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28 ヤブの襲名披露でアルトイーナ撲滅


 ヤブが病室に閉じこもっていたら、病室ごとドームと呼ばれている地下都市に移動した。

 病室もどきの化け物は、自由に移動できる困った奴なのである。

 便利だが、吾輩まで一緒に移動して欲しくなかった。

 移動完了とか言っちゃってくれたが、外を見ると水中から眺めている様な感じは相変わらずである。


 ドームを案内してくれるとかで、アンドロイドの十五号が病室のドアをノックしてぶち破った。

 圧力センサーが故障しているようだ。

 ヤブは今まで街の者からエンガチョされていた者で、やっちゃんを見舞いに地下病院へ行くにしても、トンネルをくぐった先の病院だと騙され続けていた。


 ドームの街並みを車で移動していると、ヤブは思う存分あくびをした後「大分違う物が見える。幻覚のようだ。やっぱり薬のせいだな」人さし指でぐいぐい眠たくて閉じかけた瞼をこすり始めた。

 大方目の前の景色が信じられないのだろう。

 ただでさえ木偶になっているのに、今更瞼を擦ったくらいで真面に成る筈もない。

 早く現実に向き合わねば、遠からぬうちに塩鯛のごとく脳ミソが萎縮するにきまってる。  

 やがて眼を開いて景色を見渡したところを見ると果せるかな、どんより冬空のように曇っていた頭の中に光が差し込んだか。

 もっとも、平常からあまりにも晴れているから訳の分からん人間になっている。

 脳内のもやもやが晴れたからといっても、たいして利口には成らん。


 小さい時分は神童だ天才だと言われた時期もあったそうだが、親の遺伝があらばこそ。

 今日では生れた当時の面影は微塵もなく、気の済むまでぼんやりしている。

「どこから湧いて出た人間だ? これだけ人が居たら指定過疎地域になんぞならないだろうに」

 心の疑問が言葉になって出て来る。

「この人達、普通の人じゃないんですよ。地上で行方不明になった人ばっかりなんですよ」

 アンドロイドが人間を指して、普通じゃないと言うのはいささか不自然である。

 普通でないのは自分だと自覚するべきだ。

「今、地上って言ったよね。ここって、地上ではないと理解すべき発言なのかな?」

「おおよ、ここは地下じゃ。ゴニョゴニョ」

 何時から隣に居たのか、婆ぁが会話に割り込んできた。


 地下のシェルターに驚いたところで、今度は摘まめる程に伸びた髯をねじり始めた。

 元来から行儀のよくない男だから、髭をいじる位はまだ大人しくしていると見るべきで、フケを飛ばしたり鼻をほじったりは当たり前である。

 今まで剃るのが面倒で髯が生えていたのが、この頃は髯を生やしていると自慢するくらいになった。

 ヤブは朝な夕な、手がすいておれば必ず髯を弄っている。


 地下都市は幾層にもなっている。

 吾輩は既に殆どの探検を終えているが、ヤブは卑弥呼と初めて会ったペロントンネルと、地下に埋まった宇宙船が施設の全貌だと想像していた。

 その実、桁違いに巨大な施設であった。

 あまりの大きさに、開いた口が塞がらない様子である。

 事情を呑み込めば理解するほどに、自分の命が風前の灯であるのが真実味を増してくる。

 診療所のヨレヨレ医者に戻りたい気持ち、ようく分かる。

 出来る事なら、吾輩も普通の猫に戻りたい。


 ヤブは十五号と数日かけて、地下シェルターの都市部を見学して回る予定である。

 その間、吾輩は卑弥呼から朱色のシーグラスを貰い、貧乏神から情報をえる為、客のいない喫茶店へと話を聞きに行く。


 根っからの貧乏だから貧乏神なのか、根性が貧乏なのか、朱色のシーグラスをちらつかせると簡単にペラペロしゃべってくれたのは有難いが、今一信憑性に欠ける。

 久蔵と北山一族の因縁は三代に渡っている。

 北山が久蔵の正体を知らずに一生を終えてくれる事を願うのみであるが、当の久蔵は北山の爺さんと親父さんを殺したのではなく、助けようとしただけだと主張している。

