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◆第22話◆ 『波乱の予感』


「――そのグループの6人全員、退学となります」


 そう、一切声のトーンを変えずに言い切った山下先生。

 この発言の物騒さに誰もが耳を疑った。

 クラスはどんどんと騒がしくなり、さっきまで楽観的だった雰囲気が一気に凍りつく。


「ちょっと待ってください、山下先生。仰っていることの意味が分かりません。校則に違反して退学、というのなら分かりますけど、遠足というレクリエーションのようなもので退学という措置が取られることは、いくらなんでもおかしいと思います」


「沙結理の言う通りですよ先生! 退学なんて意味分かりません」


 沙結理が手を挙げて山下先生に反論するので、俺も合わせて反論をする。 

 だが山下先生は俺たちの反論に対し、涼しい顔をしたままだ。


「そんなこと言われましても、このルールは学校と生徒会が決めたものです。私に文句を言ってもどうしようもありません」


 言い返された沙結理は険しい顔をする。


「......このルールだと、確実に退学者が1年生の各クラスから2名ずつ出ます。それを山下先生は容認するんですか?」


「はい。私たち教師は学校の指示に従うまでですので」


 山下先生は調子を崩さない。

 このルールで最も恐ろしい部分は、絶対に退学者が出てしまうことだ。

 ポイントで競いあえば、必ず最下位というものが生まれてしまう。

 しかもグループの構成は1年生の各クラスから2名ずつとなっているため、どのクラスも100%退学者が出てしまう。

 遠足なんて名前だけで楽しそうなイベントで、こんな理不尽なルールがありえていいのだろうか。


「では、この退学措置には一体どういう意味があるのですか? ポイント最下位だったから退学、というのはどう考えても納得ができません。何か理由があるのなら教えてください」


 確かにいくらなんでも理不尽な学校とはいえ、意味もなく退学にさせるとは考えにくい。

 俺は心の中で、良いとこを突いたなと沙結理を誉める。

 すると山下先生はわざとらしく考え込むような姿勢を見せて「うーん」と唸る。


「そうですね......理由はもちろんありますけど、今のみなさんに伝えるのはまだ早いでしょうかね。私はみなさんがこのルールの厳しさの理由に、みなさんから気づき出すのを期待します」


