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23 三柱神と無敵の変態

「あぁ、あのボケ野郎か。創始神だよ。此の世の総てを創ったって言いふらしてる奴さ。神には違いないんだけどねえ、詐欺師だよペテンさ。ああやって神仲間から金集めて新しい宗教団体作るんだって息巻いてるんだよ」

「ほー、そいつぁまた、御苦労なこった」

「どうするんですかー、御祭ーー。早く決めないと」

「おう、そうだな。なんてったって百二十年に一度の祭だあ。やらねえって手はねえやな」

「貧乏さんも疫病さんもいいですよねー、僕は今回の大祭も火の番ですよ」

「何言ってやんで、何時だって飲み過ぎて担ぎ込まれんのはテメエじゃねえかよ」

「それにしても死神は毎度下戸にあたるね」

「人を見る目がないんでしょうかね。自分で情けなくなりますよ」

「落ち込んでばかりいねえで、テメエは仕事しろよ。今年は思い切ってよっ、祭で百人ぐれえ殺しちまえよ」

「それは、ちょっとー」

 流れからして、今回の祭の日程を決めるのにはコヤツ等が関わっている。

 憑りつかれている認識が有るのかないのか、何時でも行燈のボンヤリだから、傍から見ていても分からない。

 特にヤブはパックまで頭の上でブンブンしている。

 自分が何者なのか分からなくて当たり前の生態である。


 こそっと覗いていると、後からこれまたコソッと声をかける者がいる。城嶋である。

 隣のヤクザ事務所に遊びに来たら、我等がいたのでチョイと気になって一緒に覗きに参加したらしい。

 良い趣味とは言えないが、元は妖怪だからその辺の精神構造は我等とたいして変わらん。

「事務所で聞きませんか。盗聴器仕掛けてあるから会話ダダもれしてますよ」

 こんなところでコソコソ覗いているより、それに越した事はない。


 ペロン星人と付き合っているからか、隣のヤクザ連中は我等が日本語を話しても驚きはしない。と、言い切っていいものかどうか。

 日本の猫は話せると驚いているのだから、次元が五つ六つ違っている。

 お頭が何時でも快晴の者達に囲まれて、心地よく盗聴と解説を聞く事ができた。

 シロが過去、新聞記者に頼まれて調べ上げた磯家の情報が、こんな所で少しばかり役に立っている。

「二十年前、村の大祭で大火事が有ったんだ。祭の中心だった神社の御籠堂が焼け落ちて、中に居た神官一族の殆どは焼死。生き残った関係者も事件後次々に変死を遂げていてね、一族で長く生きたのは五人だけだったんだよ」

 卑弥呼とあれだけ親しくしていたのだから、調査も何もあった物ではないと思ったが、よく考えてみるに調査は二十年前のものである。

 今までの歳月を費やし、尚且つ磯家生き残りの者と親しくして居ながら、未だに秘密を解明できないでいるとは情けないとしか言えない妖怪である。

 シロは随分と苦労して調べ上げたかの如く吹聴するが、

その程度の事であれば労せずして卑弥呼から聞いておる。

 吾輩の場合は、磯家がどうのに興味がなかったから、些か知識の方向が違う。


 今、三柱が噂している祭について、卑弥呼から色々と教えてもらっているので一発披露してやった。

「百二十年に一度周期の閏年二月二十九日に、磯神様に大祭がやってくるのである。この日は人を喰らう神が村にやって来ると信じられておる。磯神様への出発点にある社には御神体がなくての、それでも平気でいるのだから戯けた祭じゃい。吾輩がこの前行った時は、もはや祠さえも朽果てていたの」

「僕は順繰りの祭とだけ聞いていたよ。次の神が何処で何時からか。連絡網もなければ広告もない。現に、祭りの時に村人は今開かれている祭の会場で、噂話だけを頼りに次の祭へ移動しているからね」

