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◆第25話◆ 『出発前2』


 公開されたグループの割り当て。

 俺は不運にも山根という問題児クラスメイトと一緒になってしまった。

 山根は1度、俺がぶん殴って以来まったく絡まなくなっている状態だ。

 梶前先生がグループで集まるよう促すので、若干気分は重いが山根以外のメンバーを探す。

 

「......っと。人が多すぎるな」


 大した面積のない玄関で一年生120人が一斉に歩き回るので辺りは大騒ぎ。

 俺は人混みを掻い潜り、とりあえず1年1組がたくさんいるエリアへ向かう。


「――えーと、この名前は......むむむ、クロハネくん? いやクロバくん? ええぃ、ユウトくんいますかー!」


 それなりに近い距離で俺を呼ぶ声が聞こえた。

 俺は手を挙げ自分をアピールし、存在することを示す。


「黒羽なら俺のことだー」


「あ、いた! おーい、こっちだよー!」


 声の聞こえる方向へ強引に人混みを抜け出せば、少し開けた場所に着く。

 そこには二人の男女が俺を見ていた。


「君が優斗くん?」


「ああ、そうだよ。1年2組の黒羽優斗です。よろしく」


「うんうん、よろしくー。私は1年1組の西城麗子だよー」


 顔の近くでピースサインを取る西城さん。

 少しくせっ毛で、木島さんと似たような印象を見受ける。

 というかどこか既視感があるな。


「同じく、俺も1年1組の田貝忍だ。短い間だがよろしく頼む」


「西城さんと、田貝......くんか。よろしく」


「俺のことは呼び捨てで構わない。むしろそうしてくれ。何かむず痒い」


「あー、じゃあ忍って呼んでもいいか?」


「もちろんだ。俺もお前のことを優斗と呼ぶ」


 おー、田貝――いや、忍はけっこうグイグイくるな。

 初対面をまったく恐れていないのだろう。

 何はともあれ、早速他クラスの生徒と距離を縮められたのはラッキーだ。

 そしてどちらも周りと比べて知的な印象を受ける。


「おー忍さっそく友達作ってんじゃん。いいないいなー」


「今日の遠足は退学のかかった危険なイベントだ。グループと友好的な関係を築くのはやって当たり前のことだぞ」


「まーたそんな堅苦しいこと言ってー。ま、言いたいことも分からなくないけどね」


 忍と真反対な性格をしてそうな西城さん。

 そしてどこかひっかかる既視感。

 俺はその既視感の出所に気がつく。


「西城さんって、もしかしてさっき梶前先生に質問してた人?」


「そだよー。それがどうかした?」


「いや、なんとなく気になってさ」


 やっぱりそうか。

 質問をしている最中と、今の様子のギャップで気づかなかったが、どうやらさっき質問をしていたのは西城さんのようだ。

 先生と生徒同士でしっかりと言葉遣いに気を配る人間はこの学校では本当に珍しい。

 俺は西城さんが稀に見る優秀な人材であることを悟った。

 

