プロローグ
―――腐っている。
今、自分が置かれている状況に体が拒絶反応を起こしている。
普段なら素早く回転する頭も、今はまったく機能しない。いや、俺が機能させようと試みないからだ。
この腐った空間に俺は必要ない。必要であるべきではない。
なのに何故、俺はここにいるのだろうか。
「おい、そこの地味男。ちょっとタバコ買ってこいよ。暇してんだろ?」
頭の悪い声が聞こえる。そしてその声が俺に向けられているのだと悟ると、俺の気分はどん底を突き破る。
せめてもの救いはないのか。そう藁にもすがる気持ちで別の方角に視線を向ける。
しかし、そんな淡い期待は予想通りというべきかあっさりと裏切られた。
「―――」
今この空間に存在する唯一の大人、先生。
この場で誰よりも支配力のあるはずの存在が、このしっちゃかめっちゃかの状況を一切咎めることなく、まるで命令されたことだけを実行するロボットのように授業を進めている。
無論、この授業をまともに聞いている者など俺を含めて誰もいない。
「―――はぁ? お前マジかよ。焼酎飲んだってやべぇな。レベル高すぎだろ」
意味が分からない。なんだこの低脳の集まりは。
「―――ねぇねぇ、今度デパートであたしに似合いそうなネックレス探そうと思うんだけどー」
「マジー? 私も行く行くー!」
こいつらと猿を比べても、まだ猿の方が俺にとってマシだろう。
完全に常識の崩壊した頭のおかしい奴ら。
それに紛れる俺。
「おい地味男。なに生意気に無視しやがってんだぁ? あぁ?」
凄まじい衝撃が俺の頬を弾く。
普段から体は鍛えていたので、俺の体は吹き飛ぶことなくその場にとどまった。
俺を殴ったやつも予想外だったのか一瞬目を丸くする。瞬間、俺の拳がそいつの顔面に直撃していた。
そいつは鼻血を撒き散らしながら大きく後ろに吹き飛び、近くの机を巻き込んで床に激突する。
「きゃああああああ―――!?」
響く女子の悲鳴。
しかし俺はまったく動じない。
吹っ飛んでいた奴を一瞥すると、俺は大きくドンと机を一度叩き、全員の注目を集めた。
先生以外のすべての視線が俺に集まる。
「―――お前ら、よく聞け」
一度呼吸を整え、俺ははっきりとこう言い切った。
「俺が今日、今この瞬間からこのクラスのリーダーだ」
理不尽に定められた運命に抗うために、俺はこの腐った生活で生き抜くことを決意する。