表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/37

33 祭りなのか暴動なのか

 世界が異常気象でアタフタしているというのに【雨ニモマケズ風ニモマケズ】庭には仮の屋根壁を作って、バーベキューの準備をしてある。

 肉牛君を食う前に盗まれた観が非常に濃厚現場である。

 夏目が庭に熾された炭火へ、直に当たってコンガリ焼けている。

 三毛子は焼き網の横に置かれた油壺を眺めている。

 看護師長が肉牛君の失踪は仕方ないと諦めて「貰い物だけど御肉があるから焼きましょう」テーブルに並べている。

「妹殿、今時貴重なクローンではありませんと札の付いたその肉、誰から貰ったのかの」

「昨日、遊びにきたペロン星人の方に頂きましたの」

「肉牛君が行方不明になったのは何時かの?」

「猫! 教えたでしょ。一昨日よ」

 気付け、困った姉妹である。


「お姉さん、ひょっとして、猫ちゃんが言いたいのは、ペロン星人が犯人じゃないかって事じゃないかしら」

「うちから盗んだのを御土産って持って来たっての? まさか、そこまでやるうー。やるわね、あいつ等なら」

 いかん、こやつ等の展開は早すぎる。

 十分な調査もせず、ペロン星人を牛泥棒として逮捕する気である。

 あいつ等の普段は堅気でないから、この様な事態で疑われても仕方ないが、大勢いるうちの誰がやったかは分からんのである。

 これでは、どこそこの国民は総て悪者と言っているアホタレ国家と同じになってしまう。


「まだ何も分かっておらん、ただ被疑者の一であると言っただけである」 

「それでも、牛一頭誰にも気付かれずに運ぶなんて芸当やってのけられるのは、あいつ等くらいしかいないでしょ」

「そうでもなかろう。ユニック車を持ってくれば簡単に吊れるのではないかの」

「猫ちゃん。ユニックで吊るには、牛さんの御腹に帯を回さなければなりませんよね。でもね、牛さんが消えた跡には、人の足跡も塀を乗り越えた痕跡もないのよ」妹が肉を網に乗せて焼く。