 調査の結果としてシロが皆に言いたいのは、この地域が大昔から妙な一角だという事と解釈した。

 しかし、一番妙な生き物の御前が話しているのを聞くに、この辺で起こった事変の総ては、特殊な地域だからで解決できる現象である。

 今更二十年前の事を穿り返しても、地球の災害が治まるでもあるまいに、変な所に執着したものである。


 盗聴する事二時間で、三柱の神は御仕事ゝと言いながら、どこへともなく消えて去った。

 消えると、三人とも何事もなかったかのようで、普段のヤブと相南と久蔵になっている。

 ただし、久蔵は普段から怪しい奴だから、格別変わった風には見えん。

 何時もの事で、パックがヤブの頭上でチカチカしている。

 さっきまではいなかった。

 神と上手い事憑りつき順を調整しているようだ。

 パックが久しぶりの吾輩を見つけ、こちらに向かって手を振っている。

 診療所に寄って遊んでやっても良いが、下級神のつまらん与太話しと、シロの行き過ぎた心配を聞いて些か疲れてきた。

 今日は何処で寝ようか考えるに、ガタピシの所より地下診療所の方が良かろうと地下に帰る事にした。


 診療所に帰ると、ゆっくりのんびり温泉に浸かりたくなってきた。

 日課のように食後や寝る前に風呂に入っていたから、一日二日風呂に入らずいると疲れが取れない。

 吾輩も歳をとったものである。

 飛行艇を呼んで、ちょっゝと温泉へ浸かる準備をしていると、救出された新聞記者と弁護士二人組が、病院前の公園で話し込んでいるのが見えた。 

 吾輩が放送局であるのは、既に二人の弁護士に知れてしまっている。

 真面に近付いて行ったのでは逃げられて、どんな密談か探れん。

 木々に隠れゝして、公園の密談を聞ける所まで近付いてみる。

 なんだか今日は盗み聞きばかりである。


 誘拐されていた新聞記者は、救出されたその時から取材に熱心であった。

 自分がさらわれ監禁された事件だから、誰よりも詳しい筈だがそうはいかないのが今回の事件。

 全貌を知る者は皆無である。

 そこを何とか調べて辻褄を合せようとしている。

 無理からのしわ・綻びがそこら中に出ている。

 弁護士の話しを聞いたからと、今直ぐ納得のいく説明ができるものではない。

 それを知ってか知らずか弁護士の二人は、真相の遙か彼方でのたうち回っている新聞記者に、有る事無い事適当に吹き込んでいる。

 警官の不正を暴こうとしていたやっちゃんとシロは、仲間割れを起した警官同士の抗争に巻き込まれ、丁度いい具合だと無実の罪を着せられている。

 警察署を襲ったテロ攻撃とこの抗争事件が同時に起こってしまったから、話しがややこしくなっているのだと………尚更話しを混乱させている。

 はたしてこれを新聞記者はどういった記事にするものやら、どの道真実とは程遠い記事になる。

 シロとやっちゃんの無実を訴えるのも、また良しとしておいてやろう。

 真実を正しく伝えるのは酷く疲れて難しいものである。

 結果が好ましい状態となれば、途中はどうでも良いとしておく。

 今更、過去の修正などできんのだからの。

 