 久蔵の発生から現在までの経緯は、話が長くなるので端折っていく。


 事の始まりは江戸前期にまで遡る。

 北山家と絵師の久蔵は敵味方と立場の入れ代わりはあったものの、数百年来の付き合いである。

 今から四百年ばかり前の寛永、初代吟時が久蔵に出会っている。

 道端で苦しんでいる久蔵を見つけたのが吟時で、医学に精通した家だから親切に自分の家まで連れ帰って介抱してやった。


 時はずずずいーっと進んで大政奉還となる。

旗本の家として代々続いた北山家であったが、時代の流れには勝てず明治になって千葉から群馬に転居している。

 この時、作っておきながら使い道もいい加減にしか知らない久蔵が、北山家磯家と行ったり来たりしていた土偶を北山家に持たせた。

 後に祖母から極めて貴重且つ危険な代物だから直ぐに回収してこいと命じられ、久蔵は群馬の北山家を訪問している。

 直ぐといっても気の長い一族である。

 回収に出向いたのは昭和になってから。

 北山刑次の祖父にあたる北山家の当主刑史郎が、群馬で刑事職についていた時の事。


 土偶は取り戻せたが、刑史郎を連れて行こうとしていた死神と話をつけて助けようとしたのが裏目に出て、すぐさま刑事殺しで全国指名手配の大悪党となった久蔵。

 おりしも戦後間もない動乱期で、手配はされたものの追手が迫るでもなく毎日毎年ノンベンダラリとしているうちに時効が成立した。

 大手を振って町中を歩けるようになった久蔵は、絵描きから音楽業界に手を出し、羽振りの良い生活を始める。

 気が済まないのは家長を殺されたと思っている遺族である。

 父親の後を継いで警官に成っていた子息刑造が、蕙の証言を頼りに久蔵の犯行を立証しようと動きだす。


 ひとつ似顔絵を描かせてもらいましょうという久蔵の好意を受け、描いてもらった絵を家に帰って父親の遺影の隣りに並べて飾る。

 やがて倒れて動かない。見るとすでに刑息を引き取っていて、その手に一枚の名刺を握ったままである。

 現在の北山家当主刑次は父親の死を幼くし、祖母に御前の祖父と父親は久蔵に殺されたのだと教え込まれ育ってきた。


 刑次が千葉に転居して始めて行ったのが、久蔵の経営する似顔絵喫茶どんぐりである。

 一族の怨みはらしてやるとばかりに北山はどんぐりに踏み込んだ。

 これは間違いなく祖母の云う久蔵だと確信していたが、情報からすればとうに七八十歳を越えている男の筈。

 それがどうガンバっても五十代である。


 これが大雑把な北山と久蔵の因縁である。

 詳しく知りたければ今後の吾輩の活躍に期待するしか手立てがない。

 さっさと諦めるのが賢明である。


 港屋にあってはハリネズミが最強の癖者であったが、診療所に戻ってみると、身近に久蔵が裏ではばを利かせていた。

 灯台下暗しとはよく言ったものである。  

 チョイと前に港屋で釜軍団を接待し、特攻隊に仕立て上げていたのが気にかかる。

 何の為に何処へ特攻を仕掛けようとしているのか。

 何度も残酷な時代に生きてきた無法者である。

 仮に北山家の事件は誤解であったとしても、ハリネズミ以上に何を仕出かすか分からん危険人物に違いはない。

 思い切って殺してしまえば簡単に危機管理できるが、久蔵は殺しても死なんとの噂がある程しぶとい奴。

 将来吾輩に害を及ぼすとは思えんが、知った者に悪さをするようでは吾輩も安心して成仏できん。



 ヤブは、病院・診療所・松林と、毎日ダラダラプラプラする日を過ごしている。

 鬱陶しいから誰かがどこかへ連れて行って棄ててくれんかと思っていたら、突然診療所に黒塗りのリムジンがやって来た。

 どこのお偉いさんが来たのかと思いきや。

 いつも診療所でたむろしている昭和会の玄武爺さんである。

 普段の格好は和風パッチワークだらけの野良着だ。

 診療所に似合った者だが、今日は袴姿に必要のない杖をついての登場。

 甚だしく場違いである。

 ヤブを昭和会の総会に招待すると言って、無理矢理車に押し込んでいる。

 吾輩は運転手を脅して助手席に乗せてもらった。


