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26話.《昏倒》と《パラライズ》の害悪コンボ気持ちよすぎたろ!

空いていた窓から侵入。


「なんとか忍び込めたな。これも全て坊主のおかげだ」


「ほんと凄いわね」


「お二人とも褒めすぎですって」


「俺たちなんもしてないぜ、これ坊主一人で事足りるんじゃねえか」


「ええ、そうよね。返ってアタシたちが行動の邪魔になっちゃいそうな」


「いえいえそんな事ないですって!! 居てくださるだけで安心しますし心強いです。一人じゃ怖くて足がすくんでしまいまいそうです」


こんな経験生まれてこの方ないし。

《クリエイティブモード》というチートスキルがあるから、さっきのも成せた訳だ。


「ともかく皆さん、ここからは各々武器を手に持って進みましょう」


僕も《昏倒》を直ぐに発動出来るように《マクロ》というスキルを使って自動で指定した複数人に昏倒を瞬時に使えるように準備しておいた。


ドアをゆっくりと少しだけ開けて隙間から廊下を覗いてみる。


一番奥の部屋だったのか右しか廊下はなく、左は壁だ。

煌々と明かりがついており、笑い声も微かに聞こえてきた。


廊下に見張りは居なさそう。

足音を立てないように静かに歩いて、明かりの方向へ向かう。


大きな広間に出た。

壁からちらりと覗いてみると。


ーーー居た!


手足を縛られ、壁に(はりつけ)にされているヒナの姿を確認する。


綺麗にくしでとかれていた髪はボサボサになっている。

顔もなんだかやつれてて、しんどそうな顔。

だけど、目には希望の光が宿っていた。


何かを確信しているような、そんな感じの力強い目。


広間には複数人の男達と一際でかいイスに座り、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべている、ぶくぶくと太ったおっさん、五人の女性、そしてヒナ。


ひーふーみー……うわっ、かなり居るな。

これだけの人数を一気に《昏倒》させれるかな。


まぁ、やるしかないんだけど。

幸いあちらはまだ僕たちの存在に気づいてないみたいだし。


《マクロ》で設定しておいた、それを起動する。

すると、


一回目の《昏倒》で五人が倒れた。


仲間が突然倒れふした事に奴隷商人のおっさんはびびり散らかしている。

そのすぐ近くに居た人たちは驚きながらも、倒れた仲間の身体をさすって「大丈夫か」と声をかけている。


だが、悪いね。

君たちも直ぐにそうなるよ、ほら。


二回目の《昏倒》でまた五人。


三回目の《昏倒》でまた五人。


これでヒナと同じく連れ去られたっぽい女性の人たちと、おっさん以外全員地に伏した。


突然の出来事に皆、戸惑っている様子。

けれども安心はしていない。あいつは倒れてないからね。


「な、なにが起きたのだーー!! おおい、お前ら、とっととおきんかあああ」


ここでやっと僕たちは姿を見せる。


「ヒナ助けに来たよ」


「ゆ、ユリア!? 助けに来てくれたの!? ど、どうしてここが分かったの!? 」


僕の顔を見るなり安心したのか生気を取り戻したヒナ。


「それはこちらの皆さんが」


場所を教えてくれて、協力もしてくれた。

そう言おうとして無駄にでかいわめき声にかき消された。


「誰だ貴様らあぁぁぁ!!! いつ入ってきたぁぁぁぁ」


「うーん、数分前? 」


「も、門番が居たはずなのにどうやって入ってきた!? まさかあいつらサボってたんじゃないだろうなっ!? 」


「え? 普通に魔法で倒して、窓が空いてた部屋から入ってきただけだけど? それと門番の人たちはきちんと仕事してたから、給料でもアップしてあげて」


「いや坊主、こいつはもう給料を払えるタチじゃあないだろ。坊主に瞬殺されて、騎士団の詰所に投げ込んで、懲罰食らうだろうよ。なんの罪もない嬢ちゃんを言わば誘拐して奴隷にしようとした、これは立派な犯罪だ。奴隷商人の規約にもしっかりと書いてあるはずだ。認定剥奪からのダンジョン奥地での魔石掘りの労働だな、へっ、ざまぁねぇぜ」