「そうそう、塀には一応センサーがあって、これは作動してるのよ。誰も入ってないのよ。分かった」赤チンはひたすら焼けた肉を食う。

 吾輩にも肉くれ。


 しつこくねだってやっと肉が貰えた。

 よく熟成されたものである。

 少なくともこの肉は、失踪して一週間もたたない肉牛君ではない。

「ペロン星人に聞いてみてはどうかの」

「本格的に脳ミソ腐れてるわね。聞かれて『はい私が盗みました』って牛泥棒が言う訳ないでしょ」

「御姉様、ペロン星人が白状しましたわ。私達の牛預かっているそうよ」

 まだ聞くか聞かないかの結論さえ出ていないのに、妹がペロン星人に問い合わせていた。

 正直というのか世間知らずというのか、私達の牛盗みましたかと被疑者に直接聞くとは勇気がある。

 それもさることながら、私が盗りましたと言う奴も馬鹿が付く正直か法を知らない非常識である。


 いずれにせよ、犯人が分かったのだから事件は解決。

 ペロン星人が黙って肉牛君を連れて行った御詫び方々、これから挨拶に来ると言うし、めでたしめでたしとしておこう。

 しかし、ペロン星人は性格が人間とも猫ともつかぬ不安定因子を多く含む者である。

 素直にごめんと言って帰してくれるとは思えん。

 ただ、それをここで言ってしまっては、折角の御肉が宙に浮く。

 有難く全部いただいた後、四の五のもめてほしいものだ。

 赤チンは戦闘態勢に入っているが、妹は吾輩の気持ちを知ってか知らずが同じ気持ちか、ひたすら肉を焼いては食い、生の肉を吾輩に放り投げている。

 一緒に焼こうとしていた野菜はそっちのけ、まずは肉から片付ける作戦に出ておる。


「盗まれたなら盗まれたでも、保険に入っていたからいいんだけど、帰って来るとなると厄介よね」

 赤チンが妙な事を言い出す。

「そうですわね。明日には調査員の方がお見えになるのに、困りましたわ」

「ちょっと待て。肉牛君は盗難保険に入っておったのか」

「当然ですわ。あれでも一千万は下らない最高級肉牛の種牛ですもの」

「何時から種牛になった。肉になるのではなかったか」

「最初はね。そのつもりだったんだけど、肉屋に見せたらとんでもない高値つけたから。増やせば二倍三倍でしょ」

 保険は嫌ではない。必要なものである。将来少しでも不安が有れば誰でも入る。

 が、こやつ等が入った理由はそれ以外に有るような気がしてならん。

「使いものにならなくてもいいのよ。保険へ入っていれば、何時かは稼ぎになるでしょ」

「随分と早く儲けさせていただけると思ったのに、残念ですわ」

 そっちの方向で牛泥棒と騒いでいたとは、動物を何だと思っている。

 とは言ったものの、保険に入れてもらえるのは牛からすれば幸せなのであろうか。

 今回は盗難保険であるから、プロの酪農家ならば掛けていてしかるべき保険だが。

 素人が種牛と登録して、数千万の保険に入れているとは気が付かなんだ。

 誰からそんな詐欺同然の稼ぎ方を教わった。どうせハリネズミだろう。聞かんでもいいわ。


 動物病院の庭は、後から集まってきた者達で宴会気分が盛り上がっている。

 さっきまで牛泥棒をとっつ構えると息巻いていたのに、犯人はペロン星人でこれから肉牛君を返しにくると聞いた途端シュンとなった。

 そしてすぐにハリネズミを呼び出し、ペロン星人にさらったままにしておいてと頼んでくれと言っていた。

 それが何時の間にやら、それは大変に良い事だとなって、隣近所から漁師やら宿で暇している者達まで集めてのパーティーである。どうなっている。


 いくら食い物が不足しているとはいえ、土地だけは豊富にある地域だ。

 少ないとはいっても、野菜や魚も集まって来る。

 何時もの食卓より豊富な食材で、密造酒まで混じって来るから底なしのドンチャン騒ぎになってきた。

 ほとんど正体がなくなった頃になって、ペロン星人が小型の宇宙船で肉牛君を連れてきた。

 しかし、本当にあの肉牛君かと思う。見る影もなくやつれ、とても肉など取れたものではない。

 ハリネズミの説明によれば、地下都市の試験農場で、種牛のクローンを作る為に少々細胞を貰ったが、死んではいないから残りは返すといった具合である。

 随分とスリムになったものだ。


 こんなのでは、いくら返してもらったからと赤チンが納得する筈はない。

 ハリネズミの音頭取りで始めた肉牛作りであるから、真向から苦情を言えんでいるのかとも考えたが、そんな関わり程度で意を表さぬものではない。

 それに、帰ってきた肉牛君を見て偉く喜んでいる。

 どういったマインドコントロールで、鬼の性格をあの様に穏やかにしたのか。

 ハリネズミに問いただす。

「姿形が別牛になったし、鼻紋も変えてあるからね。保険屋は誤魔化せるのさ。保険金はもらえるんだよ」

「もらっていかんとは言わんがの。その方法、所によっては保険金詐欺などと言われているのではないかの」

「そう言う国もあるらしいけど、帰って来たのは何処をどうやって見たって別物だから」

「DNAとやらはどうなっておる」

「保険契約の時に、別のDNAで通したからね。問題ないよ」


 今回引っ掛けた保険会社は、会長が死んだ後にクランク商事の生き残りがやっている。

 仕組みはノミ屋と一緒で、大手の保険会社の看板を上げてはいるが、安全牌は親会社に保険金を入れずに自分達で処理している。

 いざ大きな金額の保険支払いが自分達に降りかかりそうになったら、一週間程前に契約していた事にして、保険金を親会社に振り込んで処理する。

 せこい悪事で小金を貯めているから、力を付ける前に潰しておこうと、山城とハリネズミが手を組んで仕込んでいた肉牛君保険金詐欺である。