 公園から病院前の診療所に行く途中、やっちゃん一味脱走逃亡の時一緒だった警官Aが、病院の前で黒服を着てSPを気取り立っている。

 警官は辞めたのだから、その格好はなかろうと冷かしてやったら、外の世界はつまらないから、志願して地下世界の警備任務に就いていた。

 未来科学研究所が創った地下世界の警備会社に転職して、初仕事が入院中のやっちゃんをガードする任務である。

 逃走幇助から、そのままズルズルこの仕事に就いたとも言える転職。

 この男に未来設計などない。

 行き当たりばったりその時の気分次第で、人生の進路を真反対に変えても平気でいられる神経はやっちゃんに似通っている。 


 あくる日、診療所に届けられた千葉日報を開いてみると、冤罪どころかやっちゃんは逃亡者でもない。

 一躍ヒーロー扱いの記事が、三面のその裏の裏辺りに載っている。

 昨日、弁護士から偽情報を握らされた新聞記者の仕業である。

 吾輩は自分の目が信じられなくなり、隣で寝ていたクロを起して確かめてもらう。

 新聞記者ほどに知恵のある者ならば、弁護士連中の言う事は一方的な意見でしかない事くらい分かりそうなものである。

 テレビを点ければ、千葉はそこら中で暴動や略奪が起っている。

 この事件に影響を受けた民衆が、千葉県内だけで治まっているのは寂しいような宜しいような。奇跡である。

 このまま騒ぎが広がれば、一週間で日本全国無政府状態になりそうな雲行きとなっている。

 シロとやっちゃんの指名手配が取り消されたのは歓迎すべき事だが、これまで何十年も極秘裏に進められた政府の計画が、たったの一晩でお釈迦になっておる。


 これから宿に帰り風呂に入りたいの連絡ついでに、葉瑠美に世間の状況を電話で聞く。

 おかみと赤チンが、明日の朝には核戦争が勃発して人類滅亡の危機だと騒いで大変な事になっていると言う。

 温泉は諦めて、ここの風呂で今少し我慢していた方が良さそうだ。

 新聞記者がどれ程正しい報道をしても、騒ぎの元になって争いの結果、人間が地球から消滅してしまったらただの紙屑以下である。

 六面あたりの記事で、人類が絶滅したのではあまりにも情けない。

 朱莉ちゃんは「これしかやりようがなかったのよね。それより、御祭りの時の君達の任務が決まったから教えておくね」余裕をぶちかましている。

 やっちゃんはどうしているか病院を見上げると、新聞社を潰してしまいかねない勢いで、病室から廊下に出た所を狸女と法律事務所の大狸に抑えつけられている。

 いきり立つやっちゃんを大狸が病室に戻す。


 病院の騒ぎを面白おかしく監察していると、ハリネズミがニコニコ顔で診療所にやって来た。

「皆で一緒に食おう」

 フライドチキンとアイスクリームを持っている。

「リゾートの御金でフライドチキンの店とアイスクリーム屋を手に入れたんだよ。フランチャイズが崩壊してね、どの店主もやる気がないって言うから、タダみたいな値段で売ってもらえたよ。きつい値切り交渉もしたがね。君達には特別優待券を作っておいたよ。どの店も半額になるから、一度行ってみるといい。勿論、危険が一杯の地上店だけどね。君達なら平気だろ」

 平和なのか天然なのか、意地悪なのか悪知恵の塊なのか、美味いから許してやるが、何でピザ屋が入ってないんだよ。


 コソッと「ピザ屋は無いのか」と囁いたのを聞いて、それもそうだ、有ったらいいなと呟いている。

 今から探しに行くから付き合ってくれと言い出したが、朱莉ちゃんの言う我等の祭での任務が気になる。

 それが片付いてからならいいと答えると「そっちも大事だね。もう日が無いからさ。明日がその祭の日に決定したから、その連絡も兼ねてチキンとアイスを持って来たのだよ。い出した思い出した」しきりに頭をかいて不都合を誤魔化している。


