第三話 急に敵におそわれました
「まさかすぐに敵に襲われるなんて…。」
気が付くと、私はゴトゴトと揺れているかごの中で眠っていた。
「う…?」
私は、「ここは?」と言おうとして声が出なかった。
「あら?アヤちゃん起きたの~?」
若い女性の声がした。
そちらの方を見ると、猫耳の和風美人の女性が私を優しそうな、黒曜石のような黒い瞳で見つめていた。
この女性が私のお母さんなんだろうと、すぐに分かった。
ていうか今、アヤちゃんって。
…なんか、前の私の名前に似てるし、日本人風の名前だなぁ。
話してた言葉も翻訳された感じじゃなくて、完全に日本語だった。
…異世界でも、言語が似てることがあるのかもしれないなぁ。
「ちとせ。4人はどうなってる?」
布がめくれる音がして、一人の男性が入って来た。
お母さんの名前はちとせ、というのだろう。
「リヒト。アヤノちゃんとトーコちゃんが起きたわよ。」
…似てるとかじゃなくて、転生前と同じ名前だ…!
そして、リヒトというのがお父さんなんだろう。
「そうか、ヒカリとナオハはまだ寝てるのか。後3時間くらいでフーリン村に付く頃だから、準備しておいてくれ。」
「うん。分かったわ。」
そう言って、私と隣にいる誰か…多分トーコさんとヒカリ、ナオハに柔らかく微笑んで、荷物をまとめ始めた。(音がする。)
どうやらここは馬車の中らしい。
「…!!」
馬車の外で男の人の声がした。
「……!」
お父さんが私たちを庇うように立ち、何か叫んだ。
「…!…!!」
「なんてこと…。」
お母さんが戦慄して言った。
え?なんて言ってたの?
騎士(?)の人がお父さんに何か話をしている。
騎士がいる、ということは、それなりにいい身分なのかもしれない。
伯爵とか、辺境伯だったりして…。
と、私がそんなことを考えていると、お父さんが右手を馬車の外に突き出して呪文を唱えた。
「……!!」
すると、どごおおおん!!!!!と物凄い音がした。
「ひえ…」「あうー?」「うぅん?」「…。」
私は思わず声をあげてしまった。
隣からも赤ちゃんの声が聞こえた。
…多分、トーコさんたちだろう。
「あぁ…。ごめんね驚かせたちゃったね…。」
お父さんが私たちに謝ってきた。
別にいいのに…。優しいお父さんだなぁ。
「あうあう。」
多分ヒカリが私が思ったことを言ったんだと思う。
「…!」
外が少し騒がしくなってきた。
私は少し起き上がって馬車の窓から覗いて見た。
外では、金色の旗や鎧を身に着けた、紙みたいな白い肌の戦士みたいな奴らが
銀色をベースに紫色の刺繡が入った鎧を身に着けたお父さんの騎士達と戦っている。
「…!」
馬に乗った騎士が何か叫んだ。
その騎士の指をさしている方向を見ると、真っ白な竜が5匹ほど金鎧たちの後ろから飛んで来ていた。
「噓…竜なんて…。」
お母さんが怯えたように言った。
「大丈夫。私は最強だから。」
お父さんがそう言って、また手を外に向けた。
…パパンは一体どこの呪術師なの?
「…!」
またお父さんは呪文を唱えてパワーボムみたいのを、竜に打った。
竜が3匹くらい落下したのが見えた。
しかし、馬車の前方から爆発音が聞こえてきた。
「………!!」
「…!」
そのまま、馬車は横転。
とっさにお父さんとお母さんが私たちをかばってくれて、私たち4人は無事だった。
「……!!」
「…!」
「ちとせ。原動力の石を使って、せめてナオハたちだけでもフーリン村に飛ばしてやりたいんだが、いいか?」
「ええ。みんな、私たちも後から行くからね。」
お母さんは私たちの頭を撫でて言った。
そして、お父さんは私たちにそれぞれ消しゴムと同じような大きさの石を握らせた。
「直ぐに行くからな。」
お父さんも私たちの頭を撫でた。
待ってお父さん、お母さん!!
これから死ぬ人ようなセリフを私たちの両親が言っていたので、止めようと声を上げようとしたが、声が出せなかった。
「ッッ!!」
そして、お父さんは呪文のようなものを唱えた。
「……!」
次の瞬間、私たちは白い光に飲み込まれた。
***
「すまないな。ちとせ。本当は君も一緒に飛ばしたかったんだが…。」
私ー…リヒトが言うと、妻ー…ちとせは、
「大丈夫よ。それに、あの時ほどじゃないけど、私も強いし、あの子たちも私たちの子なんだから。きっと強いわ。」
と、言った。
無責任に聞こえるかもしれないが、もうフーリン村には子供たちの世話人を任せる旨は伝えてある。
「いくよ。」
妻はキモノの袖から暗器を取り出して、構えた。
そして、私たちはあの頃のように、騎士たちの後に続いて駆け出した。
バシュッ!
という音とともに、村の入り口付近に四つのゆりかごが出現した。
ゆりかごには「ナオハ」「ヒカリ」「トーコ」「アヤノ」、ときれいな王国文字で刻まれていた。
丁度そこを通りかかった僕ー…スリンキーは先日の国王様からの手紙を思い出した。
「この子達が王様のお子さんたちなの?」
後ろからどこか間の抜けた可愛らしい声が聞こえた。
「アジサ。そうっぽい。」
後ろを振り向くと、長めのゆったりとした茶髪に青色の花の髪飾りを着けた僕の妻、アジサが立っていた。
「じゃあ、早速4人を家に入れましょう。」
そう言って「トーコ」と「アヤノ」と書かれたゆりかごを抱えてアジサはてくてくと歩き出した。
不安そうに僕を見つめるナオハとヒカリに、
「大丈夫だよ。お家にもうすぐ着くからね。」
と、笑いかけた。
なんとなくだけど、二人は安心したようだった。
これから、この4人と僕の子供1人の面倒を、妻とみていくことになっている。
「頑張るぞ…!」
僕は無意識にそう声に出していた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。