 安全だとふんで保険金を飲んだ残党から、有り金全部ふんだくってやると気合を入れている。 


 親会社には今回の経緯を既に連絡済で、この件に関しては一切保険金が支払われない様にしてある。

 出さないと言ったら、ペロン星人と山城組が取り立てに行く段どりになっていた。

 保険金を貰ってしまえば用済みとなった残党は、警察が逮捕に向かう事になっている。

 至れり尽くせりの残党狩りである。


 日本中いたる所災害に見舞われ、何処の病院も寝る間を惜しんで患者の手当てに励んでいるというのに、ここだけは馬鹿に呑気である。

 街中にバリアでも張ったか。

 雨風は強いものの、災害の気配すらない。

 もっとも、以前噴火した火山はそのまま煙を上げている。 被災地の真っ只中であるのに、のんびりして見えるのは広い大地に人がゆったり動いているからだろうか。

 ペロン星人が来たので、ついでに診療所辺りはどうなっているか聞いてみた。

 すると、あの地域には救済の為に自衛隊まで出動しているとの事である。

 被災地での救援活動は軟膏し、病院は飽和状態で収拾がつかなくなっていた。


 ならば、比較的落ち着いているこちらの病院にも患者が運ばれてきそうなものだが、そんな様子はうかがえない。

 病院の医師がここで宴会をやって、べろんべろんになっていられる平和ぶりである。 

 仮にこの街に急患が運ばれてきたら、助かるものも昇天してしまう。

 どうしてこんなにのんびりしていられるのか。

 ここも不思議な世界の仲間入りをしたのか?

 その辺の事情はどうなっているのか、酔っ払いの話を継ぎ接ぎして解明すれば、目ぼしい医者は全員被災現場に飛んで行ってしまっていた。

 患者を搬送して来ても対応できないのは、自衛隊も救急も知っているから、誰も連れて来ないのだとの結論に達した。 

 しからば、今ここで飲んだくれている医者どもは、目ぼしい医者から外されたと考えて差支えない者である。

 ただし、考えるのはいいが、口に出して言ってはいかん現実である。

 成る程、酔っ払っちゃいたい気持はようく分かる。

「いらないなら要らないって、はっきり言ってくれればいいのに『君達は現場よりもこの病院になくてはならないスタッフなのだから、しっかり留守を守っていてくれ』だなんて苛いわ」

「いいじゃない。いらないって言うならそれで、こっちはこっちでやるだけの事してりゃいいんでしょ」

 やるだけの事をしていればと言うが、やれるだけの事のうちに入っていない宴会としか思えない。


「本当は極秘なんだぞ」肉牛君が地下都市の牧場について酔った勢いで教えてくれた。

 牧場には牛だけでなく、鳥や豚に始まりトナカイだワニだと、人間が食用にする動物がわんさか飼われている。

 魚まで地下で養殖しているのだから凄まじい施設である。

 加えて、牧場と別の階では野菜や果物。

 これまたふんだんに採取されている。

 地上で困っている人に少しでもまわしてやればいいのに、まだ試験段階だからと、もっぱら食すのは地下都市の住人だけである。

 たまたま、今日は外の連中でも試してみようと地上に持ち出した。

 それが、今、居残り連中が飲食いしている物である。

 どうりで、皆で持ち寄った食材にしては、後から後から出て来る御馳走と見ていたが、ようするに人体実験であるな。


 手頃な人体実験も終わり、激ヤセした肉牛君も帰って来た。

 吾輩は診療所へ戻り、被災者救助の御手伝いをする事にした。

 現場は絶対に猫の手を借りたがっている。

 しかし、飛行艇で飛べば一時間もしないで行ける。

 折角来たのだから、っくり温泉に浸からん手はない。

 少々酒も入っている。酔っ払い運転はいかん。

 したがって酔いが醒めるまで、そうさなー。

 あと二三日港屋でゆっくりするのがよかろう。


 宿で湯に入ってからは何時もの如く、招き猫布団に座ろうとロビーに出ると長火鉢イタチ。既に座してのける素振りも見せん。

 いかにもこの座は奪ったと言いたげに、ふてぶてしく吾輩を睨み付ける。

 要らんわ、そんな薄ら汚れた座布団。

 風呂に入る前に挨拶してやろうと、女将の部屋に向かうと、奥から大きな声がする。

「出版が決まったって、直ぐに御金が入って来やしないわ。それじゃあんまり申し訳なくて、何でもいいから手伝わせてください」

 子雪が話す仕草は、ぐっと握った両の手を畳につき頭を下げながら感極まったか、しとしと絶えなく落ちる滴が手の甲から畳の縁へと一筋の流れを作っておる。

 女将は唖然としているが、涙の理由を分かっているからまあまあと宥めている。


 深い事情は知らんが猫としてはこういった場合、ニャァと小さく鳴いて膝っ小僧辺りでグリンとやってやるのが宜しいとされておる。

 セオリーどうりでいささか恐縮するが、人が猫を飼うのはこういった時に備えての事もある。

 しっかり役にたってやろうと小雪の所にすり寄って行く。

「吾輩の事でもめておってなー」どっ! いきなり出て来るんじゃねえよ、幽霊。

 そうであった、ここは幽霊共の巣窟であった。うっかりしておった。

 しかし、うっかりもこの場には適当な塩梅であったらしく、吾輩が夏目に驚いて腰を抜かすのを見て二人とも顔を見合わせ大笑いする。

 嬉しい様な恥ずかしい様なである。


「なにが因果で小雪が泣かねばならんかったのじゃい」すると笑いが治まらん二人に変わり、夏目幽霊が説明してくれた。

「吾輩の小説が出版される事になったのだがの、小雪が書いたと言う事にしておってな、まあ出版社にしてみれば早く書き上げてほしいところだろうが、小雪には宿の手伝いがあるからの」

