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第五十一話【雪降る村へ向けて】

「これがゴブリン名物、クラガリトカゲと洞窟キノコの串焼きでございマズ」

「と、トカゲ……」


 ……というわけで、ゴロさんから色々と説明を受けつつ。

 わたしたちはゴブリンの集落でおもてなしを受けていた。


「むぐむぐ……あ、結構おいしいですねぇ……特に洞窟キノコが、むふ……最高……むふふぅ……」

「トアムナちゃん、トカゲ大丈夫なの……?」

「まあ、その……尻尾とか薬で使ったり、しますので……はぐはぐ……」

「おおう、めっちゃ食べてる」


 トカゲ料理にたじろぐわたしをよそに、おいしそうに頂くトアムナちゃん。


「……ハル、僕は寛大だからトカゲはやるぞ。なにせ……そう、寛大だからな」

「ふふ……王子? せっかく出してくれたんですもの、残さず食べなきゃだめですよ?」

「だがなリエッタ、トカゲは流石に──」

()()()()()?」

「むううぅぅ……」


 嫌そうに食べるソラ、お上品に頂くリエッタさん。

 残されたのはわたしだけかぁ……。


「ハルサマ、無理でしたら他の料理デモ……」

「う、ううん! いただきます!」


 リエッタさんの視線もあるけれど、ゴロさんの悲しい顔見てたら食べるしかないじゃん!

 目をつぶって、真っ黒なトカゲを、うう……尻尾から……! あむぅ……っ!


 ……あ、意外といける。鶏肉みたい。

 キノコも……うん、芳醇な香りで食欲が増す。岩塩だけのシンプルな味付けがまた良いね!

 見た目さえ気にしなければとっても美味しい料理だね、むぐむぐ。


「気に入って頂けたようでなによりでございマズ、デザートも用意してますノデ」

「わあ、楽しみだなぁ」

「芳醇でねっとりとした甘さを持つミツハナカブトの幼虫で──」

「ごちそうさまでしたッ!」


 流石に幼虫は無理だと逃げ出しちゃったけど……ゴロさんには悪いことしたなぁ……。


                  ◇


「おー! これが釜風呂ってやつ!?」

「なるほど、底に木の板が敷いてあるのね……」


 食事のあとは待望のお風呂!

 まさかここでもお風呂にはいれるとは思わなかったよ、えへへ。


 ゴブリンの集落付近には地下水が湧いてて、その水を汲んで生活してるんだって。

 このお風呂も地下水を汲んできて、石で出来た浴槽に入れて作ったんだ。

 ゴブリンたちもお風呂が大好きみたい。きっと人間の影響なのかな?


 あ、ちなみにトアムナちゃんは熱いと溶けちゃうので地下水が湧き出る場所に連れてってもらってるよ。

 一緒に入れないのはちょっと寂しいけど、仕方がないよね。


「あ、ちょうどいい温度……ふわ……あふぅ……極楽ぅ……」


 なにはともあれ、早速中に入ってみるわたし。

 ゴブリンたちが温めておいてくれたお風呂は、もう最高の適温!

 ぬくぬくで身体があったまるなぁ……幸せぇ……。


「ふふ、ハルちゃんったら……私も失礼しちゃおうかしら」


 そう言って隣の釜風呂へと入ろうとするリエッタさん。

 おいでおいでー、なんて手招きをしてみたり。

 きっとわたしの今の顔、最高にだらけてるんだろうなぁ……恥ずかしいけどしかたないよね。


「はあ、疲れた……まったく今日は災難だっ──」


 と同時、木でできた塀の影から出てきたのは──。


「あっ」

「えっ」


 ……ソラ?

 

 ……エート。


「~~~ッッ!?」

「……変態ッ! 変態ッ! どっかいってッ! バカソラぁッ!」


 互いに顔を真っ赤にしながら、わたしは桶を投げつけて、ソラは間一髪それを避けて逃げていく。


「ゴロぉぉぉッ! どういうことだぁぁぁッ!」


 遠くからソラの怒ったような声が聞こえてくる。

 ……多分、ゴロさんの案内ミスなんだろうけどさ。


「あ、アハハ……王子ったら、うっかりしてたのかしら」

「もー最悪っ! バカバカ、バカソラ……うぅ~っ!」


 先にお風呂に入ってたから、別に身体を見られたわけじゃないけどさー……!

 うう、やっぱり恥ずかしいーっ! もー! 会ったらめっちゃ気まずいじゃんっ!

 わたしは口までぷくぷくとお風呂に沈めたまま、顔を真っ赤にしていた。


「ハルちゃん、大丈夫?」

「……リエッタさんは恥ずかしくなかったの?」

「うーん……王子は弟みたいなものだから、そんなにはね?」


 な、なるほど……流石みんなのお姉ちゃん……。

 ……あ、そうか。ソラのこと弟だと思えば恥ずかしくないのかも!

 そうそう、生意気な弟……凄く生意気な弟だと思えば……。


 あ、ちょっとソラのタオル一枚姿思い出しちゃった。ぱしゃん、ぷくぷく……。


「ちょ、ハルちゃん!?」


 こうして息が苦しくなるまで潜水したり、そのあともなんやかんや気を紛らわせようとしたりして。

 のぼせかけて、リエッタさんにちょっと怒られたりした。

 うう、これも全部ソラのせいだ……バカぁ。


                  ◇


 ──とまあ、思い出すだけでも恥ずかしい目にも遭ったりしたけれど……。

 遺跡の探索は無事に終了したの。まあ、目的のものは見つからなかったんだけどね。

 でも、色々興味深いことを知ることが出来たし、ソラの決意も聞くことが出来た。

 わたし的には、成功したって言ってもいいと思うな。

 まだまだ旅は長いし、空へ行く手段もこれから見つければいいよね。

 

 あ、そうそう、トアムナちゃんから聞いたんだけど、リエッタさんってすごい技を持ってるみたい!