 リムジンが真迷神社の車庫に入ると、シャッターが閉まり地面が下がりだした。

 エレベーターになっているが、降りる時間が異常に長い。

 下まで行きつくと長いトンネルが続き、突き当りにまたエレベーターがある。

 登り切った車庫のシャッターが開くと、石垣で陸続きになっている朱雀神社の島に着いた。

 維持費が莫大な海底トンネルで、朱雀島は陸地と繋がっていた。

 恐ろしく金が余っているから、こんな大げさな施設を平気で作る。

 磯の連中がやりそうな事である。


 朱雀神社の社務所には、昭和会の皆さんと城嶋先生と看護師三姉妹が待っていた。

 組み合わせが変である。

 そこから通された先は見事な鉄火場で、気合を入れて壺を振ってる御姉さんのふとももに青龍が絡まっている。

 牡丹の花も片肌脱いだ背中に咲いている。

 一方では花札を撒いてる。

 こちらの御姉さんは、ふとももに白虎。

 肩にはバラで、どこかの手品師みたいである。

 胴元はあおいが張っている。

 壺振り・札撒きの御姉さんは遥と卑弥呼であるから、刺青はシールであろう。

 吾輩は何度も、この者達のすっぴんとスッポンポンを見ておる。


 玄武爺がマイクを取って「本日は、十八代目磯組総代襲名披露においで下さいまして、誠にありがとさんでござんすざんす。鉄火も酒も存分に御楽しみ頂きますよう、よろしくさんでござんすっす」

 この雰囲気はどの様に解釈しても、氏子総代の襲名披露ではない。

 吾輩も博打に参加しようとしたら、猫はダメだとされた。

 猫はダメでも妖怪と宇宙人と超能力者と幽霊はいいのか、どこから湧き出たのか、夏目までルンルンルーレットで勝ちまくっている。

 自分が張った番号に玉を凍り付かせるんじゃない。それを胴元は如何様という。

 簀巻きにして水の中に放り込むのが習わしである。と言っても、既に死んでいるから恐いものなしか……困った。 

「主役はここに居たらいけませんですよ」

 主役? ヤブの事かな、とっても嫌な予感がする。

 別の部屋にヤブが案内されて行く。

 吾輩は猫であるがこやつの後見であると主張し、ひょいひょいとついて行く。

 吾輩の判断が正しければ、磯組の跡目はヤブである。

 昭和会の身勝手は知っているが、ヤケクソとしか思えん人事に思えてならん。

 せめて事前に住民投票位して欲しかった。


賭場となっていた社務所から外に出ると、物々しい警戒態勢が敷かれている。

 通路の両側には、ライフルに防弾ジャケットの兵士が人の壁になり連なっている。

 景色は人の股間からしか見えない。

 遙の空母まで参加して、海兵隊と自衛隊が海上警備をしている。


 案内された先では、世界の首相やら大統領といったトップがヤブの登場に拍手をする。

 襲名披露だけで集まる人間ではない。

 世界を牛耳る犯罪者達の仲間入りをしようと言う厚かましくも悍ましい時に、昭和会とは何ぞやから知る必要がある。

 玄武爺は「何でもねえよ、暇な年寄りが集まってワイワイやってる会だべ」

「磯組ってのは何だかな」ヤブかぜ疑問符の塊になっている。

「昔から有る地元の博徒だがよ、名乗手が居ねえで、今まで組長居なかったんだべよ。そんな事も知らねえで組長になったんだかよ」

「名乗り出た覚えはない。記憶脳はいい加減な造りになっているがな、断じてそんな覚えはない。御前達、勝手に私を組長の席に座らせておいて、今更しらばっくれる気か!」

 怒る気持ちはわからんでもないが、爺は都合の悪い事をはぐらかすのが巧だ。

 いくら聞いても真面な答えが返ってこない。


「あー、賭場にいた城嶋先生と看護士三姉妹なあ、ペロン星のエネさんが創ったんだってよお、知ってたかい。組長さんーよっ!」

「そんな事知る訳ないだろ」

「うー、そんでよお、ペロンのエネさんとよお、一緒に密航していた四人がよお、部屋で喧嘩してよお、制御装置をよお、壊しちまったんだとよ、笑っちまうべっ。そんでもってよお、宇宙船が遭難した原因はよお、あいつらだったんだけどよお、未だにペロン星人に言えねえで居るんだとよ、なっ、笑っちまうべ」

