お手本の様な『ざまぁ』されたツンデレ幼馴染を全力でデレさせる話
◇
「さっさと歩きなさいよ!!何の為にアンタと一緒に買い物来たと思ってるのよ!」
「は、はい……」
「アンタ、あの女と一緒に何してたの?言ったでしょ!私以外の女とは話しちゃダメって、良い?アンタみたいな陰キャに話し掛けられたら女の子は嫌がるの!だから、分かった!?」
「わ、分かったよ。あの女の子とはただ委員会の当番でただ一緒になっただけだから、ただそれだけだから…」
「アンタみたいな陰キャは私みたいな女の子と話せる事自体が奇跡みたいなものなの!だから今後も私といれることを感謝しなさい、分かった?」
「うん、分かった……」
僕の名前は三枝陽太、そして僕にいつもこんな高圧的な態度を取ってくるのが幼馴染である美羅山優菜だ。
正直僕は疲れていた、ただえさえいつもいつも優菜の付き添いやら奴隷みたいな扱いを受けて、その上ただ他の女子と喋っただけでも散々問い詰められて僕の親にチクられる始末。
僕の家と優菜の家は昔から家族ぐるみの付き合いであり、表向きは優菜もただの真面目な女の子だからか、僕の親は実の娘の様に優菜を甘やかしている。それこそ、僕なんかよりも……
だからこそ、僕よりも優菜の発言の方をすぐに信じて、酷い時には夕飯抜きにされる事だって暫しある。
優菜ちゃんがウチの娘だったら良かったのに〜なんてセリフは何度聞いた事か、出来る事なら僕はもっと別の家に産まれたかったさ……
そんな事を考えながらも、僕はそんな生活に耐えながら今日も学校へ行く。
─────────だが、今日はある一言を言われて僕の中の何かが切れた。
「アンタみたいな奴と幼馴染だなんて、正直虫唾が走るわ笑 何で私アンタみたいな人と幼馴染になったんだろ。ま、まぁアンタみたいな奴でも役に立つし、もしどうしてもって言うならこれからも近くに置いてあげても/// 」
「もう良いや…… 優菜、今日から君と僕は他人だ。幼馴染なんて関係はなかった事にしよう」
その僕の急な発言に、優菜は目を丸くしこちらを訳が分からないと言った風に見つめてくる。
だが数秒か、あるいは数十秒かは分からないが優菜は怒りに顔を真っ赤に染めながら僕を睨んでくる。
「な、何よ!アンタ自分で何を言ってるか分かってるの?私がいなきゃアンタには何も!!」
「あぁ、分かってるよ。優菜が……いや、オマエがいなきゃ僕の人生はもっとマシなものになるって事がね」
その僕の発言に優菜は目を見開く、相当驚いた様だ。まぁ今まで僕が優菜に逆らった事なんて無かったから当たり前の反応だろう。
「後悔するわよ」
最後の最後で捻り出した言葉がそれかと思わず心の中で笑ってしまう、最後の最後まで優菜は僕に対して何一つ謝罪をして来なかった事に少しだけ悲しさを覚えるのが、それだけだ。
「後悔なんてしないさ、絶対にね……」
僕はそう言い残し、その場を去った。後悔なんてする訳がないさ、だって今まで僕の事を散々苦しめてきた君の呪縛から解放されるんだから。
◇
嘘です、今めっちゃ後悔してます。
「あー、昨日までの僕… いや、俺何言っちゃってくれてんのホントー!?」
そう部屋のベットで頭を抱えながら叫ぶ俺は、昨日の出来事を酷く後悔する。
何故、こんな事になったのか。それは俺自身でも分からん、突然朝目が覚めたと思ったら昨日までの出来事が鮮明に頭の中に流れ込んできた。
二重人格的な線も疑ったが、生憎自分の中にもう1人の自分的な存在がいる様な感覚もしない。もしかしたら夢の話なんじゃないかという考えも過ったが、あまりにも記憶が鮮明すぎる為、それはないと思った。
にしても……
美羅山優菜─俺の幼馴染であり世界一可愛い女の子だ、あの透き通る様な綺麗な白銀の髪、全ては私の思い通りに行くと本気で思っているかの様な意思を示す力強い紅色の瞳、そしてまさに神の恩恵を全て受け取ったと言わんばかりの魅力的な身体って、流石にそれはキモいか。
だが、どうしようもなく俺が惚れてしまった女の子には代わりがない。そして優菜が俺に向けてくれている思いも全て把握している。
普段のツンツン要素は全て本当は好きだけど素直になる事が出来ない故のものだとしっかり理解している…している筈なのに、昨日の俺は──────
最悪すぎて、声も出ない。大体あんな、あからさまなツンツンな態度の中で時折見せてくるデレを見て、好意に気付けない馬鹿とか今の時代いるのか!?