実に嬉しそうな笑顔で語り出すスキンヘッドさん。


「……お前は、許されないことをした」


「今までまっっったくと言っていいほどしっぽを見せなかったアナタが、ここまで大きなしっぽを見せてくれるとはね。……悔しいけどボクくんが居なかったら、圧倒的な人数差で、ここに乗り込んでいても負けてたかもしれない。けど残念だったわね、ボクくんの彼女を狙ったのが運の尽きなのよ~」


皆さんも壁から姿を現し、次々に言う。

その三人を見て口をあんぐりと広げ、さらに驚いている。


「貴様らまで居たのか!? ふざけるな…ふざけるなあぁぁぁ……!! こんなところでワシの生活を崩されてたまるかぁぁぁ。しねぇぇいぃ!! 」


椅子の傍らに立てかけられていた剣を持ち、振りかぶりながら走ってくる。

目は血走り、額には大量の脂汗。


《昏倒》を発動させようとして、ふと思いとどまる。

ヒナを連れ去り、みたところ好き勝手やってくれたみたいだ。


少しくらいお灸をすえても怒られないだろう。

ちょっとイラついてるし。


「《パラライズ》」


ずてん……!!

何も無いところで転げ落ち、情けない声を漏らす。

それと同時に手から剣がこぼれ落ちる。


「ぴぎゃぁぁっ」


「《重力魔法》」


ずぅぅぅぅぅんんん……!!


そこに重力魔法で頭上から押し潰す。

潰すとは言っても押し込むくらいの威力だ。それでも頭上、背中が強い力で押し込まれている感覚は気分が悪いはずだ。


「ぐへぇべらぁ」


有り得ないくらいの形相で僕を睨んできた。


「貴様ぁぁ……ワシにこんなことをしてタダで済むとは思うなよぉぉ? 」


なにこいつ、一切反省してないじゃないか。


「毒魔法で死ぬより辛い苦痛でも味わせてみようかな? 」


「やめとけ、坊主が手を汚す必要はねぇよ。それに安心してくれ、ダンジョンでの魔石労働は死んだ方がマシだと思う程の地獄だ。こいつは死ぬまでの間一生苦しむことになるからな! ハハッ良かったな! よっし、俺はちっくら騎士団呼んでくるわ」


スキンヘッドさんが呼んできてくれるらしいので、僕はヒナの拘束を解くべく近くに歩み寄る。


《カッター》で縄を切り落として手足を自由にさせる。

少し高い位置に磔にされていたためかは、分からない。


多分落ちるのが怖かったのだろう。


「ヒナさんや? そんなにガッチリ抱きつかなくても落ちないから大丈夫なんだよ? 」


「うるさいバカ……もう少しこれでいさせて欲しい……」


涙で頬を濡らして、それを見られたくなかったのか顔を伏せて僕の胸にうずめる。

過呼吸になっている息、嗚咽、心臓の鼓動が身体を直に伝わってくる。


怖かったんだろう。見知らぬおっさんに急にさらわれて、監禁されるだなんて怖いに決まってる。


そんな恐怖が僕の身体で少しでも休まるのなら、落ち着くまでの間ずっとこのままで居てあげよう、そう思ったのだった。


「助けて……くれて、ひぐっ……ありがとぅ……」


「友達なんだから助けるのは当然だよ」


「うぐっ……そっか、友達……か。えへへ、嬉しい……頭よかったら撫でて欲しい……な」


「こんな感じ? 頭撫でるなんてしたことないから上手くできてるか不安だけど」


「最高よ……あーしがいいって言うまで続けて……」


さすさすと撫でる。

さっきよりも一段と笑顔になったヒナを超至近距離で見つめながら、「辞めて」の合図が出るまでゆっくりと優しく、撫で続けた。





「お~い、騎士団呼んできたぜ、って、すまん。タイミング間違えたな」


「あっ!? い、いえ、大丈夫ですから!! 大丈夫ですからスキンヘッドさんも騎士団の皆さんもそっと帰ろうとしないでーーー!! 」


「うへっ!? ちょ、今の見られてたの!? は…恥ずかしいんですけど!?!? 」



「辞めろ」の合図はスキンヘッドさんたちが到着するまでの間発せられることはなかったため……こうなったのであった。



正直めっちゃ恥ずかしかった。

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