 翌日になって、祭りの舞台で狂言が始まるのは夜になってからだから、これから適当な店を選んでくれとハリネズミが吾輩達を地上に引っ張り出した。

 一ヶ月ほど前は、磯家の高金利借入で利息払いに忙しかった男が、簀巻きにされて魚の餌に成らず堂々とお天道様の下を歩いていられる。

 これは偏に未来予想の情報が有ったればこそである。

 裏の裏まで知っていた。

 どの地域は被害が少なくて、これから先世の中がどう変わっていくかまで読めた強みである。

 当たりが分かっている宝くじを買うのと同じ。

 思い切った投資ができるもので、神がこの世界に存在するならば、大きな過ちに早く気付くべきである。

 ハリネズミのようなエゴの塊に金の生る木を持たせたらロクな事にならない。

 今からでも遅くはない。

 金の生る木だか金の卵を産む駝鳥を、吾輩の管理下に置くべきである。

 ハリネズミは、何処かの内戦に乗じた死の商人にだって平気で変身する男だ。

 どちらの側にも同じく兵器を売って、戦争を長引かせて絞れるだけ絞ったら、自分に都合の良い奴に加勢して恩を売っておく。

 歴史が教科書のハリネズミならば、今まで世界で急成長して来た国家の真似をしない訳がない。

 そこまでやったら、世界征服にだって走りかねない。

 重大な任務を控え緊張している中、嫌々付き合ったピザ屋探しであったが、鱈腹ピザが食えたから良しとしておこう。


 飲兵衛祭はこれからどんな事件が起こるとも知らず、盛大に盛り上がっておる。

 何時もの酔っ払いが大口を開け、舞々台の前に屯する。

 地下施設の収容所では、昨日診療所の前で能書きを垂れ流していた神の端くれを呼んで講演会が開かれている。

 リゾートに関わった組織の未決囚にこれを聞かせ、マインドコントロールを仕掛ける段取りである。

 ここは専門家のシロが担当で、ヤブも興味本位で付き合っている。

 マインドコントロールの効果が薄っすら出た頃に、祭で演じられる狂言を未決囚に見せて、ドナー登録をさせる算段である。

 登録が終わったら、世界機関の関係者が脅迫同様の司法取引をして臓器の摘出を行うのだと聞かされた。

 そんな面倒はしなくても奴等は罪人だから、取る物を取ってしまえばいいと言って朱莉ちゃんに叱られた。


 ピザ屋の買い物を終えた我等は祭の会場に行き、テレビ中継に向けた準備を始めた。

 村にテレビが入るのは、この地域に電気が通った時以来のビッグイベントである。

 中継車や撮影機器の周りには、人が群がっている。

 鬱陶しい状況が続く中、ハリネズミは集まる人々を呼んで、手に入れた店のビラをこまめに配り始めた。

 商人根性が板についてきているから困った奴だ。


 我等猫部隊は、会場から逃げる会長を上空から追って撮影する。

 若旦那が落されたのと全く同じ屏風岩の断崖から車が落ちた後は、海底に潜水艇で潜って苦しむ会長の姿を中継車に送信するまでが任務だが………悪趣味だ。

 潜水艇の任務は吾輩には向かない。

 船酔いする猫だから、クロにすっかりお願いして勘弁してもらった。


 陽の高いうちからいい大人が集まって吞んだくれるだけのだらしない祭も、夕刻からは様子が幾分変わって来る。 

 グデレンとした酔っ払いは境内に点々と散らばり、薄暗がりは其れ等の醜態を隠してなお広く杜を包み込む。

 夜店の屋台では子供達屯する。

 中には一杯ひっかけたジャリ餓鬼も見受けられるが、それは地域性である。咎める者などおらんで適当に引っ繰り返っている。

 飲兵衛達は粗方片付いて、あちこちに寝床を確保した模様。

 今年は特別にこれから狂言を演じますと、舞々台で口上が読み上げられる。


 舞台の準備をしている所へ、隣のヤクザと一緒にクランク商事の会長がやって来て貴賓席に座る。

 シェルター事業で協力体制にある組の長が招待しているとあって断れず、無理して参加したのは表情からしてはっきり分かる。

 表向きは笑っているが、ぎこちなく固い笑顔が変で、吾輩はつい失笑してしまった。

 これは吾輩に限った現象ではない。

 祭に来た者の中には、今日の催しがいかなる事態を招くか知っているのが居る。

 その者達も、薄っすら浮ぶ笑いを隠して会長を観察している。

 知っていて笑う。人の不幸はエネルギーである。

 残酷な精神空間が、この境内に充満している。

 さっきまで寝ていた酔っ払いが、木陰から会長のボディーガードを狙っているのを見るに、既にこの空間は戦闘態勢に入っておる。


 狂言が始まると会長は、第一幕から内容に酷く嫌悪している。

 苛立ち、周囲の状況を真面に判断できずにいる。

 ボディーガードが一人・二人と消えて行っても気付かない。

 演者の動きに合わせ、若旦那を筆頭に幽霊達がフワフワやって会長を威嚇する。

 周囲の見物人にも見えているが、舞台効果だと思って見ている。

 リアルに蒼くなっているのは会長だけである。

 会長の周囲は今日の仕掛けを知った者ばかりが取り囲んでいて、幽霊が見えていても知らん顔で舞台を見ている。

 周囲の状況に、会長は自分の幻覚だと思い込んでいるのだ。


 若干ハリネズミの筆入れはあったものの、シロの台本はここまでで、会長を青ざめた表情にするだけで終わった。 

 引き続き休憩なく第二幕が始まる。我等の出番である。

 既にテレビ中継が舞台の始まりから入っている。

 モニターの前にはハリネズミが偉そうに座り、無線であれこれ指示をしている。

 本人は知らないが、貴賓席に座る会長の表情を映す望遠カメラがメインになっている。

 命を転がすドッキリである。趣味が悪いのを素通りし、もはや犯罪の真っ只中で祭が続く。

 舞々台にはもう演者はいない。

 これから演じるのは会長と若旦那の幽霊。

 互角とは言い難い。一方的過ぎる幽霊に有利な一騎打ちである。


 周囲の者達は、若旦那の幽霊に怯えてあたふたする会長を見て、ただ笑い呆けるだけである。

 我等はその様子を上空より撮影して中継車に流す。

 たまらず貴賓席から逃げ出す会長。

 駐車場までの道々で、酔って寝ている筈の村人が足を出したり綱を張ったり。

 コロコロと会長は転げ回っている。

 この様子を、地下の収容施設で流して見せている。

 地下でテレビ中継を見ている未決囚の様子を伺いながら、会長が逃走する時の甚振り加減を調整しているのだとハリネズミは主張する。

 ハリネズミが買い取った店の広告看板が、会長の転んだ所に必ずあるのは単なる偶然か? 


