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◆第30話◆ 『背水の陣』


 ――怪しい雲色の下、俺はスマホを片手に全力疾走をする。


 残された時間は遂に1時間を切り、遠足の本当の『終わり』が近づいてきた。

 結局、2時間を費やして俺らのグループが手に入れたポイントは30のみ。

 その数字は、到着順位によるボーナスポイントを狙わない俺らにとってあまりにも絶望的なものだった。

 

 手に入れたポイント数の最下位のグループが退学。

 遠足が始まる前、その理不尽な仕打ちは、恐ろしいものだと思いながらも、どこか自分には関係ないものと勝手に現実逃避している自分が存在していた。

 そして初めて俺のグループのメンバーを見たとき、その考えは確かなものへと変わった。

 理知的な印象を感じる忍と、優秀そうな印象の麗子。

 静かな印象の宮野と、知人である生田。

 唯一、山根という存在が俺の中での不安材料だったが、それ以外はとても良いメンバーだと、そのときは思っていた。

 

 だが、その考えは少しずつ捻じ曲げられてしまった。

 忍の作戦に従った俺らは、なかなかスタンプを見つけられることができず、焦り、他のグループのポイントを知り、恐怖し、忍は熱中症を引き起こし、動揺し、山根の暴挙に、遂にグループはほぼ崩壊を成した。

 勝手にこのグループなら大丈夫だと信じていた俺がバカみたいだ。

 なんで、勝手に大丈夫なんて信じていたんだろう。

 

(グループ思いな奴ほど、苦しむことになる遠足なんてな......)


 俺たちのグループはもう、正攻法では勝つことはできない。

 それは少し前から分かっていたことだ。

 分かりたくないけど、だんだんと理解をしてしまった。

 気づけば俺は、一番の不安材料である山根に案を求めた。

 多少強引な手を使って山根から聞き出した案は、やはり思いっきり遠足のルールを破り散らかしたもの。


 でも、俺はその作戦を否定しなかった。

 普段の俺なら考える必要もなく一蹴しただろうが、俺は初めて山根の考える作戦を熟考した。

 深く深く考え、俺はその山根の案を希望を感じた。


 俺が覚悟を決めている間、グループのまとまりはどんどんと崩れた。

 しかし、グループの崩壊、それは実は、案外『俺と山根』にとって都合の良いものだった。

 それは何故なら――、


(退学覚悟で勝ちに行くなんて、忍と麗子が許してくれるわけないからな......!)


 半分に破られたスタンプラリー用紙をポケットに、俺は一人で次のスタンプ置き場まで走っていく。

 先生に見つかったら退学は確定だな。



***



 ――時は、俺が木島さんの連絡先と引き換えに山根の案を聞き出すとき。


 奥で忍と麗子が難しい顔して作戦を練っている最中だ。

 俺は嫌々といった様子の山根と向き合い、話をする。


「まず大前提としてこのグループがクソなんだよ。バカ真面目に分かりやすい道を通ってスタンプを探しやがる」


「......まあ、それは俺も思った。こんなにスタンプが見つからないってことは、多少見つけにくい位置にスタンプは隠されていそうだしな」


 なかなかに手厳しいことを言う山根。

 俺は苦笑を浮かべながらも、山根の言うことに肯定した。


「つまり、別行動すればグループに足を引っ張られずに自由に行動できるんだよ」


 そう得意気に言い放った山根の言葉に、俺はズテッと分かりやすくリアクションを取る。


「......お前、それさっき忍に言って却下されたやつじゃねーか」


「あ? さっきとは違ぇよ」


「何がだよ」


 俺は明らかに呆れた雰囲気をプンプンさせながら、低い声で山根にツッコミを入れた。

 すると山根はどこか薄笑いを浮かべて――、


「――スタンプラリーの紙を半分に破る。これが俺の作戦だ」


「......いろいろツッコミをしたいところだが、先にスタンプラリー用紙を破る理由を教えてくれ」


 スタンプラリー用紙を破るとか、一体こいつは何アホなこと言ってんだ。

 俺は心の中で、こりゃ録な作戦じゃないなと勝手に割りきりをしようとする。


「半分にしとけば片方ずつ二人が用紙を持てるだろ? そしたらその二人で単独行動を取って、効率良くそれぞれがスタンプを集められるってわけだよ」


「――」


 最初はくだらない案......と思ったが、何故だろう。

 俺はしばらくその説明を聞いたあと、顎に手を当てて、よくその作戦の内容を考えてみた。

 ルールを思いっきり破っているのは考えなくても分かるが、何故かその案に価値があると俺は感じた。

 