「手伝いなど、書いて終わってからまとめてやればよかろう。どうせ真面な客など来ておらんではないか」

「それがだ、皆が忙しい思いをしている中、自分だけ書き書きばかりしてはいられんというのが小雪の言い分なのだよ。居候のただ飯喰らいが嫌なのだよ。分かるかね。猫」

「おまえ、まんまのゴーストライターじゃのう。それに、居候のただ飯喰らいで吾輩を見るな」

「いや失敬。つい本音が出てしまった。まあ幽霊だから、ゴーストライターはいたしかたない所だと吾輩も思う。今更稼いだからとて使い道がないしなあ」


 以前から、夏目幽霊を見たいと取材に来ていた超常現象雑誌の記者に、ちょいと顔を見せしてやったら、知り合いの出版社を紹介してくれたとか。

 百年練った新作を書ける事になったのだが、どいつもこいつも馬鹿タレである。

「おい夏目。この宿で今一番暇しているのは誰じゃ」

「まあ自慢ではないが、吾輩かの。聞かんでも解っとろうが、猫」

「だったら御前が書けよ。パソコンピコピコできるだろ。使い方分からなかったら教われよ!」

 問題解決である。何と、吾輩の采配のすんばらしき事。自分でほれぼれするわい。


 其の場に居た全員がなるほどと感心している所へ、仲居頭が来て「お客さまがいらっしゃいました」と言う。

「どなたはんが来たんどすか」女将が聞くと「学校の生徒さんでございます」

 仲居頭は、すぐ前で動かない泣べそ顔の丸まっていた背中へ手を置いて、頑張んなさいよといった風の笑顔を浮かべて答えた。

 女将はロビーへ出て行く。

 学校といえばここでは山城学校の事である。

 生徒達にも暫く会っていないから、どうしたのかと女将にくっ付いてロビーに出て見る。


 何時ぞやハリネズミが、ガキ共の音楽の先生にと連れてきたイカレラッパーと一緒である。

「この子達のデビューが決まりましたので、一言挨拶にと伺いました」

 顔は不出来だが、言葉使いは人並みに知っているとみえる。

 夏目の出版にしてもそうだが、デビューが決まったとはいえ何処で披露していいものやら、今は何処も彼処も危なっかしい所ばかりである。

「やっちゃん先生が務めている病院の近くに小さな劇場がありましてね、そこの専属で入る事になりました」

 このオヤジ、やっちゃんの病院がどんな所に建っているか理解しているのか、ハリネズミの知り合いならば知っていて当然か。


 世界中の被災地で公演して周ると予定していたが、今と

なっては災害ばかりか紛争の渦中である。

 どこへ行くにも命がけの公演と心配していたが、この子供達が安心して暮らすにはあそこが一番かもしれん。

 幸にして山城爺さんのように、世間を敵にまわしてでもこの子等を守った者がいる。

 私学に迎え入れて育てようなどといった外れ者がいたから、今まで生きながらてきた。

 今頃、この子らの住んでいた所はどうなっている事やら。

 災害が起こらなくとも、生き残るのに精一杯の地域である。

 どこへ行っても人が人として暮らせぬから、我が子と言えども売り払う。

 誰かから奪わねば食えんから、子の見ている前で親を殺す邪道がまかり通っている。

 診療所の地下に広がる巨大施設が、食い物をありったけ吐き出せば、どれだけの人間が今日明日を生きて行けるか。

 そんな事は分かりきっていても、この期に及んでもまだ、試験中だといって中の者だけが困らん生活を続けておる。

 これまでの数百年数千年、虐げられて生きてきた者達が、長い間耐えてきたから優位に立って栄華に浸っているのか。

 自分達と同じ不幸を生み出したくなかったら、あえて地上の者達を許し救ってやるのが人間の知恵と思っておったが、どうもなかなかそうはいかんと見える。


 考えて見れば、地下の者達の言わんとする事も一利ある。

 これまで、困ったからとて誰も助けてくれなかったから、生死の境目を彷徨ってようやく辿り着いたのが地下世界である。