 車の中には隠しカメラを設置してある。

 中の様子と外からの空撮を二分割画面・同時放送する段取りだ。

 まさしくライブドキュメンタリーの臨場感。

 出来れば音声をセンサラウンドにしてほしかった。

 吾輩がハリネズミに提案すると、収容所ではそうなっていると知らせてくれた。

 未決囚は猫より単純な者とみえ、次々と反省文を書きたいと申し出ているとも連絡された。

 あと一押しである。


 予定では、逃げる車の中で三毛子が、化け猫に憑依された時を思い浮かべながら、運転手を脅して車から引き摺り下ろす筈であった。

 猫を轢き殺した事のない運転手でも、化け猫が助手席に座って話しかけて来たら、轢いた事があったかもと錯覚してしまうに違いない。

 ところが、車の中はそれよりも過激な状況になっている。

 三毛子は化け猫の真似が上手すぎる。

 何度見ても恐ろしい。ひょっとして、また憑りつかれた?

 既にクロは潜水艇に乗り込み、海底に沈む車の撮影体制に入っている。

 中空から車の撮影をするのは吾輩しかいないとあって、怖いのを堪え、仕方なしに飛行艇で車と並んで飛ぶ。


「この運転手を探してたのよ。私をひき殺しておいて、道路脇のどぶ川に放り込んだの。ねえ聞いて、それからどうしたと思うこの男。川面にプッカプカ浮かぶ私の骸に、おしっこ引っ掻けたのよ。最低でしょ。粗珍のくせに生意気なのよ」

 中から化け猫が吾輩に向かって愚痴を吐く。このタイミングで語り出すかな。

「そりゃよかったね。こちらとしても好都合である。ついでに運転手も好きなようにやっちゃえば」

 とりあえず、吾輩に害が及ばないように適切なアドバイスをしてやった。

 屏風ヶ浦まで車で逃げてもらわねば、台本どうりではないし若旦那の気が済まない。

 テレビ中継時間には制限があるから、車でたどり着くまで放送を続けられない。


 野球ならば、野球ファン以外が楽しみにしている番組を潰してでも延長放送するが、祭にそれはない。

 この問題を解決してくれたのが、研究所で待機していた朱莉ちゃん。

 我等猫部隊で成功した転送装置に改良を加え、放送時間に納まるよう、車と吾輩の飛行艇を同時に屏風ヶ浦まで瞬間異動した。

 ポッと現れた場所が、若旦那の乘った車が突き落とされた断崖絶壁の前。

 この時、化け猫が運転手の喉元に激しく噛みついたから、ハンドルはそっちのけになる。

 慌てる会長が、後部座席から身を乗り出してハンドルを持ってもどうする事もできない。

 崖から飛び出した車を、吾輩が高速度カメラで撮影して中継車に送る。

 車が海に飛び込む映像が、スーパースローで再生放送される。

 後はクロの仕事である。吾輩はこの先を見ていないので何とも言えん状況である。



 たとえ悪党といえども、嫌な任務であった。

 直接手を下したのは幽霊連合であっても、処刑同様に死していく者を撮影するのは気が滅入るものである。

 イジイジ寝るのがよかろうと、地上の診療所に顔を出してみた。

 すると、中に屯っているのはやぶこと疫病神と相南こと死神だけで、あおいとキリちゃんは何処に行ってしまったのか。

 気になって、近所をうろつく爺の生き残りに聞けば、災害が立て続けで忙しくなったから病院を手伝いに行っていた。

 またもや二柱の神がくだらん与太話をしているのか。

 覗き見してみるに、様子が気の毒な状態である。

「死神くーん、また呑んじゃったんだね。君さー下戸なんだから、救命士が急性アルコール中毒って、洒落にならないから、何度行ったら分かってくれるのかな」

 疫病神が死神を介抱とは、思いがけない場面に出くわした。

「うーっ、 うえっ、げっげげーっ、うおー、うげぼぼぼぼぼぼっうげっ!」

「んー、言いたい事は分かるんだけどね、もう出る物ないよ。今、玉子酒作ってあげるから、少し待ってな」

「どっぼっ」

「あれ、まだ出るね。そうね、注射切らしちゃったんだよ。今回の濁酒さー、メチル混じってたんじゃないの?」

「げげっじる じる、ずずっ、ずぼっ」

「そうそう、初日なのにさ、随分搬送したよね。つかれたでしょ。まあ、僕ん所に来たのは君だけだけどね。それにしても何時も思うけどさ、君って勇気有るよね。この診療所が死神に憑りつかれてるとか、僕が悪魔と取引した医者だとかって噂、最初に広めたの君だよね」