「笑えないよ。知ったこっちゃないよ、そんな事聞いてないよ」

「そんなんだからよお、んー、先生から上手い事言ってやってくんねえかなあ」


 玄武爺は、ヤブが黒岩のサイボーグ化に成功したとデマを流したのに続いて、巨大宇宙船の建造に成功したと大ボラを吹いていた。

 どれだけこのボケナスを天才的科学者に仕立て上げれば気が済む。

 しかし、それでもここまでのお偉いさん達は集まらない。

 何か隠しているのはどんなに鈍い奴でも分かる。

 玄武爺が大ぼら吹いたきっかけは、各国で確認されている赤い目の黒い翼を持った生物が飛び交う現象である。

 不吉の明かしとして知られているが、日本にだけ現れていなかった。

 シェルター建設の中心的役割を担っている地域だけに、原因を知っているのではないかと各国からの問合せが殺到していたのである。


 そんな騒ぎの中、原因は地下に埋まっている宇宙船エネルギー変換装置の暴走ではないかと言い出したのが、城嶋先生と看護師三姉妹である。

 四人は数百年もの長い間、ペロン星人に本当の事を打ち明けずに地球に足止めさせてしまっている。

 自分達からはとてもじゃないが言い出せないと、玄武爺に相談を持ち掛けていた。

 それならばヤブを組長にして(だから、何で組長にしなければならん)ペロン星人を説得して欲しいという事である。


「港屋が災害に巻き込まれた時、患者の移送にペロン星人が宇宙船を飛ばしてたぞ。直さなくても飛ぶんでないの」

「あー、それよ、ちっこい奴な、五十人乗りのよ」

「五十人乗りでちっこいのか。母船てどんだけでかいの」「判り易く言うとよ、東京ドーム三つ分だってよ」

「東京ドーム、行った事ないから分かり難いんだけど、田圃何枚で言ってくれるかな」

「ああそうけ、診療所の周りの田圃全部くらいだよ」


 招待客に混じっているペロン星人に、ヤブが恐る恐る事情を説明してみた。

「あいつ等がエネルギー変換装置室でやった事なら、百二十年前から知ってたよ」

「って、何で直さないの」

「直ってるよ」

「どうしてペロン星に帰らないのかな」

 ペロン星は彼等が星を出発した時は、アクエネが星の鉱物から金属を採り尽くし、重力と自転のバランスが崩れていたから既に崩壊寸前だった

 星に金属が留まって有れば問題はなかったが、アクエネの母船建造に使われてしまい、星の金属は総て宇宙空間に消えてしまったのである。


 こんな過去があって、近くアクエネが地球に来るのではないかとの情報から、ずっと地球の保護を目的としたプロジェクトに関わってきていた。

 不吉な生物が飛び交っているのは、宇宙船の影響ではない。

 そのうちに収まるだろうが、希望が有るなら母船を飛ばしちゃってもいいよって。ワオ!