 地上で何の苦労も知らず、平々のうのうとして来た者達を助けてやらねばならん義理など何処にもない。

 限られた資源である。

 少しばかり余計に有るからと、援助物資と言って放出する訳にはいかん。

 うっかり地下世界の情報が外に漏れればこの時代、最も貴重な食料という御宝の奪い合いで、地下世界と地上世界の戦争が起こりかねん。

 それでなくとも、シェルターに入れろ入れないで争いが絶えないのが現状である。

 今少し、世情の不安が収まるまでは、地下からの救援物資は待たねばならんのか。切ないのー。


 子供達を見ると上は十四・五から六・七歳まで。

 十二人が並んで女将に「御世話になりました」と挨拶をする。

 こ奴等の演芸は何度か見せてもらったが、上達が早く見応えがある。

 ダンスと称しているが、殆どアクロバットに近い動きの連続で、とても子供とは思えん迫力である。

 お別れに、これからロビーを使って披露してくれるという。

 近所の者にも寄ってもらい、即席のダンスショーとなった。

 これから先こやつ等の演技は、入場料を支払わなければ見られん。

 吾輩は猫であるから、そのへんのところはどうにでもなるが、地下の施設で常駐となると、地上からそう簡単に入っていけるものではない。

 ほぼ見納めといったところである。


 以前観覧した時とはまた格段と動きが素早くすっきりとしていて、即興でロビーにある物を何でも楽器にして叩きリズムをとる。

 それに合わせた踊り手が、椅子やテーブルの上で絶妙なバランスを見せ、床でくるくる駒の様に回ったり宙返りを連続してロビーの端から端まで飛んでゆく。

 サーカスなのか踊りなのか、見事としか言えん。

 リズムに合わせての歌は伴奏もなく声だけなのに、まるで楽器を奏でているのではと聞き違える程似通った音まで入り混じっている。

 これならばどこに出しても一流と騒がれ、一躍スターダムに駆け上る事間違いなし。

 しかし、今は時代が時代である。

 この様に優れた芸能であっても、それを見るべき人々が毎日を生きるに精一杯で、評価し鑑賞する者が不在の状態。

 世が世ならばトップスターも、地下の小さなホールで演じて生きるのが精一杯。

 早くこやつ等の力が、広く世間に知れる日が来ればよいのだがのー。


 一通りロビーでの演技が終わると、今夜は宿に泊まって明日には出発する。

 少し寂しげである。

 吾輩はこの者達の警護かたがた、共に地下施設まで行ってやる事にした。

 地下は安心して住まえる所でも、そこまで行くのが一苦労なのである。


 翌朝、早くに一風呂浴びて飛行艇をふわふわさせている。

 子供達を待っていたら、ペロン星人が潜水艦で子供達を迎えに来た。

 こいつ等が関わってくるとロクな事がないのだが、今回ばかりは来てもらった方がよかった。

 地上は真面に通れる道路が殆どなく、有ったとしても自警団と山賊がいがみ合っている。危険なばかりである。

 戦闘に巻き込まれたら、吾輩だけではとても守り切れん。

 狭いばかりの潜水艦だが、地上を移動して地下シェルターまで行くより数段安全である。

 これならば安心だから、吾輩は被災したうえに暴動が起きて踏んだり蹴ったり状態の戦闘地域へ直接偵察に向かった。


 被災地では野営医療テントが設営されている。

 被災者ばかりでなく、地下シェルターを探っていたゲリラとの戦闘で倒れた者も担ぎ込まれている。

 救助チームと協力して救護にあたる医師団には、ヤブやあおいも混じっていて、次々と搬送される患者に右往左往している。


「先生お久しぶりです」

 救護隊の隊長がヤブに敬礼をしている。

 随分前に港屋が噴火被災の救護所になった時、総司令官がヤブであった。

 もはや国家が国としての体裁をとれていないから、破れかぶれの人事であろう事は明らかである。

 ここでもヤブが、医療チームのトップとしてのさばっている。他に医者はいないのかよ!


