第35話「戦火の森、魔物を斬り伏せる剣」
魔物の森――鬱蒼と生い茂る樹木と、濃密な瘴気が漂う危険地帯。
いよいよシチトラは精鋭を引き連れ、幾多の貴族軍とともに森へと足を踏み入れた。周囲には「新参の男爵が少数で挑むなんて無謀」と嘲笑する声も混じるが、シチトラたちが選んだのはスピードと連携を活かした攻略だった。
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「うわああっ!」「魔物が! 押し返せ!」
森へ入り始めた貴族軍が、入口の比較的開けた箇所でさっそく大混乱に陥っていた。狼型魔物や巨大な甲虫の群れが隠れており、通路状になった林道で次々と奇襲をかけてくるのだ。
マルクス・レイヤード侯など大人数を抱える貴族も、いきなりの襲撃に隊列が崩れ、「きさまら、落ち着かんか!」と怒号を飛ばすが、完全に混乱。
そんな悲鳴と怒声が響くなか、シチトラが率いる十数名の小隊が、森の別ルートから軽快に進んでくる。
「シチトラさん、あっちに大きな群れ……どうしましょう?」
ラニアが森の奥を見やりながら焦るが、シチトラは少しも動じない。
「大丈夫だ、ラニア。ベアトリクス、合図を頼む」
「ええ。騎士たちも、結界の展開を」
ベアトリクスが杖を掲げると、風切り音が周囲を包み、視界に浮かび上がる魔法陣が素早く味方の動きを補佐していく。
「うっ……これは結界か?」
他の貴族兵が目を白黒させる。その隙に、シチトラは刀を抜いて駆け出す――
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ザシュッ!
狼型の魔物が突進してきた刹那、シチトラの刀が一閃。魔物は悲鳴すら上げられず真っ二つに両断される。
周囲で驚愕の声が上がるが、ラニアがフォローするように結界で別の魔物の攻撃を防ぎ、ベアトリクスの氷魔法がさらに突き刺さる。
あまりのスピードに、入り口で苦戦していた大軍勢の貴族たちが、一斉に動きを止めてしまうほどだ。
「な、なんだ……あれ……」
「たった十数人で、こんなに……魔物を蹴散らして進んでる……!」
彼らは半ば呆然としているが、シチトラは「おれたちの前を塞ぐな」とでも言わんばかりにまっすぐ道を切り開く。
「騎士たち、続け! ラニア、こっちの茂みを焼いてしまえ! ベアトリクスは右側の援護を!」
立て板に水のような指示に、騎士たちも恐れなく動いていく。
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さらに奥へ進むと、ファルデン子爵の私兵らが森の獣型魔物に囲まれて苦戦していた。
「うぎゃああっ! もうだめだ……撤退だ……」
満足に隊列を組めず、私兵は散り散りになりかけている。ファルデン子爵本人は馬上で震え、指示すら出せない状態だ。
そこへ突如、シチトラたちが横から切り込み、バラバラになっている魔物群を一気に分断する。
ザシュッ、ドガッ、……
人間離れした斬撃が魔物を斬り伏せ、ラニアとベアトリクスの魔法が残りを蹴散らす。息つく間もなく、森に鳴り響く悲鳴は魔物たちのものへと変わっていった。
「た、助かった……」
ファルデン子爵が青ざめた顔で、馬上からシチトラに声をかける。
「無理に大人数で突っ込むからだ。隊列を乱されたら意味がない」
「す、すみません……わたくしは何も……」
情けなく頭を垂れる子爵の私兵たちも、「シチトラ男爵殿に従います」と口々に言うしかない。
堂々と立つシチトラの姿を見て、さきほどまで彼を侮っていた貴族兵が急速に頭を下げ始めていた。
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入り口付近の魔物を蹴散らし、救助された部隊を後衛へ回す形で、シチトラ一行は快進撃を続ける。
ラニアの火魔法が鬱蒼とした密林を安全地帯に変え、
ベアトリクスの風刃や氷術で襲いかかる魔物を撃退し、
シチトラは刀で乱戦を一瞬で終わらせる。
その圧倒的な光景に、あちこちから「すげえ……」「何者だあれは……」という感嘆が漏れる。
森の中腹まで来た頃には、他の貴族部隊の兵たちが自主的にシチトラのあとを追い、連携を取ろうと試みる姿が見られるようになった。
(もともと俺が指揮する予定はなかったが、結果的に周りがついてくるんだな……)
マルクス・レイヤード侯など、最初に見下していた面々ですら完全に黙り込んでいる。
「……くっ、あやつは本物だ。下手に対抗するより、従っておいたほうが得かもしれん」
森を開拓できなければ何も得られない。必死な貴族軍にとって、シチトラは頼れる存在になりつつあった。