 見てみたいな宇宙船飛ばして飛ばして、吾輩は思わず日本語で頼んでしまった。

「イルミネーション付けたから、飛ばすなら夜の方が綺麗だよ。宇宙船っぽいで」

 すぐさま世界のトップ共々、ペロン星人の晩餐会に招待された。

 招待されたが警備の都合で島からは出られない。

 出張晩餐会となった会場に用意されたのは、ヤブがよくやっているバーベキューである。


 賑々しくド派手な列席者とのパーティー会場に、アルトイーナが太平洋上で核実験に成功したと連絡が入った。

 宇宙船見学会どころではない。

 会場が騒然とする中。

「チョイと潰してくるかね。丁度いいデモンストレーションだよ」

 ペロン星人が会場のマイクを使ってカウントダウンを始めた。

「5・4・3・2・1・0」

 神社の大地が裂けた……島からは見えないが、きっとそうである。


 浮き上がった母船は巨大で、東京ドームの多きさが何となく分かる。

 会場の大きなモニターを見ると、船は既にアルトイーナの本拠地上空から地上を観察している。

 世界中の警察組織が総力を上げても発見出来なかった本拠地を、ものの数分で特定しているだけでも画期的である。

《こちらは地球防衛軍、直ちに武装解除して投降しなければ、貴方達を地球から排除します》

 アルトイーナの通信システムに入り込み、警告しても返信がない。

 間髪を入れず、宇宙からのレーザー砲攻撃。

 慌てた兵士が次々投降する。

 長い間世間を騒がせていたアホタレ軍団を、いともたやすく排除したのである。


 衝撃的なデモンストレーションの後、アクエネの侵略計画について詳細が説明された。

 幾つもの星を消費してきたパターンからの予想である。

 戦えば全滅は確実だが、奴隷となって幾世代か過ぎれば、人類が生き残れる可能性が少しだけ残されている。

 いずれにしろ辛い選択だが、ペロン星人はアクエネに抵抗し続け母星も破壊されていた。

 宇宙の漂流者となって数百年。

 たどり着いた地球の消滅だけは避けたいペロン星人。

 地球のエネさんは、多くの星を餌食にして来たアクエネとはまったく別の意志を持って、地球を守ろうと数千年も前から警鐘を鳴らし続けて来ている。

 地球でそんなエネさん達と知り合い、ペロン星人は宿敵であったエネルギー生命体と手を組んだ。

 この両者の協力体制が出来た事で、アクエネ対策が飛躍的に進んだのである。

 世界的な取り組みの中心となっているのが、磯神を中心とした地下組織で、極秘の世界会議が開かれるのも磯神となっている。


 ヤブは既に諦めて、鉄火場に行って城嶋から借りた金で博打に興じておる。

 祝われている本人が参加していいものかどうか、それより今は他の祝い事の方が盛り上がって

 ヤブが何の為にここにいるのか忘れられている。


 アルトイーナ撲滅祝いと称して、久蔵がスペシャルディナーショーを開催した。

 例の釜軍団のショーである。

 おおよそこの手の不運な少数派が生業とするのは、酒を客の胃袋に無理矢理流し込みぼったくる飲食店の接客係や、客の肝臓にアルコールを強制処理させてぼったくる見世物小屋の踊り子が多い。

 日頃から行われている厳しい芸事の練習が、世界の要人を楽しませるに十分な結果をもたらしておる。

 少数派の悲哀と開き直った笑いを織り交ぜたダンスとトークショーは、男にも女にも出来ない。

 悲劇的少数派のみが表現できるものである。

 見慣れない者には衝撃的に面白可笑しい芸である。


 しかし、何故にこの場に釜軍団がいるのか。

 ただショーを見せる為にいるのならば下品すぎる。

 いかに世界規模の無礼講とはいえ、下手にこの手の連中が冗談トークを好き放題に放っては、紛争の火種を撒き散らしているのも同然。

 よほどの事情が無い限り、この場へ出しゃばって来る事のないように計らうのが国際平和の為である。

 久蔵が玄武と打ち合わせのふりをしているが、どうせ今世紀最悪のコンビだ。

 この宴会が原因で、世界のあちこちに核の雨が降らん事を願うのみである。


 賑やかしもほどほどに済んだところで、久蔵が釜軍団を紹介する。

「これからこの者達は、既に地球に到達しているアクエネ偵察部隊との直接交渉に向う予定であります。現在地球で起きている異常現象は、この偵察部隊が引き起こしていると考えられます。先行きどうなるかわかりませんが、皆さんが立っているこの発進基地から彼等が発進完了するまで、一切の航空機の飛行を停止してください。まだ実験さえも行われていない未知の発進手段ですので、上空で何が起こるか予測できません。安全の為ですので、どうか御協力お願いします」

