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◆第18話◆ 『思わぬ足止め』


 ――放課後、俺は颯爽と教室を出ていく沙結理に、嫌な胸騒ぎを感じていた。


 本当なら沙結理が大東よりも早く帰れば悩む必要はなかったのだが、大東が午後の授業に参加せずに学校から姿を消していたのは予想外だ。

 その大東の行動が何を考えてのものなのか。

 思考はなぜか、不吉なものへと行き着いてしまう。


「――尾行するか」


 このもやもやを払うにはこれが一番だろうか。

 沙結理に一緒に帰ろうなんて言うのは気持ち悪がられるだけなので、気づかれずに沙結理のあとをつけるのが一番だろう。

 尾行がバレた場合の方が気持ち悪がられそうではあるが。

 思い立ったが吉日。俺は荷物をまとめ、机から立ち上がった。


「......騒がしいな」


 教室の扉に手を伸ばそうとしたとき、何やら別のクラスの方から怒鳴り声のようなものが聞こえる。

 声の聞こえる方向は1年3組だろうか。

 そんなことを考えながら扉を開き、廊下に出た瞬間だ。


「どわっ!?」


「うわっ!?」


 俺は廊下を走っていた1人の男子生徒と衝突し、どっちも廊下に尻餅をつく。

 俺はしかめっ面になるも、すぐに立ち上がった。

 同じくぶつかってきた生徒も立ち上がる。


「おい、廊下は走っちゃダメなことくらい小学生でも分かるぞ」


 俺は若干声に怒気を孕ませながら、注意をする。

 しかし、一方の男子生徒はどこか様子がおかしかった。


「ご、ごめん! でもちょっと今僕急いでるから!」


 そう言ってその生徒は俺の横をまた走り去ろうとする。

 俺は咄嗟にそいつの肩を掴んで引き止めた。


「ちょ、何!?」


「いや何じゃなくて。なんでまた廊下走るんだよ。また事故るぞ」


 俺は呆れながら説明をする。

 だが、この男子生徒は俺の注意に耳を傾けず、強引に俺からは離れようとしてきた。

 こうなれば俺もむきになってしまう。


「離して!」


「離したらお前また走るだろ! なんで歩かねーんだよ」

 

「そ、それは......!」


 俺が理由を求めると、この男子生徒に新たな動揺が生まれた。

 しかもこの男子生徒はさっきからずっと体を震わせている。

 よく観察してみると、顔に青アザがあるのも見えた。


「お前......まさかイジメられて」


 そう言おうとした瞬間に、新たな足音が廊下に響く。


「――生田ァ、逃げるなんて良い度胸してんじゃねーかよ」


「ひっ!?」


 不意に響くドスの聞いた声。

 その声と共に目の前の男子生徒は悲鳴のようなものを溢す。


「まだ特訓は終わってねーぞ。早く教室に戻りやがれ」


 後ろを振り返れば、そこには『巨体』があった。

 2メートル近くはあろう身長と、金髪に染まったザンバラ髪。

 極めつけは、ヤクザが着けてそうな黒いサングラスだ。

 いかにもな不良オーラがそいつからは漂っていた。


「お、鬼塚さん。今日は僕、ちょっと用事があって......」


「あァ? なんか言いやがったか?」


「ひっ! ......いえ、なんでもありません」


「生田ァ。今日は逃げたペナルティとして、お前だけ特訓時間増加だ。徹夜を覚悟しとけ」


「はぁ!? いや鬼塚さん、そんなの僕死んでしまいます! 土下座するので、どうか許してくだ――」


 鬼塚と呼ばれる『巨体』の瞳がサングラス越しに残酷に光った。

 その瞬間、鬼塚は地を蹴り、俺の真横の男子生徒――生田に迫る。


「いや! ひっ、ごめんなさい!」


 生田は片手で胸ぐらを掴まれ、鬼塚に持ち上げられる。

 冷徹な視線が生田に突き刺さった。


「次舐めた口聞いたら本当に殺すぞ? 生田ァ」


 殺意の混じった声が生田の鼓膜を震わせ、鬼塚は生田から手を離す。

 ドサッという音がして、脱力した生田が廊下に崩れた。

 その顔には絶望の色が広がっている。


「やだ......やだ......」


 呪文を唱えるように恐怖を連呼する生田。

 鬼塚はそんな生田から視線を外し、俺へと向く。

 目と目が合い、あまりの威圧感に俺は生唾を飲み込んだ。


「おめぇはどこの組の奴だ」


「2組の黒羽優斗です」


「ほぅ」


 気圧された俺は無意識に敬語を使ってしまった。


「あの......なんでしょう」


 鬼塚は顎を擦りながら俺のことをじろじろと眺めてくる。

 その堂々とした行動に俺は不気味なものを感じるが、鬼塚の視線が逃げることを許さない。


「おめぇ、良い体格してやがんな」


「は、はあ」


「俺のクラスにおめぇがいなかったことが残念だぜ」


 突然俺の体を誉め出した鬼塚。

 俺は意味が分からず、適当に相づちを打った。

 