鈍感系主人公って訳じゃないんだから勘弁して欲しい、いや昨日の俺は完全に鈍感系主人公だ。
あー、本当に今なら鈍感系主人公アンチになれちゃうよ俺、ありとあらゆる鈍感系主人公を採用してる小説のレビューに星1付けようかな…… とかそんなくだらない事を考えると、部屋の外から足音が聞こえてくる。
────────まさか、この音は!?
「ちょっと!アンタ!昨日の事なら特別に許してあげるから、さっさと───な!?」
俺はその言葉を遮る様に、立ち上がり優菜をこちらに引き寄せる。
「優菜、昨日は本当にごめん。俺何だか頭おかしくなってたみたいなんだ、でも許して欲しい。あまりにも優菜が可愛すぎて…… だからある意味優菜のせいでもあるんだよ?」
俺は優菜を自分の膝の上に乗せながら耳元でそう囁く。囁く度にビクンビクンと揺れる優菜が可愛すぎて頭がどうにかなりそうだが、今はそんな時じゃないと気を引き締める。
「ななななな、何なの急に……」
困惑こそするが、優菜は顔を真っ赤にしながら特に抵抗する訳でもなく、大人しく俺の膝の上に座っている。
うーん、可愛すぎる(切実) やっぱり優菜を何が何でも自分のモノにしたいという欲望は抑えられそうにない。
「なぁ、優菜?謝った後に言うべき事ではないと思うんだけどさ、俺達付き合わない?」
「は、はぁ!?アンタと私が… どど、どうして急に…」
「優菜の事がどうしようもないぐらい好きだから……って理由だけじゃダメかな?」
「あ、あう、はうう……」
その可愛らしい反応にドキッとしてしまう、やばい可愛すぎる。本当に今の優菜を見てると、全てが愛おしく感じてしまう。
「優菜は俺の事……嫌い?」
流石にこの問いは自分でもちょっとずるいかなぁと思ったりする、まぁこんな状況で嫌いって面と向かって優菜から言われたら、すぐに死ねる自信がある。
「ううう……きょ、今日のアンタ変!一人称も変わってるし、もう私は今日はかえ──っ!?」
俺はそっぽを向いて立ち上がろうとした、優菜を再びこちらに顔を向かせるとその、ぷるっとした唇を奪う。
目を見開かせる優菜、少し強引だったかなと思ったが、目を次第にトロンとさせながら俺の胸をポカポカと弱々しく叩く優菜を見て、まぁ大丈夫かと思い続けた。
「よ、陽太ぁ///」
唇を離すと、うっとりとした表情で俺の事を見つめてくる優菜、そして名前を呼ばれた事につい喜びを隠せず、思わずニヤついてしまう。
「優菜…… もう一度聞くよ、優菜は俺の事嫌い?」
「す、好きぃ///」
至近距離で向かい合いながら、その蕩け顔から放たれる好きという言葉は物凄く俺の胸に刺さった。
あぁ、でもこれが終わったらまたいつものツンツンに戻っちゃうんだろうなぁ。
いつものツンツン優菜も勿論大好きだが、やっぱりこんな風にデレさせる方が良いという俺の気持ちは間違ってない筈。
だが、やはり未だに疑問に残るのは何故急に俺の人格が変わったかの様になったのかだ、何か条件があるのか?昨日までの俺は間違いなく俺自身だ、大体急に昨日までの俺を全て塗り潰すように今の俺が出てきた訳なんだから、俺が偽物で昨日までの俺が本物の三枝陽太…?
そういや、もし今日の俺が出てこないままだったら間違いなく俺と優菜はそのまま関係を無くして、バッドエンド直行だったんだよなぁ……
まぁ難しい事は考えてもしょうがないよな、よし!とりあえず今大切なのは今の俺自身の意思だ。
今の俺の目的は
───────────俺の全てを使って優菜をとことんデレさせてハッピーエンドに持っていくこと。