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第40話「村の祝宴──賑わう領地と小さな祭り」

朝から快晴の日。

シチトラが領内の巡回を終えて屋敷へ戻ると、玄関先にラニアとベアトリクスがそろって待っていた。

「おかえり、シチトラさん。ちょうどいいところに! 村の人たちが収穫祭をやるらしくて、わたしたちも呼ばれてるんですよ」

ラニアが楽しげに口を開く。その傍らでは、ローブを軽く羽織ったベアトリクスが冷静に付け足す。

「収穫祭っていっても、大規模なものじゃないけどね。移住組と元々いた村人が共同で野菜や穀物を少し分け合ったり、踊りを披露したりするんだとか」


シチトラは穏やかに微笑んだ。

「へえ、そんな行事をする余裕が出てきたんだな。なんだか嬉しいよ。みんなが平和に暮らせるようになってるんだな」



---


三人は連れ立って馬車に乗り、屋敷から少し離れた村の広場へ向かった。

そこはもともと小規模な集落だったが、魔物の森を開拓した余波とシチトラの新領地開発に伴い、人々が移住してきて少しずつ賑やかになっている場所だ。


「やあ、男爵様! 奥方たちも来てくださったんですね!」

村の有志たちが拍手で出迎える。まだ質素な祭りだが、テーブルに野菜や焼き立てのパン、果物などが並べられていて、村人たちが笑顔で客人を迎えていた。

「ありがとうございます。お邪魔します」

シチトラが礼を言うと、子どもたちがわらわら近づき、ラニアを見て「魔法使いのおねえちゃん、火のボーボーやって!」とせがみ、ベアトリクスには「氷のツルツル見たい!」と目を輝かせる。



---


テーブルを囲む村人の様子を見れば、みんなが心に余裕を持っているのが分かる。


かつては戦乱や魔物の脅威で安全を確保できず、祭りなんて考えられない雰囲気だった。


だが今は領地整備が進んで農地も拡大し、ある程度の収穫が見込めるように。そこで「小さくても感謝祭をやろう」という声が上がったのだ。



村長が片手を挙げ、挨拶代わりに喉を鳴らす。

「男爵様、わしらこんな形で礼をしたかったんです。あんたのおかげで森の魔物も減ったし、住民が増えて一気に活気づいて……本当によかった」

「いや、おれだけじゃなくて、みんなが協力してくれた結果だよ。フロリウスが計画を進めてくれたし、ラニアやベアトリクスが魔法で助けてくれたし、村の人々が汗を流してくれたからこそだ」

控えめに言うシチトラに、村長や周囲は「うおお……!」「万歳!」と小さく盛り上がる。



---


休憩スペースで地元の特産らしい甘い飲み物を勧められ、三人はほっと一息。

子どもたちが「魔法見たい!」と騒いでいるため、ラニアは笑顔で少しだけ火の玉を浮かせてみせる。

「わあああ!」「すごーい!」

大喜びする子どもたちを見て、ベアトリクスが呆れたように呟く。

「ふふ、これくらいなら安全ね。……私も、軽く氷の細工でもやりましょうか?」


そう言って杖をさっと振ると、冷気が集まり小さな氷の彫刻を作り出す。きれいな花の形のようにも見え、周りから感嘆の声が上がる。

「これ、溶ける前に飾っておこうかしらね」

村人が拍手しながら、「うちの子があなたたちの魔法に憧れてるんです……」と話してくる。

「いいですね!」とラニアが手を打ち合わせ、シチトラが軽く笑う。


---

村の住民たちが、シチトラを囲んで相談を持ちかける。


「この辺りにもっと商人を呼ぶにはどうしたらいいですか?」


「森のほうから拾ってきた薬草……これ売れるんでしょうか?」


「若い人も増えてきて、宿屋を建てたいんですが……」



彼は真摯に耳を傾け、時折フロリウスのプランを思い出しながら回答する。

「商人に来てもらうには道の整備が不可欠だな。財力が足りないなら、おれも出資を検討する。薬草は品質をちゃんと判断する必要がある……後でラニアやベアトリクスに見てもらうといい。宿屋は……そうだ、建設するなら場所選びが大事だ。……」


村人たちは「男爵様、ほんとに頼りになる!」と喜び、ラニアとベアトリクスも誇らしげにうなずく。

(こうして少しずつ領地が豊かになっていくのは、見ていて心が温まるな)



---


日が落ちる前、村の有志たちが笛や太鼓を持ち出し、即席の踊りを披露してくれた。

「ははっ、楽しそうだ。こんなに賑やかだったんだな、この村」

シチトラが微笑んでいると、ラニアがすっと手を差し出す。

「シチトラさん、一緒に踊りましょう? わたし、実はこういうの得意かもしれません」

「お、おれ踊りは不得意なんだが……まあいいか」

なりゆきで手を取って軽くステップを踏む。ぎこちない動きになりがちだが、ラニアにリードされてなんとか形になっているらしい。


傍らでベアトリクスは腕を組み、「仕方ないわね……私も参加するか」と言いつつ、村人に誘われて輪に加わる。踊りというより、恥ずかしそうに足を動かしているが、村人には「おおー、魔法使い様も踊ってる!」と大ウケだ。

こうして、村の小さな収穫祭は笑いと音楽に包まれ、シチトラの領地内での祝宴がさらに和やかなムードを作った。



---


夕方ごろには祭りが落ち着き、三人は馬車で屋敷へ戻る。

馬車の中、ラニアが満面の笑みを浮かべる。

「今日、すごく楽しかったですね! わたし、ああやって子どもたちが魔法に喜んでくれるの、嬉しくて……」

ベアトリクスも窓越しに外を見ながら、静かに微笑む。

「私も悪くない気分だったわ。こうして皆が笑って暮らせるのって、貴方の領地だからこそ……って気がする」


シチトラは照れたように目を伏せる。

「まあ……森を切り開いたおれたちだけじゃなく、村人の努力やフロリウスの力も大きいけどな。でも、みんなで手を取り合えば、ここまで賑やかになるんだな……ありがたい話だ」


馬車が揺れる中、三人は小さな心地いい疲労を感じながらのんびりと会話する。帰ればまた領内の事務仕事が待っているが、今日ばかりは穏やかな気持ちに浸りたかった。



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