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仮面下の下に隠された真実

作者: 春野翡翠

 仮面の下の真実


 僕は学校の中でいる空間がとても嫌いだった。いじめられているわけではない。みんなが仮面を被って自分の感情を隠し、友達と喋るその様子が嫌だった。さっきまで誰かの悪口を言っていたのに、クラスの真ん中で堂々とその人と話す姿に嫌悪感を覚えた。長年、そんなクラスの世界に囚われていたから、僕も何重にも仮面を被り、自分自身を隠すことが普通になっていた。


 しかし、今、僕をこの世の中に繋ぎとめているものがある。それは、2ヶ月前にネット上で知り合った「A」と名乗る人物だ。この人物が彼女なのか彼なのかもわからない。でも、そんなことはどうでも良かった。


 初めてAと話したとき、彼、いや彼女は非常に親しみやすく、共感的で、僕の話を真剣に聞いてくれた。学校やクラスのこと、日常の些細な出来事、そして僕が感じている孤独感や絶望感についても、彼女は理解を示してくれた。話しているうちに、次第に彼女がただのネット上の知り合いではなく、心の拠り所となっていった。


 ある日、Aがクラスの不登校の彼女だということを知った。それは偶然の発見だった。クラスの不登校の彼女、彼女の名前は知っていたが、直接話したことはなかった。彼女が美しい容姿を持ち、それが原因でクラスの女子たちに嫉妬され、無言の圧力や噂話で苦しめられていたことは知っていた。でも、それがAと同一人物だと知った時、全てが繋がった。


 彼女の名前は由香だった。由香は美しいだけでなく、内面も非常に繊細で優しい人だった。しかし、その美しさが災いし、クラスの女子たちに嫌がらせを受けることになった。見た目の美しさだけでなく、性格も優れている彼女に対しての嫉妬や妬みが、彼女を精神的に追い詰めたのだ。そして、唯一信頼していた幼馴染にさえ裏切られ、彼女は心を閉ざしてしまった。


 僕が彼女と出会った時、彼女はすでに深い傷を負っていた。学校に来ることができず、家に引きこもる日々を過ごしていた。しかし、ネット上での僕とのやり取りが、彼女にとっての唯一の外界との繋がりとなっていた。そして、僕も彼女との会話が生きがいとなり、彼女との関係が僕をこの世界に繋ぎとめていた。


 僕は彼女に対して、外見ではなく内面に惹かれていた。彼女がどれだけ美しいかは関係なかった。彼女との会話や、その中で感じる彼女の優しさや共感力、そして彼女自身の傷ついた心に共感することが、僕にとって何よりも重要だった。彼女の存在が僕にとっての光だった。


 ある日、彼女が自殺を考えていることを知った。彼女の心の闇は、僕が想像する以上に深かった。僕は彼女に対して「簡単に死のうとするな」と必死に訴えた。彼女がいなければ、僕自身がどうなってしまうのか、想像するだけで恐ろしかった。


 学校には「白雪姫」と呼ばれる美人がいた。けれど、僕にとって彼女の容姿なんてどうでも良かった。ただ、彼女と話していることだけが生きがいだったのだ。彼女が簡単に死のうとすることが、僕には耐えられなかった。



 そして、ある日、彼女から箱が送られてきた。箱の中には封の掛けられた3枚の手紙が入っていた。手紙には彼女の想いが綴られていた。それを読んでいるうちに、彼女の心の痛みと、僕に対する感謝の気持ちがひしひしと伝わってきた。手紙と共に入っていた写真は、彼女が最も幸せだった瞬間を捉えたもので、僕との思い出が蘇る一枚だった。



 ある日、暗く閉ざされていた僕の部屋に光が差し込んだ。彼女が僕に箱を残していたのだ。そこには封の掛けられた3枚の手紙が入っていた。手紙は僕に宛てたメッセージと、彼女が撮ってくれた写真だった。


 1枚目の手紙


「あなたへ


 私はこのクラスの中で、自分を見失ってしまいました。美しいと言われることがこんなにも辛いとは思わなかった。友達だと思っていた人たちに裏切られ、何度も何度も傷つけられました。でも、あなたと出会って、初めて自分の本当の姿を見せることができました。あなたがいてくれて、本当に救われました。ありがとう。


 A」


 2枚目の手紙


「あなたへ


 あなたが私にとってどれだけ大切な存在か、言葉では表しきれません。あなたとの会話が、私にとって唯一の救いでした。あなたがいてくれたから、私は何とかこの世界に踏みとどまることができました。だけど、もう限界です。私はこれ以上、仮面を被り続けることができません。でも、あなたのことを忘れません。


 A」


 3枚目の手紙


「あなたへ


 この写真は、私が最も幸せだった瞬間を写したものです。あなたとの時間を思い出しながら撮ったものです。この写真を見るたびに、あなたとの会話が蘇ります。どうか、この写真を大切にしてください。そして、私のことを忘れないでください。さようなら。



 僕はその手紙と写真を手にし、涙を流した。彼女の痛みと悲しみを共有し、彼女の存在がどれだけ大切だったかを再確認した。彼女はもうこの世にはいないかもしれない。でも、彼女の思い出とともに、僕は生き続けるだろう。彼女の仮面の下に隠された真実を、僕は永遠に忘れない。

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