 久蔵にしては相当に無理をしている。極めて真面目な説明である。


 この日から、全地球の制空権を遙の未来科研が握った。

 巨大な宇宙船がバックについているアウトロー軍団未来科研である。

 逆らえば地球の半分でも吹き飛ばしかねん連中の御願いとあって、聞かん訳にはいかない。

 久蔵が港屋で釜達を接待していたのは、命がけの任務に就くからであった。

 直接交渉といっても、事前に何がしかの連絡をしているのではない。

 地球人の許可なく勝手に災害を振り撒く連中の懐に入って行く。

 生きて帰れる保証は限りなく零に近い。

 特攻といったのはこんな事情があっての事。

 似顔絵を描いていたのは、宇宙の過疎地域・此の世のおっ外れで連絡がつかなくなっても、生死の確認だけは似顔絵でできるからである。

 何かの事故にあったとかの間違いが起きても、直ぐに救出に向えるとの配慮からであった。



 隣りのヤクザ有朋が、数人の学生を連れて母国に帰ると言い出した。

 アメリカでは彼に敵対していた組織がほぼ壊滅状態となり、身の安全が確保されたからだとしているが、実の処、日本で学んだシェルター設置活用のノウハウを、アメリカで生かす為である。

 有朋達がアメリカに帰ってプロジェクトを援護するのは悪い事ではないが、奴の事だから非合法の嵐がアメリカに吹き荒れるのは必至である。

 案の定、さっさとアメリカに行ったと思ったら、一週間もしないで有朋とその一団が帰って来た。

 何処にも行く当てがないのか、組事務所に数十人がひしめいている。


 何と言っても気になって仕方ないのが、組事務所の上空に浮かんでいる宇宙船である。

 宇宙に行っても、数年は帰還しなくて生活できる設備が整っている。

 変わった物好きの有朋は、日本に来る前に稼いでいた資産の殆どをこの小型宇宙船につぎ込んでいた。

 地代を踏み倒してアメリカに行ってしまったので、この時とばかり卑弥呼が取り立てーと喚き散らしている。

 アメリカ政府に協力しているのだから、母国でやりたい放題に荒稼ぎ出来るだろうに、事務所の地代くらい払えよ。


「地代って幾らよ、代わりに払ってやろうか」

 ヤブが言って・見て・聞かされてタマゲタている。

 月額一千五百六十八万円。紛れもない不動産詐欺である。

 有朋の引っ越しでこんな事態から解放されると安心していたが、新な問題が浮上して来たから知らせに帰ってきたのだと説明している。

 日本でも観測されている小惑星接近の事で、アクエネの宇宙船ではないとの観測結果だが、このまま予測軌道を進めば地球に異常接近する筈だった。

 する筈だったが、尋常ならぬ力が小惑星に働いた。

 彼等にとって小惑星が地球に接近衝突するよりも、何等かの力によって軌道を変えられた事の方が重大なのである。


 アクエネが近い将来地球に飛来してくると予想されている最中、地球に集結する前に星そのものが消滅してしまったのでは元も子もない。

 小惑星の軌道修正は、資源たる地球をアクエネが保全した措置ではないかと見ている。

 差し迫った問題は軌道修正の際の衝撃で、小惑星の一部が破損分裂して地球に向かって来ている。

 彼方に有る星くずだが、以前日本で起きた隕石雨の数百倍規模の被害を予想している。

 巨大隕石の雨ならば、土偶で何とかならない物かとヤブが提案した。

 土偶は何基か造られているが、処理できるのは狭い範囲だけである。

 最初からアクエネとの決戦に備えて造られたシステム。 

 地球全体をカバーする機能が備わっていない。



 振って来る隕石をそのまま真面に受け、被害が広がるばかりの日々が過ぎ去ると、辺りには荒廃した空間が広がるだけとなった。

 世界中がこんな状態である。

 吾輩はアクエネが来ても皆でシェルターに避難していれば、それで総て解決すると思っておった。

 激しい隕石雨は治まったものの、毎日何処かに隕石が降り続いている。

 このさいだから、頼れそうなものには何でも頼るべきである。

 神が実在するなら、何等かの力が有ってしかるべき者達だ。利用しない手はない。


