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5・おっさん、美女とお茶をする

 三人に誘われるまま、冒険者センターに設けられたフードコートへと移動した。


 食料が配給制になって久しいが、ここは優先配給先なので食材も豊富にある。一般家庭の場合、食品購入に制限こそ無いものの、そもそも商店の品ぞろえが限られているので、何でも買えるというほど自由ではない。


 この辺りは復活した老人たちが戦時中の苦労を教訓に配給方法を工夫した結果なのだが、どうしても以前並みの裕福な生活を維持するまではいかなかった。


 そもそも、日本全国に複数の穴が出現した事で物流網が寸断され、都市部を中心に穴の出現とモンスターの流出による被害や混乱も大きく、平静な状態を迎えるまでに数年を要している中で、深刻な飢餓を抑え込めたのだから、老人たちの手腕がいかほどか分かるだろう。ただ手をこまねく現役世代をしり目に、前例も慣習もかなぐり捨てた変革をやってのけた。

 まあ、彼らこそが戦後社会を築いたのだから、その社会の変革が可能なのも、やはり彼らだったという事だろうか。偉い人に言わせると、老人たちが元気にならなければ、日本の人口は混乱と飢餓で江戸時代ごろの人口まで減少しただろうというのだから、数百万の犠牲や脱出者を出したとはいえ、七割がたの人口を維持できているのは奇跡らしい。

 そんな老人たちもこの10年で次第に亡くなっており、やはり寿命には逆らえない現実がそこにはあった。まあ、モンスター被害による障害を負わなければ、大抵の人が90過ぎまで元気に働き続けられるという異常性の再確認でもあったが。


 そんな先人たちも冒険者は特別に優遇しようと思ったらしく、冒険者センターのフードコートはかなりメニューが豊富である。と言っても、肉類を中心に世間では手に入りにくい食料をモンスターや異界植物で代替した事による恩恵でもあるが。

 こうした穴から得られた異界食材への抵抗感が一般には未だ存在している事から、提供者にはその表示義務が課せられている。


「それにしても、お前たちと組むのも久しぶりだな」


 俺は異界植物から抽出されたホールコーヒーを飲みながらそう聞いた。


「久しぶりと言うか、避けてたのは千疋さんでしょう?」


 水次がジト目でそんな事を言うが、犬渕の成長に俺は邪魔だと思ったからだ。そう言うと、本当に悲しそうな表情をする犬渕。


「ホント、分かって無いなぁ。ブチは千疋さん一筋なの。冒険者の男女がおしゃべり代わりにヤル事はそりゃあ、あるよ?でも、みんながそうじゃないん」


 と、金香が呆れたように言うが、俺にしてみれば半分終わった中年冒険者なんかより、いくらでも有能な若手が居るんだから、スパッと切り替えて活躍する事を望んでいるだけなのだが。


「それさぁ、兼若ちゃんに言ったら本当に射かけてくるからね?彼女も結構そういうとこあるから」


 そう言われて、兼若という冒険者を思い出してみるが、兄弟だったか双子だったかの冒険者しか浮かんで来なかった。


「正平と悠希?あいつら男じゃん」


 そう答えると三人が唖然とする。え?なんで。


「いやいや、そっちじゃなくて、今を時めく射手(アーチャー)でしょ!」


 と、金香から突っ込みが入った。


 う~ん?と考えて思い出した。新人指導で術者(マジシャン)志望だった兼若だ。あの兄弟と同じ地区出身の女の子で、ほんの5年前の出来事なのだが、別に手を出した覚えはないんだが?


「アンタの基準はソコなのか!」


 と、さらに突っ込まれた。


「ブチさぁ、本当にこんなのが良いの?やめた方が良いって」


 と、犬渕にまで絡んでいく。


 思い出しついでの考えてみると、この三人に兼若が加われば結構な能力なんじゃないだろうか。斥候(スカウト)の金香、盾役(タンク)の犬渕、戦士(ソルジャー)の水次。これで術者(マジシャン)射手(アーチャー)が居たら完璧だ。


「何度もいろんな人と組んだけど、千疋さんほど連携できる人は居なかったですよ?」


 という犬渕。


「そうか?俺こそ助けられた側だぞ。上手く受けてくれるから斬り込んで行けた場面ばかりだったんだがな。犬渕が呼吸を合わせてくれたから楽に戦えてたんだ。俺の元居たメンバーは個人としては強かったが、連携より個人技だったからなぁ」


 そう、元のメンバーは個人としては極めた様な連中だったが、連携は正直、犬渕と組んだ後に思えば下手だった。そう言うと、俺が戦士(ソルジャー)から銃士(ガンマン)へジョブチェンジした事が悲しいらしい。そんな顔をしている。いや、水次が居るじゃん。


「私より千疋さんが良いんだって」


 と、どこか色っぽく言って来る水次。そうは言われてもなぁ。


「ん?たしか銃士(ガンマン)って近接戦も出来るジョブだよね?斥候(スカウト)の上位互換みたいなジョブじゃなかったっけ?まあ、肝心の銃が使い物にならないから、槍使いになっちゃうみたいだけど」


 という金香。そう、その通り。日本では完全に戦士(ソルジャー)の中に埋没した槍使いでしかない。肝心のメイン武器が死んでるからジョブとして何の意味もない訳だ。


 が、それを聞いた犬渕がちょっと元気を取り戻している。


「ああ、ある意味万能なジョブだ。銃さえ活躍出来たらな。俺は活躍できる銃をオヤジと作り上げたんだよ」


 三人に自信をもってそう言うが、どこか信じていない顔である。


 そんな時、まだ冒険者歴数年と言った感じの若い男が絡んで来た。


「おいおい、シケたおっさんが美女三人も侍らせやがって」


 そんな、粋がった若者にありがちな威勢良さで寄って来たので周りを見回すと、俺を知る冒険者たちが唖然としたり困り果てた顔をしているのが伺えた。どうやらこの若者は県外からやって来た冒険者なのだろう。俺やこの三人の事に気付いていないとは‥‥‥


「お前、誰に舐めた口きいてるんだ?」


 ドスの効いた声で若者に凄む犬渕。水次はニコニコ若者を眺め、金香に至ってはそれを空気と受け流してコーヒーを飲んでいる。

 上級冒険者の本気の殺気に怯んだ若者が改めて三人を見回し、顔色を変えた。まあ、そうだろう。わが県へ来たんだ、まさかこの三人を知らずに来るはずもない。


「戦姫‥‥‥、し、失礼しました!」


 怯えたように逃げ出した若者とそのメンバーたち。


「さすがのブチも見知らぬ新人は潰さなかったか」


 え?なにそれ怖い。

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