「......つまり、教える気はないということですか?」


「うーん、まぁそういうことになりますね」


 申し訳なさそうにする山下先生。

 だが、こんな理不尽なルールで、その理不尽さの説明がされないというのは無理がある。


「ッ! ふざけんなよ先生! そんな馬鹿げたルールで退学なんて俺たちを舐めてるだろ! しかも理由を話さないとか、俺たちを弄んで楽しんでんのか? あぁ!?」


 山根が机を蹴り飛ばし、顔を真っ赤にして叫ぶ。

 その表情は、さっきまでの浮かれたものとは大違いだ。

 口悪く叫ぶ山根だが山下先生は一切表情を崩さない。


「さっきも言いましたが山根信時くん。私に文句を言っても意味がありませんよ。何か言いたいことがあるなら生徒会室にでも行ってきてください」


「そんなの知ったこっちゃねーよ!! 遠足で退学とか普通ありえねーんだよ!!」


 叫び続ける山根。

 その様子を見た山下先生は山根から視線を外す。


「遠足についての説明は大体終わりました。覚えきれない部分もあると思うので、今回の遠足の概要については後ほどみなさんのスマホに送信しておきますね」


「ッ! 無視してんじゃねーよ!」


「あ、あとみなさん。おやつの持ち込みに関しましては、よほど変な物でない限り何でも持ってきていいですよ。バナナもおやつに入りますからね」


「おい先生!」


 叫ぶ山根を横目に山下先生は遠足の説明を終えていく。

 遠足といえばの『バナナはおやつに入るのか』という説明がされていたが、全く笑えない。

 教室の空気は最悪になっていた。


「ではこれで連絡を終わりますね」


 そう言い、山下先生は何食わぬ顔で教室から立ち去っていった。


「あのクソ教師ふざけやがってぇぇぇえ!」  


 教室から出ていった山下先生の背中を見送り、山根は地団駄を踏む。

 今回ばかりはさすがに山根と共感だ。

 クラスメイトはそれぞれのグループで集まりだし暗い雰囲気でぺちゃくちゃと喋り出す。


「はぁ......」


 隣で大きな溜め息をつく沙結理。

 その横顔はこれまでに見たことないレベルで暗かった。


「沙結理、大丈夫か?」


「今の私が大丈夫そうに見える? こんなの、本当に最悪よ......」


「......同感だ。ポイント最下位が退学とか、理不尽にも程があるよな」


「学力に関係ないもので退学なんて、狂ってるわ。本当ありえない」


「まあ元気出せよ。もう決定事項なんだから前向きに取り組も」


 そう言うと沙結理は俺を横目に見る。


「なんで黒羽くんはそんなに余裕そうなの? 退学がかかってるのよ。もっと普通は焦るでしょ」


「いや、外に出してないだけで内心めちゃくちゃ焦ってるぞ」


「ふーん信じがたいわね」


「なんでだよ」


 まあ正直なことを言えば、多少の焦りはあるものの、そこまでこのルールに対して嘆いているわけではない。

 何故なら、このような理不尽な事態が起きることは前から予期できていたからだ。

 4月の大東退学の件に関して、退学の原因は山下先生へのイタズラ1回のみ。

 たったそれだけの理由で、理不尽にも大東は退学させられた。

 こんなにも簡単に退学という措置が取られるのなら、いずれこういう事態に遭遇する筈だと思っていた。

 これも早くこの学校の生活に慣れていくための一歩だと考えよう。

 

「ま、ともかくこの学校の理不尽さに慣れなきゃだな」


「今日ので一生無理な気がしてきたわ」


「まあだんだんと慣れてくるだろ」


 無責任だがこれは本人次第だ。

 俺はガッツポーズで沙結理にエールを送る。


「......ともかく、遠足ではグループの足を引っ張らないように頑張るわ」


 そう、沙結理は覇気のない声で呟いた。

 沙結理は初対面の人がほとんどのグループで果たしてやっていけるのだろうか。



***



  1年生遠足について (5月27日 雨天決行)



 今回行われる遠足では、グループごとにポイントを集めて、最終的に手に入れたポイント数で競いあってもらいます。ポイントを稼ぐ方法は、X高校の敷地内(町全体)に設置されているスタンプを見つけてポイントを稼ぐ方法と、目的地であるヒヤマ平原に到着した順位での獲得の2つのみです。雨天決行ですので、しっかりと準備を整えてください。



 ◆ルート  X高校からヒヤマ平原まで


 ◆制限時間 3時間 



 ◆持ち物


 ・スマホ ・弁当 ・水筒 ・おやつ(任意)  ・スタンプラリー用紙(当日配布)


 ・ゴミ袋 ・タオル



 ◆グループ構成 


 1年生の各クラスから2名ずつの6人グループで活動

 グループはくじ引きで決定。グループは当日発表


 

 ◆スタンプラリーポイント 


 ・丸型 10ポイント


 ・ハート型 30ポイント


 ・星形 50ポイント


 

 ◆到着順位ボーナスポイント  


 ・1位 150ポイント


 ・2位 100ポイント


 ・3位 50ポイント


 ・11位以下 20ポイント


 ・タイムオーバー -50ポイント



 ◆ポイント結果 


 ・ポイント数1位のグループは現金10万円の報酬


 ・ポイント数最下位のグループはそのグループ全員退学とする



 ◆ペナルティ対象行為 


 ・制限時間を1時間オーバーした場合、そのグループのポイントは0とする


 ・目的地到着後、目的地以外の場所に行った場合、そのグループのポイントを-50とする


 ・ゴミを放置した場合、放置したゴミの数×-10のポイントを没収とする


 ・他のグループと協力したり、所属するグループと別行動をした場合、そのグループや生徒は退学とする


 ・設置されているスタンプを破壊や細工などをした場合、それを行った生徒は退学とする



 基本的に小道具やおやつなどの持ち込みは自由となっています。熱中症などに気をつけて、遠足を楽しみましょう。


 

 

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