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◆第5話◆ 『いざ、X高校へ』


 バスに乗り約1時間が経過した。


 その間にバスは何度も停車を繰り返し、入学者の家に向かっていく。

 そうしてバスの中の人数が増えていくと、段々と車内は騒がしくなっていく。

 俺はあまりの騒々しさに溜め息を付くも、仕方なく背もたれに背中を深く預け睡眠を取ることにした。


「―――」


 ぎしぃという音と共に俺の背中は柔らかい感触に包まれる。

 こんなに体にフィットする背もたれは初めてだ。

 あまりの心地よさに、俺はすぐに眠ってしまうだろうということを悟った。

 そう思っていた時だ。


「―――あの、迷惑なんですけど」


 不意に後ろから聞こえた女性の声。

 しかし俺は、その声が俺に向けられているとは思わず、無視をしてしまう。


「ちょっと、聞こえてるの? あんたの背もたれが私の席まで下がってきて迷惑なんですけど」


「あ、え?」


 そこでようやく俺は気づき、後ろを振り返った。

 そこには雪のような綺麗な髪色をした少女が俺をじとーっと睨んでいた。

 どうやら相当俺にご不満があるらしい。


「......そんなに見つめないでもらっていい? 早く背もたれ戻して。寝たいなら窓にでも寄りかかればいいじゃない」


「あ、ああ、すみません。気をつけます」


 そう言って俺は少女から視線を外し、ずれた背もたれを元の位置に戻す。

 なんとなく気を使って初期位置よりも少し戻しすぎてしまったが、まあいいだろう。


 それにしても、すごく気の強い人だったなと今になって思う。

 普通、初対面の人にあんなに強気に喋り掛けられるだろうか。

 まあ美人だったし良しとするか。



***



 そんなことがあって、約7時間が経過しただろうか。

 乗車中の大半は眠っていたが、どうやらもうそろそろ到着が近いらしい。

 俺は今一度荷物の確認をして、体制を整える。


「――まもなく、国立X育成高等学校へと到着致します。到着の前に配り物を配布いたします」


 三島のアナウンスが鳴り響く。

 すると、前の席の方からバス添乗員が何かを手にしながら数名現れる。

 一人の添乗員がマイクを手に取った。


「今からX高校の制服を配布します。着替えに関しましては学校に到着してから時間が設けられる事になっております。ですのでバス内での着替えはお控えください」

 

 そう手短な説明をされ、俺の元に袋に詰められた制服が配られた。

 パッと見、シンプルなデザインに見える。


 そうして、しばらく俺が制服を見つめていると、再びアナウンスが鳴った。


「みなさん、窓をご覧ください。前方に見えますのが国立X育成高等学校です」


 俺はアナウンスの指示通り、窓を覗く。


「......マジかよ」


 まず見えたもの、それは巨大な町だ。

 海に囲まれた巨大な町がそこにあった。

 そしてその巨大の町の中心にある巨大な建物、あれこそが国立X育成高等学校だろう。


「―――」


 俺は予想の数倍を上回る絶景に言葉を失う。

 日本とは思えない、とても美しい町だからだ。


 なんとなく横を見てみると後ろの少女も窓からこの絶景を覗いていた。

 しかし、その表情を見るにあまり感動をしているようには思えない。

 感情の起伏が小さいのだろうか。

 まあ、それはそうとしてすごく綺麗な子だな。

 カチューシャ着けてるとことか可愛い。


「――なに」


「いや、別に」


 横顔を見ていたのがバレてしまった。

 少女が俺の方を睨んでくる。

 俺はすぐに視線を逸らし、余計な刺激を与えないようにする。


「......ここが、俺の通う学校か」


 俺は思わず溜め息をついた。 

 しかし、その溜め息は落胆によるものではない。

 目の前に見える光景に寄せた、期待から出る心地のよい溜め息だ。


「楽しみだな」

 

 俺は小さくそう溢す。

 父さんはすごくこの学校を悪くいっていたが、第一印象はとても良さそうだ。

 時代の流れによって、もしかしたらそんな酷い場所ではなくなっているのかもしれない。

 俺はそんな甘い考えを持ってしまう。


「――あんた、楽しそうね」


「え?」


 不意に後ろの少女が俺に声を掛けてきた。

 俺はなんて返せばいいか分からず、間抜けな声を出して硬直する。


「この学校のことを詳しくしらないのかもしれないけれど、楽しむなんて甘い考え、今の内に捨てておくべきよ」


「お、おう。ご忠告ありがとう」


 なんだこの少女は。

 別に今くらい楽しんだっていいじゃないか。

 とは思うものの、少女の有無を言わせぬ圧力に俺は丁寧にお礼を言っておく。


「この学校がなんて呼ばれているか知ってる?」


「......知らないな」


「世界一理不尽な学校、よ」


 少女は呆れるような言い方でそう言った。

 それにしても世界一理不尽な学校か。

 確かに、勝手に合格を取り消したり、自分の高校へと入学を強制したりと理不尽なことをしている。

 ......そう思い返すと、何故か嫌な予感がしてきた。


 少女との短い会話を終え、席に座り直す。

 するとバスの速度段々と緩やかになっていくに気がついた。

 

「――入学者のみなさん、国立X育成高等学校へと到着致しました。前の方からお降りください」


 アナウンスが再び掛かる。

 どうやら長いバス旅は終了し、遂に目的地へと到着したようだ。

 俺は横に置いてある荷物を背負い直し、順番を待ってバスから降りていく。


「―――」


 新たなる土地に足を付ける。

 俺は視線を斜め上に上げ、大きく佇む学校を見上げた。

 太陽が眩しく照らしてくる。


「――よし、行くか」


 俺はX高校に向けて歩みを進める。

 3年間、俺が通い続けるであろう学校に。


 ――世界一理不尽な学校へ。



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 第一章入学編・完 次章 第二章1年生一学期編


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