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◆第26話◆ 『食い違う意見』


 遠足開始数分、他グループとの協力は禁止事項とされているので、それぞれのグループが散り散りになり始め、俺の目には他のグループが映らなくなっていた。

 20のグループ数があるが、この学校の敷地はとてつもなく広い。

 20のグループを持ってしても、今日中に全てのルートを通りきることは不可能だろう。

 それはそうと、俺たちのグループも早速スタンプ探しを始めていた。


「スタンプは制限時間ギリギリまで探したいところだが、制限時間のことも考慮すると、20分前くらいにはヒヤマ平原の周辺を歩いていたほうがいいだろう」


 6人でまとまりながら歩く俺たち。

 ちょうど横にいた忍はそう発言した。


「それは、到着順位の上位は狙わないっていうことか?」


 俺は忍に疑問をぶつける。


「そうだ。確かに到着ボーナスポイントの1位や2位は破格だ。だがそれを狙うのはハイリスクハイリターンだと俺は見ている」


「1回到着すればもうスタンプ集めはできないからってことか」


「それもあるが、いくら早い到着をしたところで同じことを考えているグループがいたら意味がない。到着順位1位も獲得できずにスタンプも大して集められなかったら最悪だ」


「あーなるほど。それは確かに」


 確か到着ボーナスポイントの1位は150ポイントだったか。

 星形スタンプ3つ分の価値がある、あまりにも大きな数字だ。

 だがそれを狙うのはハイリスクハイリターンだと忍は言う。

 俺もその意見には賛成だ。


「俺たちはスタンプをできるだけ集めて、到着順位で得るボーナスポイントには頼らない方針でいこうと思う。それが安定した順位を取る方法なはずだ。異論があったら遠慮なく言ってくれ」


 リーダー的ポジションで喋る忍。

 その真面目さに俺は驚きつつも、頷いて忍の意見に賛成の意を示した。


「おー! さすが忍。真面目に考えてるね。もちろん賛成だよ」


「私はなんでもいいよ。みんなについていくから」


「僕もその案に賛成です」


 麗子から宮野さん、生田と、忍の意見に賛同していく。

 唯一何も発言しないのは俺のクラスメイトの山根だ。

 さっきから俺たちの会話に入ろうとする様子がない。


「信時、お前は俺の案に不満があるのか? あるのなら遠慮なく言ってくれ」


 むすっとした様子の山根に忍が話しかける。

 そうすると山根は気だるそうな雰囲気を露骨に見せた。


「ああ、あるぞ。お前のその言い方からして、最初からポイント1位を取る気ねーだろ。俺は1位になって10万円が欲しいんだよ」


「......ポイント1位になる可能性がまったくないというわけではない。星形スタンプを多く見つけることができれば、俺たちのグループでも1位を取れる可能性は十分にある」


「そんなレアなスタンプがポンポン見つかると思ってんのか? んなわけねぇだろ」


 いきなり場の雰囲気を乱す山根。

 しかも忍の作戦に反対する理由は、ポイント1位のグループが貰える報酬、10万円の現金について。

 俺は相変わらずの山根の態度に苦い顔をする。


「ならば信時は、この俺の考える案よりも良い案があるというのか?」


 忍は山根に聞いた。

 山根は一呼吸置いて喋りだす。


「――それぞれ別行動してスタンプを見つける。見つけたらスマホでスタンプの位置を報告して、スタンプラリーの用紙を持つ人がスタンプを押しにいく。これなら効率良くポイントを稼げるぞ」


 そう山根が言い切った瞬間、あまりにも分かりやすい沈黙が流れた。

 全員が何言ってんだこいつ、みたいな目で山根を見ている。

 俺は山根のクラスメイトとして、とりあえず沈黙を破ってあげる。


「山根、お前遠足の説明読んでないのか? グループとの別行動は退学措置を受けるぞ」


 まず大前提として、グループと別行動をした生徒は退学処分となる。

 山根はそれを知ってのうえでの発言だったのか、そうではないのか。

 後者の方であってほしいのだが......。


「あぁ? 地味男が生意気に俺に口を聞いてんじゃねーよ。そんなん先公の目を掻い潜ってなんとかしやがれ」


「......むちゃくちゃだ」


 まさかの根性論に俺はため息をついた。

 俺たちのやり取りを見ていた麗子が苦笑いをしながら山根に近づく。


「ねー山根くん。私はグループのためにも、無理して1位を取る必要はないと思うな。禁止されたことをやってバレちゃったら本当に大変なことになるし、みんなで平和に遠足を終えようよ」


 諭すような麗子の言い方に山根は無言を貫く。

 今度は見かねた忍が額に手を当てて山根を見た。


「すまないが信時、お前の私欲のためにグループの運命を脅かすことはできない。1位を取りにいきたい気持ちは分かるが、安全を優先することを許してくれ」

 

「――」


 忍が申し訳なさそうに発言するが山根からの返事はない。

 まるで最初から断られるのは分かっていたかのような雰囲気だ。

 