「ああ隊長さん、震災いらいですかねー。あの時はどうもお世話さんでした」

「いえ、噴火以来です。こちらこそ、コレクションまで見せていただきまして」

 ヤブのコレクションとは何ぞや、朱色のシーグラスは疫病神のコレクションである。

 こいつが何かを集めているとしたら、御縁がありますようにと五円玉くらいしか思い浮かばん。

「内緒ですよ。黒岩さんのも増えましたよ」

 黒岩ならば誰もが知るガンマニアである。

 未来科研勤務になってからは、バズーカから重機関銃に戦車まで持っていると噂されている。


「南部さんが、この村に住んでいると聞いたのですが、ご存知ありませんか」

 この隊長は随分とマニアックな事まで知っておる。

 南部と言えば卑弥呼の弟である。

 今は偽名の南部鉄瓶を名乗り、遙のボディーガードをしておる。

 こやつの銃火器コレクションも凄い。

「遙んとこの鉄っちゃんかな? 最近越して来てさー、彼のコレクションも凄いよねー」

「やはりこちらでしたか、一度お会いしたいです。我々の間では伝説のスナイパーですから」

 幼かった時の境遇が不憫であったから、誰も責められるものではないが、なんとも恐ろしい家系である。


 周囲が緊迫しているというのに長閑な会話をしている最中、自衛隊員が駆け込んできて敬礼をする。

「報告します。南部地域で暴動発生。救助隊員が入れない状態であります」

 戦争でも決め事を作ってやっている時代である。

 暴動と言えども救急隊員の出入りくらいは自由にしてやってほしいものだ。

 どれ程の暴動になっているものやら、救助チームがキャンプをしている地域まで飛んでみる。


 キャンプ前の屋台では、有朋と組員が商魂逞しく売り声を張り上げている。

 組員総出の客引きである。

「薬草入り焼きそばいかがっすかー」

 有朋がいかん物を売っている。

 ノホホンとした地域ならばそれでも売れようが、ここまで状況が悪化した戦場では無理がある。

 漢方薬より痛み止めとか、現実が見えなくなるアイマスクの方が良く売れる。

「蕎麦いかがっすかー、薬味には漢方薬乗ってマース」

 子分もいかん物を売っている。

 無害なら薬味にしてもよろうが、薬草とは裏を返せば毒草であったりする。

 厚生労働省では、危険な薬草は販売禁止になっている。 

 それを売ってはいかんのだよ、子分君。

「タバコいかがっすかー、ニコチンゼロ、タールゼロ、ヨモギとドクダミたっぷりのタバコいかがっすかー」

 いつか骨折した腕が直っていないのに、脱走同然に退院した若いのまで参加している。


 今更こんなせこい商売をせんでも、十分御宝は持っておろうに勤勉な奴である。

 満更知らん仲でもないから一言忠告してやった。

「おまえ、隠れていなくてよいのか」

「借金取りが怖くてヤクザやってられるか、今こそ稼ぎ時、じっとしてられないね。ユーもがんばっちゃいな」

 吾輩へも商売の手伝いをすすめるか……。

「射殺命令が出ておるのだがの、おぬしの」

「いつ……」

 まだ知らんかったのか、呑気な命である。


「ところで、おまえら、その葉は何処から持ってきたのじゃ」

 こんなご時世に、作っているのは知る限りあいつしかいないが、確認の為に尋ねてみた。

「病院よ、病院」やはりそうであった。

 ここはどうせ出来ても有朋が死体だけである。

 特に慌ただしく見学する事もなかろう。

 それよりも、地下病院と野戦病院に皆して出張ってしまった地上病院がどうなっているか気掛かりだ。

 山武第三病院の敷地内には、証人保護プログラム用のアパートがある。

 以前、青年が脱走する前まではここに住んでいた。

 屋上ハウスのガラスは割れ、二重ハウスになった中側は風でちぎれたビニールがバタついている。

 まだ育つであろう薬用植物が、わんさか植わっている。

 明らかな違法栽培現場である。

 黒岩が葉っぱをちぎって騒いでいる。


「ここで畑仕事始めちゃったの、君?」

 聞かずとも既にめぼしはつけているだろ。

 ちょいと横を見れば、何とも御間抜けに青年が捕まっている。

 何時でもボーとしているからそんな事になる。

 まこと懲りない奴である。

「いよいよ保護する価値ねえべ、この野郎」

 北山が今更になって青年の非行を怒っている。

 随分昔に殺した気になっていたのは何処のどいつだ。


 北山が青年を引き回し。拳銃を頭に突きつける。

「お馬鹿でも元刑事ですよ。昔マフィアの現役やくざを擁護する証人にるなんて奴は絶滅危惧種ですよ。撃っちゃったらまずいでしょ」そう言いながらも、黒岩はバッテリーコードで電気火花を飛ばしている。