「あぁ、もちろん単独行動を取るのは地味男と俺だ。他の奴らに言ったところで突っぱねられるだけだからな」


「......なるほどな」


 俺は山根の言葉に一度、深く頷いてみた。

 すると山根は目を細めて訝しむ様子を見せてくる。


「......お前、俺の作戦にケチ付けないのか?」


「え? いや、案外使える案かもしれないって思ってな」


 俺は山根の言葉に素直にそう答えた。

 俺の言葉に山根は更に不機嫌そうな顔をするが、一体なんでなんだよ。

 まあそんなことをいちいちつっこんでいられないので、俺は真面目な顔をしたまま山根に質問をぶつける。


「で? 単独行動を取って俺と山根はどうするんだ」


「......時間ギリギリまでスタンプ見つけまくって、後は合流してお前と俺の用紙くっつける。ってすれば良いんだよ。地味男、お前テープくらい持ってるだろ」


 というのが山根の作戦らしい。

 ぶっとんだ作戦のように見えて、案外希望の見える作戦だな。

 俺は苦笑を浮かべてこう言った。


「はは。なるほど、やっぱりぶっとんだ作戦だな。バレたら退学になるじゃねーか」



***



 そうして、今俺は山根の作戦に従い、一人孤独にスタンプを集めまくっている。

 俺は左側のスタンプを、山根は右側のスタンプをといった感じだ。

 やはり一人というのは山根の言う通り身軽で、細かいところや危ないところも何の躊躇いもなく足を踏み込むことができる。

 それに、もう一つこの状況に最適すぎるチートアイテムがあり――、


「木島さんには本当に感謝だな......!」


 ありとあらゆるスタンプの位置がメモされたこの画像。

 そのメモ書きは紛れもない真実で、確かにメモ通りの場所に行けばスタンプが置かれていた。

 まさにこれはぶっ壊れのチートアイテムと言えるだろう。


「どうやってこんなにスタンプを見つけたのかすごく気になるけどな!」


 違ったら悪いが、こんな大量のスタンプの位置がたったの1時間ほどで全て見つけられるとは思えない。

 つまり何が言いたいかというと、木島さんのグループはなんらかの不正をしてスタンプの位置情報を知ったのでは、という怪しさについてだ。

 木島さんのメモしてくれたスタンプの位置は、どれも少し目を凝らさねば見つからないような位置のものばかりで、そんないやらしい位置にあるスタンプを短時間で何個もポンポンと見つけたとは考えにくい。

 それに――、


「なんでマップの左端と右端のスタンプの位置が分かるんだよ!」


 スタンプの置かれている位置はとても極端で、マップの左端や右端などなかなか足を運ばせにくいところばかりにあった。

 そんな端っこのスタンプの位置をなんで木島さんたちのグループは分かったのか。

 左端だけ分かるならまだしも、真逆である右端も分かるとか、どんだけ体力を使えば両端のスタンプをサーチできるのか。

 ......うん、これ絶対ズルしてる!


(......まあ、俺たちもズルをしている真っ最中だけどな)


 そんなことを考えながら、俺は次なるスタンプの位置へと到着した。

 とある路地裏に隠されたスタンプ置き場に俺は近づき、そのスタンプの形を確認する。


「星形、だ」


 喜びと興奮を抑え、俺は四つ目のスタンプを破れたスタンプラリー用紙に押した。

 俺一人で集めたポイントは、これで100を超えた。

 後はヒヤマ平原に向かう時間を考えたうえで、制限時間ギリギリまでポイントを集めるまで。

 俺は再び次なるスタンプの位置へと走り出し――、


「本当に頼むぞ、山根」


 今一番頼れる相棒へ独り言を呟き、俺は前を向く。

 先生にバレたら終わりの恐怖の単独行動。

 お互い、無事にこの遠足を終えれることを心から願って。

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