「......はぁ」


 後ろで宮野さんが小さくため息をついている。

 まあ、いきなりグループで揉めればため息の1つや2つつきたくなるよな。


「じゃ、じゃあ気を取り直してスタンプ探そっかー」


 麗子は無理に作ったような笑顔をグループに振り撒く。

 だが、しばらくは俺たちのグループに会話らしい会話は流れなかった。



***



 遠足が始まって約30分が経過した。

 この間に何度か他のグループとすれ違ったが、どのグループは賑やかそうな印象は見受けられない。 

 やはり他クラスとグループを組むのは雰囲気的に気まずいのだろうか。


 だんだんと上昇してくる気温に、俺たちは汗を流す。

 俺はリュックから水筒を取りだし、中身を一気に喉に流し込んだ。

 ひんやりとした液体が体中に浸透し、この暑さが少し紛れた気がした。


「――あ。あれ、スタンプじゃない?」


「え? どこどこ?」


 不意に喋る宮野さん。

 宮野さんは人差し指を、今俺たちが歩いている道の分かれ道の先に向ける。

 そこには確かにスタンプ置き場のような場所が見えた。


「お、本当だー。みんな行こう!」


 麗子もスタンプらしきものを見つけられたのか嬉しそうな笑みを浮かべる。 

 俺たちは互いに頷き、麗子の後ろに続いた。


「やった! これスタンプだよみんな!」


「やっと1つ見つかったようだな」


 小さな建物の横まで歩いた俺たち。

 そこにあったのは中型の台に置かれるスタンプとインク箱。

 麗子は小刻みにジャンプして喜び、忍はどこか難しそうな顔をしている。

 

「星形だといいな。な、山根」


「喋りかけんな地味男」


 せっかく前の揉め事を水に流してやろうと思ってるのにな。

 そんな露骨に嫌そうな顔をする必要はないだろ。


「あ、ハート型だよみんな! 30ポイント30ポイント! やった~」


 麗子がスタンプを持ってはしゃいでいる。

 星形とまではいかなかったものの、次点のハート型だったようだ。

 これなら幸先は良いと言えるだろう。


「よいしょっと」


 麗子がスタンプラリー用紙に本日1個目のスタンプを押す。

 赤いインクでハート型のマークが用紙に刻まれた。


「宮野さんお手柄だよー。宮野さんが見つけなかったら私たちスタンプ見逃してたかも。本当にありがとねー」


「宮野、この調子でスタンプを見つけてくれ。あの距離からこのスタンプを見つけたのは俺も少し驚いた」


「え。ああ、どうも」


 確かに、さっき宮野さんがスタンプを見つけた位置はとても遠距離からであった。

 おそらく宮野さんは視力がとても良いのだろう。

 宮野さんはグループの重要な存在になりそうだ。


「......とはいえ、少し予想外だな」


「ん、予想外って何がだ?」


 忍がポツリとそう溢したので、俺はその言葉をすぐにに拾いあげた。

 忍が俺の方に体を向けるも表情が芳しくない。


「いや、俺はスタンプというものはもっと簡単に見つかるものだと思っていたんだが、最初のスタンプを見つけるのに30分も費やしてしまった。このままのペースで行くのは危険な気がすると思ってな」


 忍が俺に自身の腕時計を見せてくれる。

 時計の長針は俺たちが学校を出発した時間から30分経過したことが見て取れる。

 

「俺たちに残された時間はもう2時間30分しかない。このままのペースでスタンプを集めるのは危険だな......」


 1つ目のスタンプが見つかるのが思ったより遅かったのは忍にとって計算外だったのだろう。

 俺たちの作戦は到着時間ギリギリまでスタンプを稼ぐ、というものなのでこの状態は非常にまずい。

 俺も今の状況に歯軋りをする。


「――みんな、少し歩くペースを上げようと思う。大変だとは思うが頑張って付いてきてくれ」


 忍は悩んだ末、そうみんなに呼びかけた。

 山根以外は忍の呼びかけにもちろんといった様子で頷く。

 

「信時、俺に不満があるのは分かるが、今はグループ全体のためにも指示に従ってくれ」


「――――んねぇだろうが」


「......? 何か言ったか?」


「なんでもねぇよ」


 山根がポツリと何か呟いていたが誰の耳にも聞き取ることはできなかった。

 

「これから俺を先頭に少しペースを上げて歩く。休憩したかったら遠慮せずに言ってくれ。それと水分補給にも気をつけてくれ。この暑さだ。熱中症になる可能性がある」


 忍はそうグループのみんなに伝え、グループの先頭となり再び歩き出す。

 その後ろに俺や麗子たちが続くが、山根だけは若干グループと距離が空いていた。

 

「......本当に俺たち、大丈夫なんだろうな」


 俺は忍の後ろを歩きながら、遠足が始まって初めて不安を口にした。

 果たして俺たちはこの忍の作戦のままで遠足を進めていいのだろうか。


 ――少しずつ、制限時間は削れていく。削れるたびに俺たちのグループに焦りが生まれる。


 そのことに俺たちはまだ気づけていなかった。

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