「げろげろ! ぴー。すぼすぼ。ぼっこり」

「ああ、そうだった。アルコールの中和剤がなかったからさ、殺鼠剤打っといたよ。大丈夫だよね、 君なら」

「すっ ひー、ひーえっくしいー、ぐぶっぐぼっ」

「ん、いいよ泊まっていっても、病室空いてるし。自分で掃除してね。その出て来ちゃったやつ」

「んっぐべ、んっぐごぅあっ」

「何かはっきりしないね。さるぐつわ外した方がいいかい、そうだよね、それじゃ出て来ないよね。その、何がさ。んーー、それとも輸血の血液型間違っちゃったかな」

「しーーびりっ! ぶっ!」

「ちょっと、違うの出てない。いいよ寝ていて、頼むから寝ていてよ」

「しーーん、びりびり、ぶっ! びびーー、ぷっ!」

「だからさ、違う音してるって」


「お待たせっ! 玉子酒できたよ。あれま、寝ちゃたんだね。しょうがないな、点滴しといてやるよ。本当は飲んだ方が美味しいんだけどね」

「ぶへっぶべっ、ごぼごぼ」

「大丈夫、変なの出て来たけど、内臓とかじゃないよね。ところでさ、死神って最近どうよ、あんまり流行ってないみたいだけど。死なないよね、この村の爺も婆も。君、仕事してる? まさか救命士に鞍替えする気じゃないよね」

「げっげびげぶ、おっおーえー」

「何、ダメだよ。せっーかく点滴したのにー。口から出すかな玉子酒。それにしても、君、起用だね。死神って誰でもそれ出来るの?」

「ぐげっげっ、ぐぶぅえっ、げっ、げえー」

「あーそう、言われてみりゃそうだよね。そんな奴いないよね。すごいねー、君しか出来ないんだ。今度さ、貧乏神が来たら見せてやりなよ。きっと受けるよ。今はもうやらなくてもいいから」

 具合が悪いのは分かるが、何も吾輩の部屋で繰り広げてくれなくても良かろう事件である。

 一旦部屋に入ったものの、ここで寝る気にはなれん。

 しばし考えて、今日は帰って来ない朱莉ちゃんの部屋で寝る事にした。


 一日の疲れがドッカと肩を押し潰し、吾輩は気を失ったのか寝たのかも分からんまま朝になっていた。

 さて、腹が減ったもので飯は何処かになかろうかと台所でウロウロしていると、三柱神の一柱、久蔵こと貧乏神が診療所に駆け込んできた。

「おーい、クソッタレ。疫病いるかい」

「貧さん、そんな大きな声出さなくったって聞こえてるよ。広い診療所じゃないんだからさー」

「いやーあ、難聴だってえからよ。上の査察が入ってるんだってよ」

「フーン、初耳だねえ」

「だろ、抜き打ちだってんだよ。普段が普段だからよ、俺達がこの辺の神ん中じゃ一番微妙なわけよ」

「そうだね、確かに何時消されても文句は言えないねー」

 疫病神が台所に入って来る。

 吾輩に気付いて、猫餌カリカリを当たり前に出してくれる。

 それを食いながら、吾輩は疫病神が玉子酒を作っているのを見ている。

 玉子酒が出来上がって吾輩の顔を覗き込むと「内緒だぞ」と言って台所から出て行く。

 内緒だぞとは、彼等が神で、三人のロクデナシ人間に憑りついているのを内緒にしてくれとの意味だと猫でも悟れた。

 下手に放送したらば、命がなくなるのは保証付だ。

 ここは素直に他言しないでいてやろう。

 御互いの為に成る事は迷わずやるのが吾輩のポリシーである。


 それにしても診察室は賑やかで、近所に話しが聞こえている。

 自分達で情報を垂れ流しておいて、内緒にしておけもなかろう。

 流石に低級神だけの事はある。世の中の見方が今一斜めになっておる。

「それよりも、その上級神ね、メンドクサイ奴なんですよ。二十年前の事、憑りついた人間と一緒になって調べてるんですよ。二十年前の玄武池の写真見せながら、火事の事とか祭の事とか、聞き歩いてる二人組がいるって」