「あの......俺急ぎの用事があるんでもう帰っても?」


「あァ、生田を捕まえてくれて助かったぜ。それじゃあな」


 恐る恐る俺は聞くと、鬼塚は短く返事して俺からは視線を外した。

 ようやく会話が終了したことに俺は安堵し、ホッと一息。

 俺は鬼塚に背を向け、帰ろうとする。

 しかし俺が背を向け歩き出した瞬間、後ろから制服を掴まれた。


「き、君! 助けて! 助けてよ! このままじゃ僕鬼塚さんに殺されちゃう!!」

 

「え、は!?」


 突如、泣きつくように俺に助けを乞う生田。

 俺は急な生田の行動にどうすればいいか分からず、反射的に突き放してしまった。

 短い悲鳴と共に、生田は鬼塚の目の前に尻餅をつく。


「――おい生田ァ、おめぇどんだけ醜態晒して俺に恥をかかせる気なんだ? あァ?」


「ご、ごめんなさい鬼塚さん! 今のはその......あの......」


「言い訳すんじゃねぇよキメェなァ、おい!」


「おぶっ!?」


 瞬間、鬼塚の蹴りが生田の腹を直撃した。

 生田は顔を真っ青にして、廊下におもいっきり吐いた。

 しかし鬼塚はそんな生田を気遣うことなく生田の髪の毛を掴み、片手だけで生田を持ち上げる。


「おい生田ァ、おめぇは俺のクラスの中で一番の出来損ないなんだよ。おめぇにその自覚はあんのかァ? あァ?」


「ひ、ひ、すみません。すみません! すみません!」


「謝んのは幼稚園児でもできんだよ。結果を見せろよ、結果を」


 そう言い、鬼塚は生田を引きずり始める。

 強制的にクラスに帰させるつもりなのだろうか。


「ちょっと待ってくれ」


 俺は我慢ならず、無視するべきところで鬼塚を呼び止めてしまう。

 鬼塚は顔だけ俺に向けた。


「アンタはそいつに何する気なんだ?」


 俺は疑問をぶつける。

 その疑問に鬼塚はニヤリと笑い――、


「さあな。――いつかこの学校を支配するための下準備、とかかもなァ」


 鬼塚は明確な答えを言うことはなく、生田を連れて自身のクラス――1年3組へと消えていった。


「......って、俺はこんなことしてる場合じゃないだろ!」


 焦った俺は咄嗟にスマホを取りだし、迷惑とか一切気にせずに沙結理に初めてチャットを送る。

 学校から出た瞬間、大東に襲われたりしてないだろうか。

 俺はそわそわしながらチャット画面を見ていると、思いの外早く既読がつく。


『大丈夫』


 沙結理から送られてきた簡単なメッセージ。

 その3文字に俺は深く安堵した。

 

「はぁ......心配は杞憂だったかな。まあまだ帰宅はしてないだろうし、安心はできないか」


 俺は沙結理にメッセージをもうひとつ送り、足早に玄関まで向かい外へ出た。

 ここでふと俺は思う。


「あ、尾行なんてしなくてもチャット送ればいいか」


 これなら気持ち悪がられることはおそらくないだろう。

 こんな簡単な方法があったとは......尾行なんて考えてたの恥ずかしいな。



***



『寮に着いた?』


 少々時間が経ったあと、俺はもう一度沙結理にチャットを送る。

 無論、束縛趣味なんてないが、これは大東の悪事から沙結理を守るために必要なことだ。

 俺はチャット画面とジーっとにらめっこするが、既読の表示はなかなかつかない。


「......既読付かないくらいで心配しすぎか」


 まあ、沙結理はスマホをいちいち確認するようなタイプじゃなさそうだしな。

 なんで俺はここまで心配してんだか。

 俺は仕方なしとスマホを仕舞う。


「まだ寒いな」


 俺はそんな独り言を呟き、寮への帰路へと足を進めた。

 まだまだ寒い日は続きそうだ。


 そんなことを思いながら数分帰路を歩く。

 時々チャットを確認するも、既読表示は付かない。

 ......まあ、大丈夫だろう。


「......ん? なんだアレ」


 俺の住む寮へともうすぐ到着といったところで、俺はふと妙な物を見つける。

 それは俺の寮の横にある500番台の寮へと繋がる道にあった。

 俺は興味の惹かれるまま、帰路を外れて見つけた物の正体を確かめる。


「木の棒......? ここら辺に木なんてないのにどういうことだ?」


 そこに落ちてたのは縦長の木の棒。

 ここら辺に木なんて生えてないのに、どこから転がってきたのだ。

 そしてこの木の棒、けっこう頑丈なようで多少力を込めただけでは折れなかった。

 なかなかに凶器になりそうな棒だ。

 

「おっと」


 なんとなく木の棒をぶんぶんとしてると、手が滑って落としてしまう。

 俺は拾おうとして地面にしゃがんだ。

 地面に顔が近づき、道のコンクリートの様子がよく見える。


「......あ?」


 木の棒を拾おうとしたとき、同時に地面に赤茶色の染みのようなものを見つける。

 血痕のようにもみえるが、今俺の目に映っているものはそれだけではない。

 輝く何かが染みの横に落ちているのだ。

 俺は『それ』を拾い上げ、目を見張った。


「これって......?」


 雪のように綺麗な一本の髪の毛は、血痕と共に落ちていた。

 

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