 すごくかっこよかったって言ってたなぁ、見てみたかった。いつか見れるといいんだけどな。

 

 次の目的地はスノウベル村、明日には出発する予定。

 雪が降ってるらしいけど……コート買い忘れちゃったな。失敗失敗。

 まあ、なんとかなるでしょ! なんて、お気楽に考えてるわたしである──。


 今日の日記も書き終えて、ペンをしまい日記をぱたりと閉じる。

 ゴブリンのテントの中、今日はみんなで川の字になって就寝。

 リエッタさんとソラの間に挟まれて、わたしはハチミツを一口食べた。

 寝る前に甘いものを食べるなんて、ちょっと悪いことしてる気分。えへへ。


 ハチミツの瓶とハニーディッパーをしまい、もぞもぞと布団の中へ。

 さーて寝るぞとその気で居たら、ふと寝ているソラの寝顔が目に入った。


 寝る前に今日は大変だったよね、お疲れ様。……なんて、声をかけてやりたかったけど。

 お風呂の一件から、気まずくて話してないんだよね、アハハ……。

 ま、まあ明日になれば忘れてるでしょ、多分。


 ……こうしてみると、整った顔立ちしてるよね、ソラって。

 ちょっと上の年代のわたしから見てもイケメンな感じ。これで性格がああじゃなければなー、なんてね。

 まあ、いいヤツなのは確かだし、いざという時は頼れるし、ちょっとカッコいい所もあるし……。

 きっとハーピニアのアカデミーでもモテるんだろうな、なんて思ってしまう。


 ……いや、何考えてるんだろ、わたし。寝よ寝よ。

 わたしは布団に潜り込んで、目を閉じたけれど。

 なんだかそわそわしちゃって、なかなか寝付けなかった。


 別にソラは友達だし……うん、友達。

 自分にそう言い聞かせてるような気がするけど、絶っ対違うから。

 ……本当に違うもん。本当に。


                  ◇


「ふぁ……ねむ……」

「おい、ちゃんと寝たのか?」

「……うっさい、覗き魔」

「ちっ、違う! あれは事故だからなっ!」


 次の朝、遺跡の外に出てすぐの所。

 ゴロさんたちの見送りを受けつつ、そんなやり取りをしていた。

 なんだかんだ、朝になったら恥ずかしさはなく、ソラと普通に話せた。

 ……ウソ、やっぱり思い出したらちょっと恥ずかしいかも。


「申し訳ありませんでジダ、ソラサマ。ゴロ一生の不覚でございマズ……」

「まったくだ、今後気を付けるんだぞ……だからもう謝らなくていいぞ、うむ」


 ゴロさんはそのことでずっとペコペコ謝ってた。

 ソラも謝り続けるゴロさんを流石に気の毒だと思ったのか、いつもより優しめな声。

 案内ミスなら仕方がないよね、うん、忘れよ忘れよ。


「それよりもさ! ゴロさん、本当にこれ貰っていいの?」

「もちろんでございマズ、スノウベル村は寒い地方ですガラ」


 ゴロさんに次の目的地を告げたら、人数分の獣皮で出来たマントをもらっちゃったの。

 羽織ると結構暖かくて、これなら雪降る場所でも寒くないかも。ありがたいね。


「ありがとうございます、ゴロさん」

「イエイエ、リエッタサマ。道中お気を付けください、恐ろしい獣も居ますガラ」

「ええ、分かりました」


 ゴロさんが言うには、スノウベル村近辺で凶暴なユキオオカミが群れてるんだとか。

 それに視界も悪いみたいだし、はぐれないように注意しなきゃね。


「あ、あの……洞窟キノコも貰っちゃって、すみません……」

「イエイエ、おやつにでも食べてくだザイ、トアムナサマ」

「ありがたく頂きます、えへ……」


 トアムナちゃんは洞窟キノコの入ったカゴをもらってご機嫌。

 おいしそうに食べてたのがゴロさんもうれしかったみたいだね。

 しばらくはキノコ尽くしな料理になりそう……ちょっと楽しみかも。


「色々と助かった、ゴロ。この恩は決して忘れんからな」

「ソラサマ、こちらこそお世話になりまジダ……あの宣言通りになるヨヴ、祈ってマズ」

「もちろんだ、必ず僕たち人間の過ちを正してみせる」


 そう言うと、ソラとゴロさんは固い握手を交わした。

 過ちを正す、だなんてカッコいいこと言っちゃってさ。まったくソラったら。

 わたしも何か手伝えるといいんだけどな……なんてね。


「それではみなザマ、どうかお元気デ」

「うん、ゴロさんも元気でね!」


 さて、そろそろ出発の時。

 ぺこりとお辞儀をするゴロさんに手を振って別れを告げると、わたしたちは歩き出した。

 ゴブリンたちもガヤガヤと騒がしくしながら、手を振ったり口笛を鳴らしたりして別れの挨拶。

 こうして大勢に見送られるのは、何度やられてもちょっと気恥ずかしいかな、えへへ。


 次の目的地はスノウベル村、常に雪降る豪雪地帯……。

 今度は何が待ち受けてるのか、少し不安もあるけれど。

 まあ、きっとなんとかなるさ! なんて気楽に考えたりして。

 足取り軽く、前へ前へと進み続けたのだった。

※アイデア枯渇のため、次回更新は未定です。

※本当に申し訳ありません。

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