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◆第11話◆ 『立ち向かった理由』


 俺と沙結理は保健室に連れていかれ、簡単な処置を受けた。

 沙結理は顔に袋で包んだ氷を押しつけ冷やしていたが、やはり見ていて痛々しい。

 すぐに治るといいんだが。


「ふー、一段落一段落。それで、先生も言ってたし、二人とも今日はもう寮に戻りな。特に......えーと、沙結理ちゃんだっけ」


「......そうだけど」


「おっけーおっけー、サユリンね。特にサユリンは今日はもう教室に戻っても居心地が悪いだけでしょ。サユリンは大人しそうなタイプ......いや、案外そうでもなかったり? まあともかく今日は戻っても変な目でみられちゃうからねー」


「サユ......確かにそうね。じゃあそうさせてもらう」


 ふと疑問だが、木島の言い方的に俺は教室に戻っても変な目で見られないのか。

 心なしか俺への扱いが沙結理より良くない気がするな......。


「――んで、君の名前は何ー?」


「あ、俺? 俺は黒羽優斗だが」


 木島の視線が俺に向けられる。

 俺の手短な自己紹介に木島は「ふーん」と何か考え込む仕草を見せる。


「なんか中二病っぽい名前だね」


「そうか? そんなこと言われたの初めてだ」


「黒羽ってとこなんか、ちょっとカッコ良きじゃない? ほら、ダークネスウィングみたいな?」


「ダークネスウィング......」


 なんだその中二心をくすぐるような名前は。

 心なしか気持ちが少し昂る自分がいるのが恥ずかしい。


「てことで君のアダ名はダークネスウィングくんかなー」


「マジでやめてくれ。呼ばれる度に恥ずか死させる気か」


「あははっ。ウケる」


「ウケない」


 冗談抜きでそんなアダ名が流行ってしまったら俺は恥ずかしさで学校来れなくなってしまうぞ。

 というか沙結理のときもそうだけど、いきなりアダ名を付ける必要があるのか。


「ダークネスウィングくんがダメなら何がいいかなー」


 可愛らしく考え込む木島。

 数秒の唸り声が出していた後、ハッとした顔つきへと変わる。


「ユウくん。なんてどー?」


「......別に構わないけど、ちょっと馴れ馴れしすぎないか?」


「おっけーユウくんね。これから3年間よろしくユウくん、サユリン」


「お、おう」

 

 この木島とかいうギャルはコミュ力の固まりか。

 こうして会話が一段落つくと、木島は「よいしょ」と椅子から立ち上がる。

 木島の耳やら服やらに付いてる装飾品がシャラシャラと音を立てた。


「んじゃ、アタシ教室に戻るわ」


「......ありがとう、木島さん」


「いやいや、むしろお礼を言いたいのはアタシの方だよ。サユリンのおかげで、多分これからしばらくは大東、みんなから非難されると思うしー? アイツ調子乗ると何やらかすか分からんから、少しホッとしたよねー」


 それは確かにだ。

 見た感じ、大東が沙結理を殴った瞬間、教室の空気は一瞬で凍てついた。

 クラスの女子たちはまるでゴミを見るかのような目で大東を見てたからな。


「バイバーイ」


 そういって木島は保健室から出ていってしまった。

 自然と、保健室は俺と沙結理の二人きりになる。


「――ねぇ、黒羽くん」


「おっ!? な、何でしょう?」


「......何、その反応」


「いや、急に名前呼ばれて驚いたというか......まあ、男の子の自然現象というやつです」


「よく分からないけど、これからアンタとは長い付き合いになりそうだし、分かりやすく名前で呼びあっていた方がいいでしょ? ......まあ、アンタはちょっと馴れ馴れしすぎるけど」


 なるほど、意志疎通の効率化ってやつか。

 なんか一つ沙結理との関係が深くなった気がして嬉しいな。

 ......て、そうじゃないだろ。


「あの、沙結理。お前から先になんか話そうとしてたけど、やっぱり俺から話していいか?」


「――? 別にいいけど」


 不思議そうに首を傾げる沙結理。

 俺は人として言わなくちゃいけないことがある、これは当たり前のこと。


「今回の件、本当に巻き込んで申し訳なかった」


 俺は腰を曲げて、沙結理に対して誠心誠意、謝罪をする。

 元はといえば、この騒動は俺が沙結理と食堂で相席をしたり、大東の前で失言したりしたことによって引き起こされたものだ。 

 沙結理は俺のミスのせいで、完全に巻き込まれた形になってしまった。

 しかも被害は俺よりも大きい。

 心の底から、申し訳ないと思う。


「ああ、そういうこと。確かにちょっと思うところもあるけど、そこまで気にはしていないから大丈夫」


「え、気にしてないって......俺はてっきり嫌われたって思ってたんだが......」


 思いの外、沙結理の反応は良い意味で薄かった。

 嫌味の一つや二つは受け入れる覚悟はしてたつもりだったんだが。


「今回の件は私にとって好都合だったの。大東、あの男はこのクラスで一番の厄介者に見えたから、さっさと潰す方法をずっと考えてたから。思わぬ形で解決の糸口が見つかったわ」


「潰す......」


「まあ、確かに文字通り痛い思いはすることになったけど、その分の見返りは大きい筈よ。当分、あの男は目立った行動はできなくなったと思う」


「ほー......だから大東に立ち向かったのか。頭良いな」


「それほどだけど」


 殴られるのを前提で大東に立ち向かったのか。

 可愛い顔して、とんでもないことを考える女子だな。


 沙結理が俺に対してあんまり怒っていなかったのは良かったが、でもなんかモヤモヤするな。

 沙結理のあの身を呈した行動は、大東を陥れるためだったのであり、俺のためではないのだからな。

 まあ男が女に助けられるなんて、とてもカッコ悪いことだが......。

 なんかちょっと悲しい。


「それで、言いたいことはそれだけ? 黒羽くん」


「え? あ、おう。それだけだけど......やっぱりその呼び方慣れないな」


 と、小声でそう付け加えておく。


「じゃあ私がさっき言おうとしていたことだけど、言わせてもらうわ。――連絡先を交換しましょ」


「え、マジで? どしたの!?」


「どしたのって、何が?」


「だって昨日、俺が連絡先交換しようって言った時、即答で断ってただろ」


 まさかの沙結理からの提案に俺も目を見張る。

 俺が意外に思う理由を率直に話すと、沙結理はどこか気まずそうに目を泳がせた。


「あれは......ちょっと、変なプライドが邪魔しただけ。黒羽くんはこのクラスの男子の中でまだマシに見えたから、一応交換しようと思い直したのよ」


「......なるほど。正直だな」


「いいから早く連絡先教えて」


 というわけで、俺は思わぬ形で第一の連絡先(女子)を手に入れた。

 連絡先に表示される『沙結理』の文字。

 うん、シンプルに嬉しいな。


「それじゃ、今日はもう帰るわ」


「ちょっと待て、沙結理」


 もう用はないと、沙結理が保健室から出ていこうとするのを俺は引き留める。

 沙結理が顔だけ向けて、こちらを振り返る。


「今日のこと、先生に訴えないのか?」


 一応、ダメ元で聞いてみた。

 そして、やはりというべきか沙結理の答えは予想通りのものであり――、



「そんなことしても、この学校が真面目に相手にしてくれるわけないでしょ。生徒同士の問題は生徒同士で解決しなきゃ、この学校では生きていけないわ」

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