「でも主犯は吐いてもらわないとね、僕ちゃん」

 サイボーグになったと言われているが、黒岩は魂まで失ったゾンビになっている。

「おめえ、拷問して吐かせたって証拠になんねえぞ」

 まだ北山の方が刑事らしい思慮を残しておる。

「報告する気ないです」

 容赦なく青年の乳首に電極を当て、黒岩が悪魔の微笑みを浮かべる。

 それをたまたま、屋上へ遊びに来た子供が見ている。

「うらガキャー、見てんじゃねえ。R指定だべ、この場面は」

 すっかりR指定だが、怒りながらも加担している。

 北山……その手に持った電極の説明をしてみろ。


 拷問を見学していると、二人に呼び出しが掛かった。

 救助隊が入れない南部地域への応援要請である。

 そういえば、有朋のアホタレを見たせいで暴動の偵察をおろそかにしている。

 朱莉ちゃんに連絡して誰か様子見に出ているか聞くと、シロが野次馬に行っていた。

 それならば、一旦地下の診療所に引き上げて休憩である。

 救助隊すら入れない地域であっても、シロなら容易く出入りできる。

 微弱なりしも生体エネルギーを使って飛行しているのだと聞かされてから、余計に疲れる気がしてならん。


 シロが送ってくる自撮り画像を見ていると、奴はうっかり人の姿で地上に降りている。

 もっとも、白虎でいてはもっと危ない映像になっているがの。

 上空から見て来ればいいだけなのに、下まで降りている様子からして道に迷っている。

 白衣の人間姿で危険地域に入って迷っているのだから、何処からともなく助けてくれと声がかかって当然だ。

「ここ……どこ?」

 足を引き摺る怪我人に聞いている。

 足に折れた木の枝が刺さっている。

 怪我人が「あんた医者だよね」そう聞かれれば「俺の事か、精神科医だぞ、めんどくさいなー。外科手術やった事ないよ」つっけんどんに振り払う。

 このあたりは流石に化け物の風格を表し、非情に徹して何のためらいもない。

 怪我人は「何だっていいから、治療してくれよ、痛てえんだよー」と縋る。

「知るかよ、おまえ、他人だし」そうだ他人だ、他人を助けるのが医者の仕事だ。

 それなのに、シロは子虎になって猫柳の木に逃げてしまう。

 それでも自撮りは続ける。相当のナルシストである。

「こんな所にいると、鬱になっちゃうよ。いいカウンセラー探さねえとな」御前がそのカウンセラー・精神科医だ。

 人間界では医師が患者の病に侵されるという現象が頻繁に起っていると聞いたが、化け物をも打ち壊すとは恐るべし気の病。

 怪我人が困惑している。

「猫が居る、幻覚まで見える。助けてくれよー」

「猫じゃねえよ、虎だよ。しょーがねえなー」

 シロが大きくなり、怪我人をくわえて病院に向かって飛び出した。

 それを尻尾にとめたカメラでこれまた自撮り。自伝映画でも作る気か。


 そんなこんなのやりとりを眺めていると、直ぐ前の公園で暴徒鎮圧平和維持軍結成記念式典会場兼作戦会議室成る立て看板を設置している。

 今頃会議室を作ってどうにかなるとでも思っているのか。

 設置が終わると、要所要所に展開していた部隊の長が集まり会議が始まった。

 現場を視察してきたシロが意見を言う。

「暴動なのかなー、パニックって言った方が正解かな、元々凶暴な奴が多い地域だったからな、そこらじゅうで喧嘩してるし、どいつが何の為に暴れてるのか訳わかんないよ、行ったってしよーがないと思うけど」

 投げやりだが冷静な見方である。

 途中動員された北山が、拳銃を磨きながらの意見はこうである。

「暴動の理由がわかんねえよ。正義の戦いってやつか祭の続きかもしんねえべ、この村の場合はよ。だもん、片っ端からぶちのめすって作戦はいかんべ、まずは話聞いてやんねえと」

