだ。焦らず続ければ、いずれ形になる」



---


同じ頃、屋敷の別の敷地ではラニアとベアトリクスが希望者を集めて簡単な魔法の理論を教えていた。


ラニアは火の扱い方や、防御結界の基礎をかみ砕いて伝える。

ベアトリクスは風や氷など、自然属性の制御について、理論的に説明する。


「魔力って、目にはほとんど見えないんでけど、空気の流れみたいに常に存在してるんです。そこに自分の意思を重ねると、火の玉が作れるんですよ」

ラニアが優しい笑みで解説すると、聴き入っている男女が「はえー……」と感嘆の声。

「ただし、最初はほんの小さな火花でも十分よ。無理やり大きな火を出そうとすると、自分が火傷しますからね」

隣ではベアトリクスが真面目な表情で補足する。

「魔法は便利だけど、事故を起こすリスクもあるわ。基礎の基礎をおろそかにする者は、ここで失格と思ってちょうだい。私たちは無闇に危険な術を教えたくないし、十分な才能や根気がある人に少しずつ伝えるつもりよ」


志願者たちは神妙に頷く。「領主様の奥方が魔法の達人だなんて……これまで考えもしなかった」「頑張って習いたい!」と静かに気合を入れている様子だ。



---


昼下がり、シチトラの剣術指導が一段落し、みな汗をかきながら地面にへたり込む。

「はあ、きつい……でも、男爵様の言う通り、やってみると剣って奥深いですね……!」

「ああ、こんなに足がプルプルするとは……でも、なんだか少し楽しい」

励まし合う若者たちに、シチトラはうなずいて声をかける。

「一日でどうこうなるもんじゃない。焦らず、まずは姿勢と振り下ろしの反復を続けてくれ。明日からも、時間を決めて稽古しよう」


同様に、ラニアとベアトリクスの魔法組も、初日はほとんど理論説明で終わったが、「結界の雰囲気はつかめた気がする!」「炎の種火が手のひらにちょっと出た!」など、小さな成功を喜ぶ声があがっている。

「気を抜けば火傷や氷傷になるから、各自で無理せず練習してね」

ラニアが笑顔で応えると、みんな素直に「はい!」と返事する。その雰囲気は微笑ましく、屋敷の一角が新たな活気に満ちているのを感じる。



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中には「領地の発展に役立ちたいから」などの明確な理由を抱く者もいれば、単に「剣や魔法に憧れるから」という若者もいる。

いずれにせよ、シチトラたちが直接指導してくれるのは“夢のようだ”と感激されており、この流れはいずれ領地の戦力面にも大きく影響を与えるだろう。


今はまだ半数は初心者で苦戦しているが、日々の稽古を重ねれば、数ヶ月後には魔物が出た際の応戦や、治安維持にも協力できる人材が育つかもしれない。

(この領地がもっと豊かになる。そのためにも、こうやって住民自身が力を持てばいい……。ここが平和で強い土地になれば、国全体のためになる)

シチトラは胸中でそう噛みしめる。



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稽古初日を終え、若者たちが解散していくころ、ラニアが軽い疲労の汗を拭いながら隣に並ぶ。

「思ったより、みんな熱意がありますね。うふふ、なんだか教え甲斐があります」

「おれもびっくりだ。初心者ばかりだから、まずは基礎固めだけど、何人かは呑み込みが早いんじゃないか?」

ベアトリクスも杖を肩に担いで「そうね、将来有望な子もいるわ。……これから忙しくなるわね、私たち」と目を細める。


辺りを見渡せば、すでに陽が西に傾き始め、空がオレンジ色に染まっていた。領地のあちこちで灯火の準備をする住民の姿が見えるが、みんな笑顔で楽しそうだ。

(剣や魔法を身につけて、人々が自ら立ち上がれば、この土地はさらに安全で活気づくだろう……)



---


こうして始まった剣術と魔法の指南は、領地の人々に新たな希望を与えるものとなった。大げさに言えば“領地の戦力”が育つ基盤になりつつある。

シチトラは騎士団の副団長としての務めも続けるが、領地の発展と住民の育成にますます情熱を注ぎ始めるのだった。


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