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1.おっさん、外れジョブに転職を模索する

「おう、来たか」


 俺が来たことを確認した店主がそう声を掛けて来た。


「ようやく仕上がったとか?」


 そう声を掛けると、店主はニヤッと笑う。


「最初はどうなるかと思ったが、なかなかイイ仕事をさせてもらったよ」


 俺もその言葉に頷く。


「付き合ってくれたオヤジには感謝しかない。まさか、思い付きを形にしてくれたんだからな」


 店主も俺の言葉に満足げな顔で頷いてくれた。が、チラッと壁に掛けられた武器類へと視線を向ける。


「良いのか?アレだって馴染んだ相棒だろうに」


 そう言って来るが、俺はそちらを向くことはしない。今更心が揺れても困るから。


「ああ、頼りになる相棒だった。これからはオヤジのお眼鏡に適う奴に使ってもらった方がアイツも喜ぶだろうさ」


「まあ、出番が無くなるもんな」


 店主も俺の言葉ですんなり引いてくれた。なにより、コレの代金の大半が以前の相棒なのだ。せっかく趣味に全振りして悠々自適に過ごそうってのに、財産を切り崩しちゃあ意味がない。ま、あまりに白けるからそんなことは言えないが。


 俺は仕上がった新たな相棒の取り扱いについていくつか説明を受け、店を後にした。

 

 次に向かうはセンターだ。


 21世紀地球にはゲームでいう所のダンジョンが実在している。1999年7月、かの大予言者は見事大予言を的中させた。と言って良いのだろうか?


 世の中が不景気に陥っていくさまをまざまざと見せられていたその時、自分の就職はどうなるのかと不安だった。先輩たちは速めに就活を始めろと忠告してくれもした。

 が、そんな優しい忠告も7月には意味を無くしてしまった。

 突然、世界中に穴が開き、街が呑み込まれ、それと共にファンタジーなモンスターが多くの穴から這い出し現実世界を侵した。

 世界各地で軍や警察が対応に乗り出したが、あまりの多さに埒が明かなかった。そうこうしているうちに穴の周辺に居た人たちが魔法を使える様になり、軍人や警官にとって代わってモンスター退治を始めてしまう。


 こうした混乱の中で世界経済は止まり、崩壊する国も現れてくる。


 日本も当初は危機的状況だった。大都市に空いた穴を興味本位で生中継していたテレビ局スタッフが襲われ、そのまま惨事がテレビで流れる事態が起きたり、自衛隊や警察が避難する人々の渋滞に阻まれ被害が各地で拡大していった。

 そんな時活躍したのが、施設に入所する老人たちであったことに衝撃が走った。


 彼ら彼女らは満足な武器も防具も無しにモンスターと対峙し、事も無げに倒してしまったのである。

 どういう理屈か、そうした事態が各地で起こり、いつの間にか高齢化問題が解消していった。


 が、そんなニュースは目くらましでしかなく、世界経済が止まり、日本に入ってくる資源や食料のほとんどすべてがストップしたことは覆しようがなかった。


 そんな中、就職の当てもない俺はモンスター退治に身を投じ、ゲームやアニメで描かれるようにモンスターの肉を食い、その素材や穴から得た鉱物を用いた武器を振るって戦って来た。

 多くの者たちにとって他に選択肢も無かった事だろう。


 幸い、穴の出現と共に魔法を得た俺たちファースト世代は無類の強さを手に入れることが出来ていた。


 こうして、常識ではありえない事が起り、老若男女問わずにモンスターと戦う中で、自然と社会はそのように改変されていった。

 日本では武器の所持が原則禁止であったはずが、なし崩し的に対モンスター武器が例外となり、気が付けばモンスター退治を行う者たちを取りまとめ、素材の買取や魔法によって生まれたジョブと呼ばれる魔法職の管理を行う冒険者センターが立ち上がっていた。


 穴がもたらしたものは魔法だけではなく、地球の物理法則や現代の科学では推し量れない鉱物資源も含まれ、俺たち戦闘職だけでなく生産職をも生み出す事となった。


 そのおかげもあって、世界的な大混乱にもかかわらず、日本では大規模な餓死事件も起きず、速やかに魔動機械によって動力源が置換されていく。

 元エンジニア、職人だった老人たちが生産職のジョブを得て作り出した魔動機械の数々。それは魔法師個人が有する魔力によって動く夢の乗り物だった。

 ただ、メリットばかりではない。魔法師個人の魔力には限りがあるため、トラックや電車、旅客機の様な大きなものを動かすことは至難である。数十人によって動かしたとて、メリットは大きくない。


 その為、そうした物を動かすための燃料確保に閉山した炭鉱が再開し、そこでも生産職が不意に穴に遭遇した時の為に働いていたりする。


 こうした転換は日本が世界的にも最先端であり、穴の出現から半月後には魔動バイクが登場し、2か月後には魔動小型車ツインが登場している。


 だが、世界各地で同じことが起きたというほど幸せではなく、日本近隣でもシベリアに発生した穴が鉄道を寸断してロシアは分断され、半島北部では首都が呑まれて大混乱に陥り、沿岸都市に穴が出現した対岸では経済基盤を喪失し、成長期にあった国を低迷期に押し戻してしまっている。


 最も影響が大きかったのは中東だろう。出現した穴からあふれたモンスターは聖典に何ら記述がない異形であり、宗教の真偽が問われる大問題へと発展し、モンスターと宗教解釈の2つの問題で対立や争いが絶えない状況が続いている。その影響は最大宗教にも伝播し、欧州においても古来の伝説と宗教のせめぎ合いが起き、中世に逆戻りした大混乱の様相を呈しているのだから目を覆いたくなる。


 俺は店の駐車場に止めた魔動軽トラに乗ってセンターへと向かう。ツインに荷台を追加した冒険者御用達の車両だ。


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