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◆第14話◆ 『波乱のテスト返し』


 「――はい、それでは回収します」


 実力テスト当日。

 俺は国語と数学、英語の三教科のテストを難なくこなし、安堵の溜め息をついた。

 中学校の範囲とはいえ、応用問題がとても多く、かなりの難易度だったと思う。

 日頃から沢山勉強しておいて良かった。


「んで、沙結理。手応えのほうはどうだ?」


「ぼちぼちといったところね。でも負ける気はしないわ」


 どうやら沙結理の方も手応えがあったらしい。

 これは結果が楽しみだな。

 

「それは良かった。もし沙結理が負けた場合の罰ゲームだけど、忘れんなよ」


「......分かってるわよ、気持ち悪い」


 いや、気持ち悪いて酷い! 確かに気持ち悪いけど!

 ちなみにだが、沙結理が勝った場合の俺に対する罰ゲームについても話したが、絶対に負けない自信があるらしいので別に大丈夫と言われた。

 これで沙結理が負けてたら、なんか気まずいな。


「なんで私なんかと......」


 と、小さく呟いた沙結理の声は、俺の耳には届かなかった。


***



 ――翌日。


「はい、それではテストを返します。今回の平均点は国語が21点、数学18点、英語20点でした。X高校で定められている赤点ラインは30ですので、あともう少しでしたね」


 いやいや、あともう少しでしたねじゃねーよ山下先生。

 平均点21て、50点満点のテストでも低いほうなのに、100点満点のテストでこれとか......

 もうなんか笑えてくるな。


「――大東光くん、山下信時くん、清瀬愛さん」


 そうしてテストが生徒の元へと返却されていく。

 大東に関しては、テストを受け取った瞬間、ティッシュのように丸めてゴミ箱に放り投げていた。

 見直しぐらいし......いや、俺には関係のない話しか。


「黒羽優斗くん」


「はい」


 山下先生から三枚のテスト用紙を受けとる。

 俺は受け取った瞬間、即座に点数を確認した。


 国語92点、数学100点、英語85点。


 うーん、まあ今回は難しいテストだったし、良い方ではあるか。


「どうだったの? テスト」


 俺が席に着くと、隣の沙結理が話しかけてくる。

 さあさあ、勝負の時だ。


「まあ悪くはないな。予想通りって感じだ」


「そう。じゃあ黒羽くんから見せて」


 いいだろう。

 俺は手札を見せつけるように、沙結理の目に見える位置にテストを広げた。

 しばらくの沈黙が流れる。


「......アンタ、頭良かったのね」


 沙結理が悔しそうな声を漏らす。

 一つ「はあ」と沙結理は溜め息をつくと、沙結理も俺にテストを見せてきた。


 点数は、国語88、数学92、英語79。


「よっしゃ俺の勝ち」


「はぁ......」


「まあ今回のテストは難しかったし仕方ないだろ」


「それ煽ってるわけ? ......まあ、いいわ。テストで70点台取るなんて初めて。がっかりだわ」


 本当に残念そうに顔を俯かせる沙結理。

 それでも、このレベルの難易度でこれほどの高得点を出してきた沙結理もかなり頭が良いほうだと思う。

 おそらく、クラス2位だろう。


「それで、約束の罰ゲームの件だが――」


「アンタの昼食に付き合えばいいんでしょ、分かっているわ」


「なら問題なし、無理言って悪いな」


「この勝負に乗って、負けたのは私。アンタが謝る必要はないわ」


 ということで今日は沙結理と昼食だ。

 会話が弾むよう、努力したいところだな。

 と、沙結理と話していたところ、ふと山下先生の方へ視線を向ければ、何やら黒板に紙を磁石でくっつけている。


「......山下先生、なにしてんだ」


 それぞれのテストの結果で騒がしくなっている中、山下先生は何を張っているのか。

 山下先生が磁石を付け終えると、その正体があらわになる。


「テストの結果、か。恥ずいな」


 それはテストの合計点の順位であった。

 名前と共に張り出されたそれは、この一年生全体の順位らしい。

 俺の名前は上から二番目、沙結理の名前は上から六番目に位置していた。


「――皆さん、今から大事な話をしようと思いますので、着席してください」


 すると、珍しく山下先生が生徒に着席を促す。

 いつもならクラスの雰囲気なんて無視する山下先生なのに、おかしなことをするもんだ。

 クラス全員とまではいかないものの、ある程度は静かになる。


「歩美先生ちゃん、急に改まってどしたのー」


 一人の生徒が茶化すように山下先生の名前を呼び、周囲の生徒がケラケラと笑う。

 山下先生は、ずっと笑顔のまま表情を変えず、こう俺たちに伝えた。



「それでは、今回退学することになったクラスメイトについて話そうと思います」



 そう、山下先生が告げた瞬間、クラスの空気が凍りついた。

 一瞬の沈黙のあと、木島が席を立つ。


「いや、退学っていきなりなんの話ですか山下せんせー。アタシそんな話聞いてないんですけど。というか、テストで退学決まるとか普通ありえないでしょ」


「そうですね、木島咲さん。私はそんなこと一度も言っていませんよ。それが何か?」


「いや......は?」


 山下先生の開き直りとも取れる対応に、木島が理解できないといった様子で肩をすくめる。

 無論、俺も沙結理もこんな話、一切耳にしていない。

 俺はいきなり意味が分からないと沙結理の方を見る。


「なあ、沙結理。山下先生はアレ、本気で言っているのか?」


「......急に切り出してきたわね。分からないけど、本当に退学者を出す気なのかも」


「は? そんな理不尽なことが......」


 今、自然と俺の口から漏れた言葉に俺は硬直する。

 ――『理不尽』。

 それは、この学校に来る前から何度も聞かされた単語だ。

 なら、本当にこの学校がそこまで理不尽と言うのなら、山下先生は本当に退学者を出す気なのか。


「いや、まさか」


 思考が自然と現実逃避をするが、何故か頭に山下先生の不気味な笑顔が浮かぶ。

 山下先生は、ざわざわとするクラスを見下ろしながらにこやかに微笑んだ。


「いきなりの話で皆さん驚いていると思います。でも、決定してしまった以上、私にはその決定を伝える義務がありますからね」


 クラスに緊張が走る。

 いきなりこの先生は何を喋りだしているのだと。


「ちなみにですが、今回退学が決まった生徒は、テストの結果が悪かったというわけで決められたわけじゃないのでご安心ください」


 それのどこに安心する要素があるのか。

 てっきりテストの順位のこのかと思っていたクラスメイトたちがよりいっそうざわめきだす。


「それでは発表しますね。今回、このクラスから退学が決まったのは」


 時間止まったかのように、教室が静かになる。

 それでも山下先生は不気味な笑顔を絶やさない。

 一秒、いや二秒経ったか。

 少しの沈黙のあと、山下先生の口が動く。



「――――――大東光くんです。ごめんなさいね」


 山下先生の申し訳なさそうな笑みと共に、見知った退学者の名前が言い渡された。


 


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