第36話「森の深奥──得た栄光と圧倒的利権」
森の開拓戦が始まって数日。
魔物の森の入り口付近では、数多くの貴族軍が苦戦を強いられていた。私兵の規模は様々だが、相次ぐ襲撃や複雑な地形に阻まれ、思うように進めない。
「こんなはずでは……魔物の数が多すぎる!」
「貴族の旗を掲げていても、奴らは容赦なく襲ってくる……撤退だ!」
悲鳴と怒号が飛び交うなか、いくつもの部隊が大きな損害を受けて後退を余儀なくされていた。
シチトラは揺るぎない自信をもって前へ進む。ラニアとベアトリクスは初めこそ注意深く周囲を警戒していたが、想像以上にスムーズな突破に驚きつつも嬉々として進軍を支える。
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森の奥へ進むほど、失敗した貴族軍や苦戦する私兵部隊が散在していた。
はぐれた兵たちが魔物に包囲され、絶望の叫びを上げる。
貴族が指揮を放棄し、ただ逃げ回っている光景があちこちに広がっている。
そんな彼らを次々と助けて回るのがシチトラ一行だ。ラニアの結界が弱った私兵を守り、ベアトリクスの氷魔法が追いすがる魔物の群れを一気に凍結する。
シチトラはその隙に魔物の群れへ突撃し、一刀両断。あまりにも鮮やかな斬撃に、助けられた者たちは口を開けたまま呆然とする。
「まさか……こんな少人数で……」
「シチトラ男爵殿、ありがとうございます! 我々はもうあなたについていくしか……」
救援された部隊は、自然とシチトラに従うようになっていった。男爵という身分もあるが、何より「この人に付いていけば生き残れる」ことへの信頼感が大きい。
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マルクス・レイヤード侯やファルデン子爵ら、大部隊を率いて森に挑んだ貴族たちは、広範囲に兵を散らす作戦をとっていたが、魔物の集中攻撃に遭い大混乱に陥る。
隊列を維持できず、入り口付近で半壊した私兵。
欲張って別ルートへ回ったが、森の罠に捕らわれ全滅寸前。
そんな苦戦を見かねてシチトラが助勢に向かうと、彼らは一転してシチトラの指示に従い始める。自尊心の高い貴族も、命の前には形振り構っていられないのだ。
「なんという強さ……あれほどの魔物を次々斬り伏せるなど……」
「シ、シチトラ男爵殿、私どもの隊もぜひお傍に置いてくだされ……!」
結果として他貴族軍は大した成果もなく、森の奥を制圧できずに撤退や大損害を受ける一方、シチトラの小隊だけが無傷に近い状態で森の中腹から奥までを事実上“安全地帯”に変えていく。
こうして、開拓の実質的な功績をほぼシチトラが独占する形になり、大半の利権が彼に集中しはじめる。
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「あそこに大きな湖がある……ここまで到達すれば、開拓の拠点としては十分すぎる規模だ」
ベアトリクスが風の魔法で視界を晴らし、眼下に広がる湖のほとりを示す。
ラニアは興奮気味に「わあ……本当に綺麗な湖! 土も肥えてそうだし、色々な作物が育てられそう」と声を上げる。
「よし、ここを拠点に結界を張れば、魔物もそう簡単には近づけない。騎士団があとから合流すれば、しっかりした村や街も作れるだろう」
魔物が繁殖する闇のような部分はまだ残っているが、主な危険地帯は掃討済みだ。少数とはいえ、ラニアとベアトリクスの高位魔法、そしてシチトラの剣捌きは大軍に匹敵する破壊力を発揮した。
バッタバッタ斬り伏せられたモンスターたち。
森に潜む中型ドラゴンや強獣すら撃破し、驚異を排除。
他貴族はほとんど手柄を立てられず、救われるばかり……。
この結果、“森の安全地帯”となった区画と資源は、事実上シチトラが支配権を主張できる状態になる。貴族同士の取り決めでも「最も成果を上げた者が、その分大きな権利を得る」と明記されているからだ。
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「くっ……よもやここまで……!」
かつてシチトラを“得体のしれない男”と見下していたファルデン子爵やマルクス・レイヤード侯なども、現実を突きつけられ頭が上がらない。
「男爵殿……どうか我々を、この開発事業に加えてくださいまし。今後も貴方に従って働かせていただきたいのです」
「ふん、最初はあれだけ舐めてかかってたのに……」
騎士団の精鋭が小声で失笑するが、シチトラ本人は堂々と構えている。
「協力するなら構わない。みんなで開拓を進めれば国全体が潤うだろう。おれは誰を拒むつもりもない。……ただし、そっちも安全を維持する努力はしてくれよ」
その言葉に、「は、はい……!」と相手は平伏するしかない。
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大規模な魔物討伐を終え、拠点に結界を張ったうえで、シチトラと仲間たちはひとまず王都へ報告に戻る。
すでに森の入り口から中腹までのルートが確保され、救われた貴族たちが「シチトラがやった」という証言をしてくれる。
余計な競合相手もいなくなったため、ほぼすべての利権がシチトラに集中する形に。
騎士団に追加の増援を送ってもらい、長期的に魔物の再出現を防ぐことも難しくないだろう。
この圧倒的な成果は、後々王都で“大ニュース”になるに違いない。
ラニアとベアトリクスは「やったね!」と晴れやかな顔。
(あとは王都へ戻って正式な手続きだな。)