「というか優斗くんも私のこと、麗子ーって呼び捨てにしていいよ」


「お、おう。分かった、麗子」


「よろしいよろしい」


 流れで強引に呼び捨てで呼ぶ仲になってしまった。

 まあ、あまり相手のことを知らない以上、木島さんほど呼び捨てで呼ぶ抵抗はないな。

 そうして1年1組と交友を深めているなか、新たな人影が俺たちに近づく。


「――あ、どもー」


 明らかに俺たちに向けられた言葉。

 声のした方向を振り返れば、そこには新たに2つの人影。


「おーよろしくー。君たちは1年3組の人たちかなー?」


「はい。1年3組の宮野ありあです」


「うんうん、なるほどー」


「俺は田貝忍だ。よろしく」


「私は西城麗子、今日1日よろしくー」


「え、ああ。よろしく」


 グイグイ責める麗子に気圧された様子の宮野さん。

 麗子は視線を宮野さんから外し、もう1人の方へと向ける。


「君はー?」


「あ、僕は生田慎吾で......あ」


 もう片方が自己紹介してる途中、俺と目が合った。

 目が合った瞬間、再び感じる既視感。

 しかしその既視感の理由はすぐに俺の脳内で処理されて――、


「......確か前、鬼塚とかいう人に追い回されてた人か?」


「はは、奇遇ですね。そうです。あのときの僕です」


 約1ヶ月前、沙結理が大東に襲われたあの日。

 俺は沙結理を助けにいく道中、ちょっとしたトラブルに直面した。

 1年3組の鬼塚という厳つい容姿をした男子に、1人の男子が追いかけられていた。

 その男子は結局、いやほぼ俺のせいで捕まってしまったが......。

 ともかく、あのとき涙目で俺に助けを願った男子と偶然の再開を果たしたのだ。


「あのときはごめんな。なんか邪魔したみたいで」


「いえ、まったく気にしていませんよ。どうせ逃げられたところで、ですから」


「......複雑な事情があるんだな。1年3組は」


「そうですね。本当に嫌気が差しますよ。いっそのこと自殺してやろうかな」


 すごく冷めた様子の生田。

 自殺というワードに触れるべきか否か、俺は話を切り上げるため聞こえなかったことにする。

 それと生田の様子を見るに、所々、体に絆創膏やアザなど見受けられる。

 本当に1年3組で何をされているのだろうか。


「あれれー。もしかして優斗くんと生田くんって知り合い?」


 会話をしている俺たちに疑問を抱いたのだろう。

 麗子が首を傾げている。


「少し前に彼と......黒羽くんと話す機会があったんです。それで......まあちょっと」


 歯切れの悪い生田。

 西城も空気を読んでか、これ以上は何も追及しなかった。


「それで優斗くん、優斗くんのクラスのもう一人は?」


「あ、そういえば」


 グループ18である俺らは山根以外揃っている。

 一体山根はどこにいるんだ。

 まだ遠足すら始まっていないのにいきなり問題事は勘弁してくれよ。


「あいつ、どこにい――」


「最初からずっといるんだよ。この地味男が」


「どわっ!?」


 唐突に聞こえる聞き覚えのある声。

 反射的に後ろを振り向けば、腕を組んでこちらにそっぽ向ける山根の姿があった。

 

「なんだお前......いるならいるって言えよ」


「あ? 舐めた口聞いてんじゃねーよ地味男のくせして」


「......まだ怒ってんのかよ」


 いきなり険悪な雰囲気からスタートしてしまった。

 グループのみんなも俺と山根に注目している。

 この雰囲気に割り込んできたのは、愛想の良い笑顔を浮かべる麗子だ。


「君が1年2組のもう一人だね。自己紹介してもらっていい?」


「――」


「あれ、おーい? 私の声聞こえてる?」


「――」


 麗子の言葉にまさかのガン無視を決め込む山根。

 俺は慌てて山根の肩を小突く。


「っ、なんだよ」

 

「なんだよじゃねーよ。自己紹介くらいしろ」


「黙れ地味男。なんでお前なんかに指示されなきゃなんねーんだ」


 いちいち機嫌の悪そうな素振りを見せる山根。

 山根は「あー」と唸りながら頭をポリポリと掻く。


「......山根だ。山根」


「あー山根くんね! 私は西城麗子。今日1日よろしくね!」


「田貝忍だ。遠慮なく俺のことは呼び捨てにしてもらって構わない。俺もお前のことを信時と呼ぶ」


「......」


 よろしくの一言くらい言えよ山根......。

 あっちもなんか気まずそうにしてるぞ。

 

「――みなさん、それぞれのグループでまとまることはできたでしょうか。今から1グループに1枚ずつスタンプラリー用紙を配布します」


 それぞれがグループでまとまりだした頃、再び梶前先生の声が響く。

 少しして俺らのグループにもスタンプラリー用紙が届けられた。


「さて、一通りの準備は整いましたでしょうか」


 梶前先生はグループでまとまる1年生を見渡し、シワのある顔で微笑む。

 

「この遠足の目的は他クラスとの仲を深めるという部分が大きくあります。一致団結をし、友との交友を深めながら良い思い出を作ってきてください」


 なんか良いことを仰っているが、この遠足は退学がかかってるんだぞ。

 良い思い出が作れるかどうか怪しいところだ。


「今から制限時間は3時間です。それまでにスタンプを集め、ヒヤマ平原に到着してください」


 まあ3時間とはいうが、1時間オーバーまでなら到着ボーナスポイント0で許される。

 さてさて、運命の分かれ道がやってきたようだ。


「――それでは、遠足を開始します!!」


 梶前先生のトーンの上がった声が響き、高らかに遠足は開催は宣言された。

 周囲のグループがぞろぞろと玄関から外へと歩き出す。

 俺もグループと目を合わせた。


「私たちも出発しよう!」


「ああ」


 麗子に頷き、俺ら6人はそれぞれの荷物を持って外へと歩き出す。

 どこに行くべきなのか、どこに星形スタンプはあるのか、それは神と先生のみぞ知ること。

 幸運が俺たちのグループに向くことを期待する。


 ――今日、20個あるうちの1つのグループが全員退学となる。

 

 絶対に負けられない戦いが始まっていた。

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