 今まで自分がやって来た事と真反対の意見を言っている。 最も性質の悪いタイプである。

 遙は何時でもはっきりしている。

「何が正義よ、嫌な奴は悪なの。正義の理由なんて後からどうにでもなるの。勝った者が正義。これ世界の常識でしょ」

 この極論に対して、南部は少しだけ慎重である。

「でもよー、正義イコール力って理論だろ、それって。それじゃどっかの国と同じじゃないかい。物は言い様で、営利誘拐は募金活動だし、抗議集会は暴動とも言うだろ」

「そのならず者国家が世界を仕切ってるの。そのルールに従ったら問題でもあるっての。あんた、テロ」

 ボディーガードとガードされている者の口論で、険悪な雰囲気になった所へ有朋組の若衆が飛び込んできた。

「組長どこに行ったか知りませんか」即刻放り出された。


 会議の席には現場を写し出す大型画面が設置されている。 そこには、科学的に説明不可能な生物がウロチョロしているというのに、誰も気付かない。

 この異変にも気付かん盆暗ばかりが集まった会議室で、いかん現象の象徴的画面を見ていても何の解決にもならん。

 最前線に飛んで、もっと詳しく現場の状況を知らせるべく吾輩は立ち上がった。なんと偉い猫なんだ。

 暴動などと生易しい状況ではない。

 激しい局地戦の真っ只中である。

 そんな中でも、逃走中の有朋だけは簡単に見つかった。 

 何処にいても目立つ奴だ。

 その隣りでギクシャク走り回っているのは、今まで一度も話題に上った事のない見慣れぬ生物である。

 漫画に出て来る異星人との遭遇。

 しまったと気付くまでに時間はかからなかった。


 有朋が組から持ち出した日本刀を振り回す。

「てめえら人間じゃねえ、たたっ……タコみてえだな」

 どう見てもタコだが、この場合謎の宇宙人とするのが正しい見方である。

 少し先では異星人の攻撃を避け、南部と遙が蛸壺に避難している

「プランHに変更」

 南部が辺り一帯に聞こえる大声で指示するが、御前等二人しかおらん。

「プランどこまであんの」遙の疑問は当然である。

「Wまで」と言っているが、逃げるしか手立てがなかろう。 どっちに向かうかでプランが変わっていると見た。

 二人が異星人の攻撃から逃げて走る。

 一旦停止してバズーカを敵に打ち込む。

 四方八方から聞こえる爆発音。

 こんな所にいたのでは飛行艇ごと吹き飛ばされてしまう。

 しかし、あの異星人は何処から湧いて出てきたのか。

 逃飛行しながら横を見ると、南部と遙が一緒になって走っている。

 乗せろと騒いでいるようにも見えなくはない。

 ここで下手に断ったら、後々面倒な事になる。

 少々過積載ではあるが、頑張って乗せてやった。

 実際の話、疲れるのだよ定員オーバーは。


 二人は怪我をしていたので、ヤブのいる野戦病院まで乗せてやった。

 用事は済んだし、やはり危ない所には長居するものでない。

 ささっと引き上げようとすると、ヤブと黒岩がコソコソ話込んでいる。

 皆が忙しくしているのに、どんな時でもマイペースを崩さないのだけは感心する。

「鉄っちゃん、隊長が会いたがっていたよー」とか言っていたかと思ったら、上空からレーザー照射である。

 病院も安全ではないのかよ。誤爆じゃねえだろうな。

 それでも走りながら話続けている。

 もはや吾輩の伴走が有っても気にするでもない。

 逃げねば撃たれてしまうから当然だが、少しは気付いてくれよ。


「で、さっきの話だけど、家柄に問題でも」

 ヤブが黒岩を突っついて転ばそうとする。

「家柄じゃないです、悪魔だったら魔力使ってあんなのやっつけちまえって言ったんです」

 悪魔とはヤブの事か、自分が疫病神だと言う事に薄々勘付き始めたか、悪魔ではない疫病神だよ。

「神にマージャンで負けちゃうんだよー。あんな化け物に喧嘩で勝てる訳ないでしょー」

 ヤブは今、私生活と神の生活がごっちゃになって混乱しているらしい。

 酷く危険な状態であるが、これ以上悪化する要素が見当らんのは何故だろう。


「最近なんか仕入れてないですか」

「そーねー、戦車買っちゃったかなー」

 とうとう金の使い道がなくなって戦車まで買ったか。

 その余った金、少しだけ有朋にくれてやれ。

 元をただせば、有朋が博打で稼いだ金じゃろ。

「君は最近、入庫がないよねー」

「死んでたもんで、すいません。何で、戦車出動しないんですか」

「えー、まだ新品だよー。払い下げじゃないんだよ。10式だよー」

 やはり、ヤブは何処まで行ってもヤブである。救えん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