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7・おっさん、新兵器の性能を実戦で試す

 改札を抜けるとそこには朽ち果てた残骸以外の人工物は存在しない。ここから先は穴へ向かうにも徒歩である。

 まずは最後の安全地帯で割り振られた巡回区域について最終確認。どうやら金香は最近流行りのスマホというのを持っているらしく、センターで得た今日のホール探索メンバーの情報を確認する。


「今日のメンツだと第四から降りたのは居ないかなぁ。警戒するポイントは第四周辺だと思うよ」


 普通の携帯電話よりはるかに大きな画面を俺たちに見せながらそう口にする。そうして、穴出現までは幹線道路であった道を目的地へと進む。この道は穴へと通じる最も大きな道なので皆が利用し、アスファルトが痛み人道幅以外は自然に回帰する姿も見えるが、まだまだ道だと主張している。ここを外れると以前は側溝や用水であった物が草の陰に隠れている可能性もあり危険なのでほぼ誰も足を踏み入れていない。


 さて、ここまで来れば準備しても良いだろう。俺は担いでいた銃を手にし、シリンダーを展開、弾を込める。


「うわ、本当に銃だ」


 物音で振り向いた金香がちょっとおどけたようにそう言ってすぐに警戒へと戻る。隣を歩く犬渕も興味深そうにのぞき込んできている。


「矢じりを撃ち出す装置だと思ってくれれば良い。銃の常識からは外れた代物だからな」


 そう言ってシリンダーを戻し、ハンドガードを前方で固定する。そして、上部のカバーを外し、スコープも露出させる。


「本当に銃なんだ‥‥‥」


 水次もスコープを見て驚いている。ので、意味ありげに微笑んでやる。


 そこからしばらくはまっすぐ進み、地上からでは視認できないが、もう穴はすぐそこという距離まで来た頃、ようやく人影を発見した。


「先任メンバー」


 と手短に伝えてくる金香。


 それからすぐ、あちらも気が付いたらしく、一人が近寄ってきて驚いている。


「え?戦姫に千疋さんまで、何かヤバい事ですか」


 緊張した顔でそう聞いてくるが、偶然だと伝えるとホッとした様子だった。そこから引継ぎを受け、彼らを見送った。


「ふむ、予想通り、誰も第四には下りていない。昨日も下りてないのかぁ。何か出てもおかしくないね」


 そう言いながら、第四通路と俗称で呼ばれる崩落斜面方面を睨む。


 そこからしばらくは何もなく、受け持っているもう少し東へと足を延ばしてみる。するとそこから登って来たらしいモンスターを発見し、静に接近、その間に俺は銃へとヒヒイロカネ製銃剣を取り付けて金香に続いた。


 それはサル型のモンスター、俗にゴブリンと命名されているが、体表は緑ではなく黒く、見るからに普通にサルなのだが、地球の生物と違って魔法使いの場合がある。数は6、金香と俺に続いて水次も追い付いて来て三人でゴブリンへ襲い掛かり、難なく倒す。


「アイツら何してたの。第四だけ見てたら良い訳じゃないでしょ」


 最後にやって来た犬渕が怒っているが、巡回というのはそれに参加しているだけで報酬が出る。敢えてリスクを負う必要はないし、少々雑魚を取り逃がしても討伐は誰かがやってくれる。ゴブリンならば穴に降りた連中の帰りの土産として残して問題ないレベルの獲物だ。もちろん、だからと言って放置して良い訳でも無いが。

 討伐証明記録を撮って穴へと放り込む。下手に地表に埋めて何か異常が起きても困るので、不要な異界物質は穴へ戻す事が奨励されている。


 周囲を更に探索してみるが他にモンスターは居ないらしい。冒険者が下りない俗称もない小規模崩落面を調べてみるが、確かに獣道が出来ており、定期的にゴブリンが登って来ている可能性が認められた。

 地図で場所を確認し記載したら最低限の防止策を行う。


「人が数日出入りしてない第四なんて任されたら仕方ないのかなぁ」


 と、水次が困り顔で簡易な柵を立てながら言う。確かにそれはあるかもしれない。


 それからさらに周囲を調べてみたが、どうやら登って来たモンスターはあのゴブリンだけであるらしかった。


「第三は箸方さんのところが下りてるみたいだから問題ないかな」


 と、スマホを取り出し再確認をする金香。それ、便利そうだな。今の日本じゃほとんど性能を使いこなせる品じゃないとは思うが、データ保存には向いているのかもしれない。


「ねえ、ちょっと待って!」


 ふと第三通路がある東を警戒していると後ろから犬渕の声が聞こえて振り返る。


「あちゃぁ~」


 金香も困った顔である。


「さすがに射手(アーチャー)なしでアレに挑むのはねぇ」


 と、水次も困り顔である。


 一番出て欲しくなかった大型モンスターが第四から登って来てしまったのだ。


「コイツは予定よりも好都合だな」


 喜んでいるのはどう見ても俺だけ。銃を構えてハンドガードを引いて発射準備を整える。


 コイツは普通の銃とはまるで構造が違い、そもそもの発想はレールガンである。異界鉱物を精錬して得られた雷鉱石結晶を成形した触媒をコンデンサの様に利用し、そこに魔力を送り込むことで超高電圧を発生させ、シリンダーに装填した弾をローレンツ力で撃ち出す仕組みだ。


 この穴で採れる雷鉱石とヒヒイロカネを用いることで高耐久なレールガンが実現できるのではと考え、オヤジに提案。エネルギー源探しとその実現方法に1年を要し、そこから実用的な手法を探り出し、ようやく形にしたのが、このリボルバー式レールガンだ。シリンダーと銃身となるレールの隙間はポンプアクションの動作を応用して射撃ごとに銃身をシリンダーと接続する事で射撃を可能にする仕組みを編み出して完成させている。日本の銃規制に合わせて装弾数を5発とし、90センチ以上の全長を備える。結局、警察を交えた話し合いでノータッチという言質はとったものの、形状は猟銃に近い。

 しかもレールガンの特性もあって任意に弾速を変化させることが出来る事から、弾丸口径を小さく、矢じり並みの費用に抑える事にも成功している。


 出現したモンスターは巨人トロル。そんなデカイ目標へと最大出力で撃ち込んだ。発射音はライフルやショットガンほども無く、どこか気の抜けたようなものだったが、弾丸初速は毎秒7kmに達するはずだ。


「なにあれ‥‥‥」


「アカン奴や」


 10m近い高さがあるトロルの体の中心部に風穴があいた。流石の三人もそれを驚きの目で見ている。しばらくするとよろけるトロル。

 さらにハンドガードを前に押しだすとリボルバーシリンダーが回転し、引き戻すと銃身とシリンダーが接続、発射可能となる。

 二発目を頭へと打ち込むと頭にも風穴があき、トロルは力なく崩れ落ちていった。


「‥‥‥冒険者って必要なのかな」


 そんな疑問の声が犬渕から漏れてくる。


「そこは心配するな。術者(マジシャン)の大魔法と同じく、何も気にせずバンバン撃てるほど気軽なもんじゃない」


 そう、大電力を生み出すエネルギーは俺が供給している魔力なので限界がある。機関銃の様に何十発も連続で撃ち続けるのは流石に無理だ。




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