 同じ思いからか、卑弥呼が神の事を早急に調べてきなさいと怒りだしている。

 巫女でありながら、最近まで神の存在を信じていなかった。見上げた不信心者である。

 朱色のシーグラスを預かっている。

 コイツを餌に三柱神を呼び出し、事情を聞く事にした。

 とはいえ基は鬼である。下手に職質などかけたら食い殺されかねん。

 一旦朱色のシーグラスは京葉銀行の貸金庫に預け、交渉せんがため何時でも憑りつかれていそうな久蔵の所に向かった。

 世界の異常事態に比べ此の辺りは土偶とホスピス患者に守られている。

 他の地域よりは安全に人が行き交いできている。


「マスター、もう七時ですよ」

 喫茶店の扉越しに、モーニング目当ての客が久蔵を急かしている。

 久蔵は眼がさめているのだか、寝ているのだか、向うむきになったまま返事もしない。

 何とか戸を開けなければ話すも何もない。

 それより、腹減らしの客が可哀想である。

 吾輩も何か食いたい。


 さてどうしたものか、人前で吾輩が久蔵を呼んだのでは何かと物騒な事態の原因になると予測できる。

 声を発せずして寝ぼけを正気にするのは容易な事ではない。

 人間も返事が面倒になるくらい無精になると、どことなく趣があるが、こんな奴に限って欲のアンテナだけは常にビンビンにはってあるものだ。

 見本に持って来た朱色のシーグラスを、店の入り口近くでコロンと落してみる。

 微かにガラスが地面に当たり、風鈴の様な音が店の中に伝わってゆく。

 猫ならば耳だけピクッと動かして音のする方に向けるが、人間は不便なもので寝ていながら顔がドアの方を向く。

 もう一押し、両の前足で朱色のシーグラスをコロコロ転がしてやる。


 親に見離され他人に育てられてきた可愛子ブリッ子の吾輩でも、これ程の歓迎を受けた事がない。

 チャリチャリとガラス屑でじゃれているそのままそっくり抱え込まれ、吾輩は店の中央席に座らせられた。

 先刻より外で待っていた客はそっちのけである。

 欲が固まって出来上った男だ。吾輩を可愛がりたい筈がない。

 彼はガラス屑に夢中である。

 したがって世間一般の判断をするならば、今の久蔵は久蔵に有って久蔵に有らず。確実に貧乏神である。

 何も人間界に限らず隣近所の神の中でも、飛び切り不人望な貧乏神はおおきな考え違をしている。

 情報の対価として持ってきたガラス屑の見本を、既に吾輩から貰い受けたとして、その礼にとモーニングのゆで卵とトーストにコーヒーを持って来た。

 繰り返すが、朝から待っていた客はそっちのけである。


 決められた時刻に店までやって来て店主が居眠りしているのを、大声出して起してやったのだから腹が減っているのは客も同じである。

 久蔵がその恩を無にする以上は客にも考えがある。

 どうなっても知らんぞと言う姿勢で包丁まな板フライパン冷蔵庫。

 厨房を自由自在に操り、朝昼晩の食事一人前を三日分素早く作ってタッパに詰めている。

 一体自己調理タッパ詰めの目的はかっぱらう為か、腹いせか、調理当番でない吾輩の関知するところでないから、知らん顔をしていれば差し支えないようなものの、憑りつかれた時の久蔵の喫茶店経営に至っては、すこぶる無意義のものと言わざるを得ない。 


 何が無意義であるかと言うと、この男は単にガラス屑一つのために店内の観察を怠っているからである。

 客を一通り店内へ入れて、いらっしゃいませも言わずにいる。

 それで接客は完成したと解釈している。

 開店から客の入店原因及び結果に至っては、微塵の責任も背負っておらん。

 ゆえに、憑りつかれていなければそれなりの稼ぎはあるが、憑りつかれた日には全く稼ぎがないどころか店の食材が紛失しても理由すら分からない。

 商いというくらいだから懲りずに続ければ何時かは利のでるのが尋常な商売。

 これではやらん方がいい。

 やっても通常久蔵のためにはならない。

 しかし、ならないところを毎日毎日御苦労にやるところも久蔵の偉いところである。

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