「おお、それだよ。片一方は人間なんだがよ、もう一方には上の神が憑りついてるんじゃねえかって、便所神やら鼻神やら、はに神なんかがよ。今朝教えてくれたんだよ」

「随分とメンドクサイ奴が来たもんですね。玉子酒、冷めちゃうよ。僕等がやっちゃった事は今更どうにもなりませんからね。とりあえずその変な二人は、上級神と一緒に消しちゃったら」

「おめえ、根性までしっかり疫病神だな。そんな事してばれねえと思ってんのかよ。せっかく神に成れたんだぜ、権利剥奪されんのだけは勘弁してもらいてえよな」

「うっずぼっげっ、ほっといたって、うっ、私達、うっ、上に消されますよね」

「テメエが俺に言える立場かよ。玉子酒飲んで死んでいろよ」

 玉子酒を持て余している様子である。

 吾輩がちょいと片付けてやってもいいぞ。三柱神の所へ顔を出す。

 すると、死神が吾輩に酒を薦めてくれた。なかなか偉い。

 この中では、まあ真面な部類と振り分けておいてやろう。


「で、どうすんだよ疫病」

「だから、殺っちゃいますよ」

「殺るってなー、人間殺るのと訳がちがうんだぜ。相手は上級神だよ」

「殺った事がないみたいな言い方ですね」

「殺った事っておめえ、あん時はよ。仕方ねえだろ、殺らなきゃ消されちまったんだからよ」

「今だって同じじゃないのかな」

「そりゃそうだけど、人間まで一緒に消すんだろ」

 危ない話しになってきた。これ以上殺人に関わり合いたくない。

 酒も呑んで終わった事だし、吾輩はこれで退散と思いきや、昨日の疲れからか足がもつれ其の場にへたって動けない。

 聞く気がなくとも悪巧みが聞こえてしまうから困った。

 またもや共犯になってしまうのであろうか。

「死神ー。君さ、何人分の未殺ファイル抱えてんの」

「んー、数えてないですー」

「二人、大丈夫かな」

「はい。余裕っすー」

「ねっ、貧ちゃん、死んじゃう人間なんて頭数さえ揃ってれば上には判らないのよ。ノルマも達成できるんじゃないのかな」

「いや、人間はそれでもいいとしてよ、神どうすんだよ、上だよ、ずーーーと上の方の奴だよ」

「泥棒なんだから、あんたが肩書盗んじまえばいいのさ。念願の上級神になれるじゃないか」

「ちちちちょっと待てい。俺に奴の経歴盗めってか。入れ替われってか」

「その後で僕等を上に引き上げてくれれば、協力しますよ。上級神退治」

「協力って、御前等。おれが主犯みたいな事になってないかい、その計画よ」

「それじゃ、具体的な計画建てようかね」

「はーい」

「はーいじゃねえよ。てめえらだけでやれよ」

「貧さん、そんな我がまま言わないでよ。君がいないと上級神の力盗めないんだから。頼むよ。上手くいったら朱色のシーグラス三個あげるから」

「本当か疫病。随分と探してたみてえだが、これまで百年、一個も見つけてねえって話しだったじゃねえか。持ってるのかよ」

「うっ、それなら本当に有りますよ。先週、治療しながら見せてもらいましたから」

「何処で手に入れた」

「んー、貧さんになら教えてもいいですけど、引き受けてくれますよね。上級神の能力泥棒」

「おう、任せとけよ。始神の能力だって盗ってきてやるぜ」

「実はね、そこの猫がくわえて来たんだよ。朱色のシーグラスがごっそり入った袋を」

「うっそー! そのこ汚ねえ猫が、これを持ってきた? おい、その猫俺によこせ。死神にゃもったいねえ」

「お似合いだね、そいつ元は泥棒猫でね、ここにもちょくちょくきてたんだよ。ヤブ医者が気に入っちゃってね。今じゃ診療所の主だよ」

「ヤブ医者ってえばよ、大丈夫かいその体。憑りついててもいいけどよ、随分と具合が悪そうじゃねえかい」

「そうなんだけどね、居るんだよ。こいつにはもう一つ憑りついてるのがさ」

「えーっ、疫病の他にも憑りついてるのがいるのかよ。だったらなおさら止めといた方がいいんじゃねえの」

「それが出来たらとっくにやってるよ。捕まっちまったんだよ。訳の解らない変な力にね」

「ほー、あんたを引き留めておけるたあ、相当な強者だね。居るのかよそこに」

「ああ、いるよ。見えないけどね」

「うっげっ、前から気になってたんですけど、やはりその人、ヤブ医者に憑りついた変態だったんですか」

