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◆第6話◆ 『偶然の再開』


 俺は無事に国立X育成高等学校へと到着した。

 

 指示されるがままに中に入れば外見に反して案外内装は学校らしくできている。 

 とりあえず俺は案内された更衣室へと向かい、この学校の制服に着替える。

 着替えを終えれば、いよいよ入学式の会場へと向かうことになる。

 俺は親切に設置された張り紙の指示に従い、入学者の会場となる第一体育館へとたどり着いた。


 やはりというべきか体育館は普通の学校の倍はあろう大きさ。

 そこに今日からこの学校に通う、俺を含めた沢山の入学者達がイスに座っている。

 どうやらどこに座っても問題はないらしい。

 俺は最初に目のついた席へと腰を掛けた。


 それからしばらくして、遂にX高校の入学式が開始される。


「――本日、国立X育成高等学校へ入学を果たした120名の新入生たち。まずは入学おめでとう。オレはこのX高校の生徒会長を務める矢島嵐だ」


 この学校の生徒会長――矢島が前に立ち、話始める。

 どこかチャラそうな見た目をしているが雰囲気はしっかりしている。


「今日から君たちはこの学校で3年間暮らしていくわけだが――」


 やはり、どこの学校も入学式というものは特段変わったことは何もない。

 生徒会長のありがたい言葉を頂き、そのあと偉そうな人たちからありがたい言葉を頂く。

 眠くなってしまいそうだが第一印象を崩すわけにはいかない。

 背筋をピシッと伸ばし、横の席で爆睡してる奴なんか目もくれずに入学式を真面目に受ける。

 

 どこか締まらない入学式は1時間も掛からず終了した。

 結構期待していたのだが、あまり記憶に残るような入学式にはならなそうだ。



***



 入学式が終わり、いよいよ俺は自分のクラスへと向かう。

 入学式前に貰っていた用紙によると俺の配属は3組ある内の1年2組のようだ。

 学校の地図を見ながら俺は自分の教室を目指していく。


「――ここか」


 教室の扉の上に1-2と書かれた看板がある。

 俺は扉に手を掛け、開け放った。

 教室の光景が鮮明に俺の視界に映り出す。


「お、また新しい奴が入ってきたぞ」


「誰かドアの間に黒板消し挟んでおけよ」


「ギャハ。それは面白いなあ」


 中に入ってすぐ、俺は教室の奥の方にいる男子三人組に絡まれた。

 明らかに低脳そうな奴らだったので俺はそいつらを気にすることなくスルーする。


「おいおい、俺たちを無視してんじゃねーよ」


 そんな声が聞こえた瞬間、俺は頭部に軽い衝撃を感じる。

 地面へと視線を落としてみれば、ぽろんと転がっていく消しゴム。

 どうやら俺は消しゴムを投げつけられたらしい。


「ギャッハ。何アイツ、無反応かよ。陰キャ極めてんじゃん」


 俺の本能が訴えている。

 こいつらは絡んじゃダメなタイプの人間だ。

 俺は黒板に貼られた座席表を素早く確認して、逃げるように自分の席へと座る。

 席があのアホ共の近くじゃなかったことが不幸中の幸いといったところか。


「――あ」


 ふと横の席の人を確認してみれば見覚えのある姿が見てとれた。

 雪のような髪色とシンプルな黒のカチューシャ。

 バスで後ろの席にいたあの女子に違いない。

 その女子も俺の存在に気がついたのか、ちらっとこちらを横目に確認してきた。


「偶然ね、君」


「あ、ああ、そうだな」


 もうちょっと優しい対応してくれてもいいんじゃないか?

 バスから離れて感動の再開......ってほどでもないけれど。


「―――」


 ともかく、このままではせっかくの会話が途切れてしまうな。

 俺は一つ勇気を出して、この少女と会話してみることにする。


「......お前は何してるんだ?」


「初対面の人に対してお前なんてとても強気ね」

 

 それはブーメランな気がするぞ。

 というかバスで既に一度会ってただろ。


「見れば分かるでしょ。勉強よ。高校の勉強は進むスピードが早いから、予習をしとかないと付いていけなくなるの。用が無いのなら話しかけないでもらっていい」


 めんどくさそうに少女は答える。

 確かに見れば分かることだったが、これもコミュニケーションの一つだろ。

 話しかけるなと言われたが、いくらなんでもここで会話終了は後味が悪いな。


「なあ、席がせっかく隣なんだし自己紹介でもしないか。バスの席が近かったのも何かの縁だろ?」


 俺は強気にそう女子の横顔を見ながら提案をしてみた。


「......あんた、さっきの私の話、聞いてなかったわけ? 私は勉強してるの。大した用もないのなら不必要に話しかけないでもらっていい?」


「自己紹介なんてお互いに10秒も掛からないだろ。というか、そんな初対面からピリピリしてると友達ができなくなるぞ」


 そう言うと女子は少しムッとした様子を見せてきた。

 俺もちょっと調子に乗りすぎたか。


「別にできるわよ。友達くらい」


「なら、俺が最初の友達になろうか?」


「断固拒否させてもらうわね」


 断固拒否って、そこまで言う必要はないだろ。

 なんでこの女子はこんなにもツンツンしてるのか、俺には全く理解できない。

 俺なら新学期なんて一人でも友達は増やしていきたいからな。


「俺の名前は黒羽優斗だ」


「聞いてないわ」


「特技については大体のことをこなせるから特にと言ったものはないが、しいといえばドッチボールはかなり得意だな。俺一人で20人を相手にすることだってできる。まあ文武両道を心がけている普通の一般人だ。よろしく」


「聞いてないって言ってるし。というか何それ。自分を良く魅せたいからって見栄を張ってるのがバレバレよ」


 いや、見栄を張ったつもりは一切無かったんだがな。

 まあここでいちいち噛みついてても仕方ないので俺はその少女の言葉を無視しておく。

 その代わりに俺は目で少女の瞳を捉え、自己紹介をするよう促した。


「はあ......遠藤沙結理よ。よろしく」


 あからさまな溜め息と共に、ようやく名前を教えてもらった。

 最後のよろしくも投げやり感が満載だったが、まあよしとしよう。

 俺は少女―――沙結理の話しかけてくんなオーラを無視しながら微笑みかけた。


「ああ、よろしくな。沙結理」


 さすがにいきなり下の名前で呼ばれるのは衝撃があったのか、少し肩がぴくんと揺れていた。


「あんた――」


 沙結理が何か言いかけようとするが、それを遮るかのように教室の扉がガラガラと開く。

 それと同時にカコンと何かが落ちる物音。

 あのアホ三人組は本当に扉の間に黒板消しを仕掛けていたようだ。

 

「――全員、席に着いてください」


 そして不運にもさっきのアホ共が仕掛けたであろう黒板消しは、このクラスの担任に直撃したらしい。

 開口一番怒られるであろうと察したが、落ちた黒板消しを先生は無視し、教卓へと向かった。


「入学おめでとうございます、新入生のみなさん。この1年2組の担任をすることになった山下歩美です」


 恐ろしいくらいに不気味に微笑む担任は、俺たちにそう挨拶をしてくれた。

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