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ある女の子の家の中の一室。
マンションの一室のなかで。窓やドアのすきまというすきま口はガムテープで止められていて、空気の抜け道はない。そうしてから側に置かれた練炭にチャッカマンで火をつけてから少しため息をついて時間をおく。
「ごめんね。おかあさん。私、やっぱりもうたえられない。おとうさん。おかあさん。先立つ娘の不幸をどうぞお許し下さい。先にいって待っています。・・・・・・あーあー。人生やり直したいな。せめてあの人に出会う前からでも・・・・・・なんて無理だよね」
それから部屋にある、あるものに目を見やる。
それはいったい・・・・・・。
「あなた、あなたいったい誰よ。いったいどこから入ってきたの」
いうまでもなく名張だった
「ち、違うんだ、落ち着いて聞いてくれ。僕は仏の使いさ」
「仏の使い?」
名張は大義名分、仏の書状を見せつけた。
「仏の書状」と呼ばれる古文書みたいな紙には、自殺する者の名前、性別、年齢、場所、時刻が記されている。ここに来る前にマルンに持たされた。突然目の前に現れるのだ。信憑性しんぴょうせいがあるだろう。
香奈恵はそれにじっと眼を通す。
「まんざら嘘でもなさそうね。それで何しに来たの。仏・の・使・い・さ・ん・」
語尾に強調があった。冷たい。
「君の自殺を食い止めにきた」
「無理ね」
眼が本気マジだった。これは無理だと悟った。それで当たって砕けろ!本音を言った。
「どうせ死ぬんだったら1回ハグさせて」
「・・・・・・」
「・・・・・・(だめか)」
「・・・・・・フ、ヒ、フ、フ、フハハハッハハハハー」
物珍しい物でも見るかのようにじっくりと名張を見ていたかと思うと、香奈恵は突然腹を抱えて笑いだした。
「ちょっと、何だよ。僕はいたって真面目なんだぞ」
「真面目な顔して言うことか。あー、久し振りに腹の底から笑ったわ。アンタの言葉聞いたら、ばかばかしくてなんだか死ぬ気も失せたわ」
「フー」と香奈恵は息を吐いた。スゲー色っぽい、と名張は思った。
「いいよ。気に入った」
「えっ、それって、ひょっとして・・・・・・」
「童貞少年よ。夢はきっと花開く!」
そう言って香奈恵は指でピストルのポーズを作って、名張に向かって、「バーン」と、撃った。
その姿が妙に色っぽくて名張は生唾を飲んだ。