第4話「面妖な朝は雑用から? 村の暮らしで見えてきた異世界のリアル」
翌朝――。
「……う、ううん」
胸いっぱいに酒を飲んで、そのまま寝ちまったもんだから、微妙に頭が痛い。戦国の世じゃ、酒といえば米か麦のどぶろくだったが、こっちの世界の酒はまた違った風味と強さがあるらしい。昨夜はかなり酔いが回ったようだ。
「シチトラさん、起きてます?」
外から甲高い声が聞こえてくる。あれは……村人のジョルクか。
「おう、今起きる……」
薄暗い部屋の中で体を起こし、支度を始める。昨夜の宿は村の集会場の一角。布団どころか蚊帳もなく、藁を敷いただけの床だったが、意外と気持ちよく休めた。
扉を開けると、ジョルクが朝からやけに元気な様子で立っていた。
「おはようございます! 昨夜は相当召し上がってましたけど、体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。ちょいと頭がぼんやりするがな……。で、何か用か?」
「ええ、村長が『シチトラさんがお手伝いしてくれるなら、ぜひ畑仕事や家畜の世話をお願いしたい』と仰ってまして。あと、今日の夕方にはラニアさんが魔物の哨戒に回るんで、その護衛も頼めないか、と」
「なるほどな。まさか畑仕事までとは思わなかったが、飯のタネをもらってる身としては、手伝わねえわけにゃいかねえな」
戦国の世でも百姓を手伝ったことはある。力仕事くらいは慣れているし、そう苦にはならんだろう。
「じゃあまずは朝飯だな。腹が減ってる」
「はい、あちらの広場に皆で集まってます。ラニアさんはもう起きて、そっちで何やら食べてましたよ」
広場に向かうと、朝のやわらかい光の中で簡素な朝食が振る舞われていた。
干した野菜のスープに、小さな塊状の食べ物が添えられている。ん? これはなんだ、初めて見る形状だ。
ふと、ラニアがかじっているそれを目にして、おれは首を傾げる。丸く膨らんだ生地に焦げ目がついていて、何とも不思議な香りが漂っているではないか。
「おはようございます、シチトラさん。少しは二日酔いはよくなったんですか?」
ラニアが微笑みながら声をかけてくる。
「おう、だいぶな。ところで……そいつはなんだ?」
「ああ、これは“パン”ですよ。小麦の粉をこねて焼いた食べ物で……ほら、召し上がってみてください」
そう言って差し出してきたが、おれはしばし戸惑う。戦国の世じゃ見たことのねえ食べ物だ。
「あー……食える代物なんだろうな?」
「ええ、もちろんです。おいしいですよ」
恐る恐る手に取って、ぎゅっと指先で押してみるとふわりとへこむ。まるで団子とも違うし、饅頭とも違う……。
意を決してかじってみると、中が柔らかくて香ばしい。
「……ほう。これは妙な味だが、悪くねえな」
はじめは不思議だったが、噛むほどに小麦の甘みを感じる。
ラニアはおれの様子に少し安心したようだ。「よかった、気に入ってもらえたなら何よりです」
「いや、こりゃ驚きだ。こんなもんがあるとはな……」
こうして、朝食を得体の知れないパンとスープで済ませると、畑作業の手伝いに取りかかった。
畑には村人たちが既に土を耕している。見慣れない作物ばかりで、根や葉の色も日本の田畑とは大きく違う。
「シチトラさん、あちらの土を運んで混ぜてもらえますか? ここの畑は痩せてて、ほっとくと作物が育たないんです」
「分かった。こういう力仕事なら得意だからな」
大きな籠に土を詰め、畑にまいていく。汗ばむ陽気だが、やるべきことがハッキリしてるぶん気が楽だ。
何やら周囲の村人同士で、「魔法で何とかならんもんか」とぼやく声が聞こえる。どうやら作物の成長を促したり、害虫を追い払うための魔法もあるらしいが、こんな辺境には使い手が来ないのが現実らしい。
「……便利さに頼れねえなら、自分でやるしかねえってことか。戦国の世も似たようなもんだったな」
おれが独り言のように呟くと、作業を見守っていたラニアがこっちへ近づいてきた。
「実は私も、その手の魔法はまだ学び中で……大規模に使うには修行が必要なんです。何もできなくてすみません」
「別に謝られたって困る。できることをやる、それだけだろ」
おれの返事に、ラニアは小さく微笑んだ。
午後になるころには畑の雑用もひと段落。腹が空いたので、簡単に昼食――野菜の煮物などを口にしていると、慌てた様子のジョルクが駆け寄ってきた。
「し、シチトラさん、大変です! 北の山道で大きな魔物が出たとの知らせが!」
「大きな魔物? ゴブリンよりでけえのか?」
「はい! はっきりした種類は分かりませんけど、かなり手ごわいらしいんです。とりあえず村人が見張りをしてますが、このままじゃ村に降りてくるかも……」
こいつは、また物騒な話だ。
ラニアも驚いた様子で「私も行きます。哨戒をする予定でしたし、早めに様子を見に行った方がいいですね」と言う。
「よし、おれも加勢するか。せっかく厄介になってるんだ、手伝わねえとバチが当たるな」
それを聞いた村人たちは少しホッとした顔になるものの、不安が完全に拭えたわけではなさそうだ。
「どうか気をつけてください。今度の相手は……ゴブリンとは比べものにならないかもしれません」
「面妖だな。だが、危険なのは分かってる。まぁ、やるしかねえよ」
この世界は、腹を満たすために働く日々の合間にも、いつ魔物が襲ってくるか分からない――そんな緊張感があるらしい。
昨日ゴブリンを退治してホッとしたのも束の間、もう“次の魔物”が顔を出すだなんて、どこまで面妖なんだか。
おれは刀の柄を確かめつつ、ラニアとともに山道へ向かう覚悟を決めるのだった。
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