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第21話「戦場へ臨む決意──国の総力と姫の覚悟」

「ここに街道の地形資料、それから魔法学院が提供してくれた魔物対策の魔法書……。よし、ひとまず揃ったな。」



騎士団本部の一角。


最近の大国――ヴァル・アーク帝国――の再侵略を受け、俺たち第三遊撃部隊は作戦会議を繰り返していた。だが、いざ本格的な戦闘になれば、前回のような奇襲だけでは勝ち目が薄い。


そこで、俺は団長に許可を得て、より広範な協力を得るための準備に奔走している。




「シチトラさん、こっちにも魔法学院が貸してくれる備品リストがあります。攻撃用の魔道具や、結界を張るための道具も追加で――」


ラニアが書類を手に、小走りで駆け寄ってくる。学院生として、彼女は“学院と騎士団を繋ぐ窓口”を務めてくれているのだ。


「助かるよ。敵は帝国から魔法部隊も送り込んでくるはずだし、こっちも魔法面での準備を強化しないとな」


ラニアの目には緊張がにじむが、彼女も立派に国を守る一員として奮闘している。こうした“国家総力戦”の雰囲気に、学院の生徒や卒業生たちも連日呼び出しを受け、合流をはじめていた。




「いつでも戦場に行けるよう、魔法使い同士の連携を確認しておきます。防御結界を張る担当、援護射撃をする担当……それぞれ役割を分担すれば有効かと」


彼女の言葉に頷きつつ、俺は地図の上を指でなぞる。


「いいな。俺は隊長格だけでなく、国境の砦の兵士たちにも声をかけて、連携を取るつもりだ。最終的には、王国全土の力を総動員しなきゃ帝国の大軍には立ち向かえない」




作戦全体のビジョンは、すでに脳内にある。だが、それを実行するには兵士の士気が欠かせない。敵は圧倒的な数を誇り、再度の戦火が迫ると聞けば、民衆には逃げ出す者も出るだろう。


……実際、最近は「隣国へ避難する」という動きが増えているらしい。


「シチトラさん、噂によれば国境近くの村や町では、戦火を避けて荷車に乗って出国しようという民が増えているそうです。特に子どもや高齢者は……」


ラニアが神妙な面持ちで続ける。


「まあ、仕方ねえな……民が逃げるのを止めるわけにはいかない。ここに留まって巻き込まれたら、それこそ悲惨だ。けど、その分残る兵士の士気を上げて、国に残る者たちの不安を取り除いてやる必要がある」




そこに、団長やレオンらが合流してきた。


「シチトラ、準備はどうだ? お前の策を実行するには、多くの兵と魔法使いの息を合わせるのが鍵になるはずだが」


「ええ、ラニアたち学院組に協力を仰ぎつつ、部隊ごとに訓練を繰り返します。正面突破は無理でも、戦場でうまく連携を図れれば勝機はあります」


答えながら、俺は自分の胸中で策の練り込みを進める。兵士たちは苦境に立たされながらも、最前線に赴こうという強い覚悟を見せている。そこをうまく鼓舞し、帝国の大軍を迎え撃ちたい。





---




一方、王都の城内。


王女セレスティア・リュミエールは、(さん)びやかな部屋にいながら、深い思案の渦に沈んでいた。


「……国を出る民が増えている? まあ、当然かもしれませんわね。大軍と再びぶつかれば、どれほどの血が流れるか……」


侍女が心配そうに報告すると、彼女はわずかに顔をしかめる。


「民を守るのが王族の役目とは分かっていますけれど、だからと言ってわたくしが嫁いで“丸く収まる”なんて、誰が許可したの。そんなの、わたくしの誇りを踏みにじる行為ですわ」




高飛車な口調とは裏腹に、彼女も心底で苦悩している。もし自分が政略婚を受け容れれば、ある程度の平穏は保たれるかもしれない。だが、それは王女としての誇りと自我を放棄することを意味する。


「民が国を出て行くのを止めることはできないかしら……? 国を離れても、きっと苦しい生活が待っているでしょうに」


「姫様、そればかりは……このままでは戦場に巻き込まれると、人々は思っているのです。すでに恐怖と絶望に満ちていて……」


侍女が肩を落として答えるが、セレスティアは唇を引き結び、つかつかと歩み寄った。




「ならば、わたくしが自ら出向いて、兵士や民を鼓舞してみせます。逃げるも戦うも民の自由ですが、せめて『国が彼らを見捨てていない』ことを示したいわ」


「姫様、自ら戦場へ……! そんな危険な場所に赴くなど……」


「黙りなさい! わたくしだってただの飾りではありません。民や兵士にとって“王女”とは何なのか、ちゃんと見せてあげるわ。……自分の意思で嫁ぐはずもないけれど、だからこそ、この国で生きる者たちには感謝しているのよ」




彼女の瞳に宿るのは、確固たる意志とプライド。そして、自分を支えてくれる兵士たちへの感謝であり、そこには“犠牲になるのは嫌だが、守る想いはある”という複雑な感情が混じっている。


王女が戦場に足を運ぶのは前例が少ないが、セレスティアはそれを恐れていない。ただ、結果として、今度の戦がどう転ぶかは誰にも分からない。


「……ヴァル・アーク帝国に屈せず、この国を護る術はあるはずよ。騎士たちや魔法使い、学院の力があれば、きっと。王女として、わたくしは皆の努力を無駄にしたくないわ。」




そう言い放ち、彼女は窓の外を見つめる。


胸中にはまだ迷いがある。大国との板挟み、政略婚を迫られる不安……。けれども、ここで何もせずに隠れていては、結局“自分らしさ”を失うことになる。


「ならば、わたくしが直接、兵士たちの士気を高めるわ。誰よりもこの国を愛する王女として――民に逃げてほしくないなんて言う気はないけれど、少しでも希望があるなら立ち向かえるわ」




侍女が「姫様……」と呟き、半ば呆気に取られた様子で頭を下げる。危険が及ぶことは分かっていても、この王女の気概を止める術はない。





---




こうして、戦いの準備は国全体へと波及していく。


王女セレスティアは自ら戦場へ出る覚悟を固め、騎士団や学院は総力を挙げて兵と魔法使いをかき集める。そこには国外へ逃げる民の姿もあり、皆がそれぞれの道を選んでいた。




シチトラは第三遊撃部隊の仲間とともに、策の実行に向けて最終的な詰めを行いつつ、兵士や魔法使いの連携を指揮している。


やがて訪れる大国の猛攻に、王国が持てる全力で立ち向かう日もそう遠くない。


「俺の策が、果たしてうまくハマるかどうか……。いや、成功させるしかねえんだ」


俺は地図を見据え、固く拳を握り込む。




国家総力を結集した決戦に、誇り高き王女も兵士たちも、それぞれの思いを胸に臨もうとしていた。



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