「ですかって、君見えてたの?」

「はい、ヤブ医者始めて見た時から」

「早く言ってよ。捕まっちゃったじゃないかよ」

「いや、知ってると思ってました。何か、何時もニコニコしてるし、その人」

「で、何者なのこいつ」

「始神か、それ以上の神みたいなんですけど、そんな人今まで会った事ないから、よくわかんないですね」

「おーおーおー、御前等の会話、俺んとこまで意味付いて来てねえけど、何よそれ」

「貧さんに言っても解んないですよ。発想まで貧しいんだから」


 確かに、今日はパックがヤブの頭上に居る。

 吾輩に手を振っている。

 何か嫌な予言でもあるのか。

 こいつが頻繁に出て来るとロクな事にならんから怖い。

 収獲はあったものの、何時までもこんな所にいたらそれこそ採って喰われそうだ。

 朝飯も食った事だし、とっとと逃げるとしよう。

 隣のヤクザ事務所に停めた飛行艇を呼び、さっさ飛び出し朝の街を上空から眺める。

 以前は下に見える道を、えっちらおっちら歩いて移動していた。

 今はかよう便利な乗り物を宛がわれ、何処へでも自由に行き来できる。

 楽ちんな限りである。


 下では、ハリネズミがやっちゃんの入院見舞いとして、宅配ピザ屋のバイクに乗って病院へ向かっている。

 買ったばかりのピザ屋からピザの配達だが、病院でそんな物を食っていいのか。

 やっちゃんは元気だから良いが、他に入院している者の中には、食事制限されている患者もいる。

 ピザの様に臭いの強い食い物やビールは、絶対にいかんでしょうと言っても聞くような連中ではないか………。


 病院に着くと、バイクの後ろについた配達箱の中から、ピザの他にフライドチキンとアイスクリームまで出している。

 これは絶対に吾輩の分も有る程の量だ。

 ここで乗り込まなければ猫の恥である。


 飛行艇でやっちゃんの病室がある階まで上がって、中を暫く監察していると、ハリネズミが部屋に入って来た。

 窓から覗く吾輩に気付いて、隠れて居ろと合図する。

 後で残ったのをくれるなら隠れてやると返信したら、了解と返ってきた。

 しかたないから隠れてやる事にした。


 病院前の診療所に行って飛行艇を置き、公園で暇つぶしをしていればそのうち出て来るだろう。

 しばし木陰で休憩していると、思ったとおりハリネズミとやっちゃんが出てきた。

 入院していなくていいのかよ。

 ………君達の胃袋の大きさはと聞きたい。

 あれだけあった見舞いのピザ・フライドチキン・アイスクリームの欠片も残してくれていない。

「裏切り者め。何時か御前を呪い殺してやる」

 ハリネズミに告げ、銚子の病院に行って、地下室にあるハリネズミの家に放火してやろうとしたら、御詫びに全店永久無料券をくれた。

 そうならそうと早く言ってくれればいいものを、余計な癇癪を起して損をした。


 今日もこれから何件か店を買うから一緒に行こうと誘われ、ハリネズミの頭陀袋に入って楽に御伴をする事となった。

 街をぶらっとして、ここが良かろうとオーナーに話しを付け、一件のハンバーガー屋を買い取った。

 買ったばかりのハンバーガー屋で、オーナースペシャルなる新メニューをいきなり勝手に作り、やっちゃんに出している。

 バンズは上下の二枚きりで、ミートを二十㌢の厚さになるまで積み重ねてある。

「あと二十㌢、僕の身長が高かったら、世の中変わっていた」などとほざいている。

 そんなこんなを聴き付けた赤チンが、クレープ屋がないのはどういった了見だとクレームをつけきたらしい。

 自分が選んでやるから、一軒くらい持っとけとハリネズミの携帯から聞こえてきた。


 店選びに付き合ってやると、新品の飛行艇でこちらに向かっている。

 いけない玩具を赤チンに与えてしまった感が強いと思うのは、吾輩だけではあるまい。

 赤チンが飛行艇だの潜水艇だのと自由に乘り回せば、神出鬼没変態女の出来上がりである。

 もはや赤チンの暴挙を止められる者は、地球上はおろか全宇宙にも存在しない。無敵の変態バンザイ!


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