第四十九話【制圧兵器ドロテア】
ひいいい、なんて情けない声を出しながら、わたしはドロテアから逃げていた。
あの遺物はわたしたちを見た瞬間、恐ろしい速度で襲い掛かってきたのだ
千年以上も動いてなかったはずなのに、ものすごい力と速さで迫ってくる。
「そ、ソラぁ! なんとかしてよぉ!」
「出来るならすぐにしてるっ!」
足の速さには自信はあるけれど、部屋の中じゃ分が悪い
幸いにもそこそこ広いけど、気を抜いたら捕まってしまいそうだ。
「ソラ、あれ人が乗って動くんじゃないの!?」
「そのはずだが搭乗席が見当たらん! 内臓されてるのか……!?」
「じゃあ、あの機械の中に何か居るってこと!?」
「分からん! とにかく叩いてみるしかない!」
わたしを狙ったドロテアの振り下ろした拳が机を粉砕する。
今のところ避けれてはいるけれど、あんなので叩かれたら無事じゃ済まない。
淡々と敵を排除しようとする無機質な殺意に、わたしは恐怖を覚えていた。
とにかく、あのドロテアを何とかしないとここを出られないのかもしれない。
「ソラっ! 剣のチャージ終わった!?」
「終わったが狙いが定まらん!」
「動き止めたら捕まっちゃうからね!」
「分かってる、何とかするっ!」
ソラがタウロスを狩った時のように剣先をドロテアへと向ける。
確かバーストとかなんとか言ってたっけ、砂鉄を集めて飛ばす"飛ぶ斬撃"!
「バーストッ!」
ソラの持つ魔法剣から射出される斬撃。
あのドロテアを動かしている"何か"も、急に飛ばされたそれに反応できなかったのだろう。
胴体に思い切り突き刺さり、バチバチと火花を散らした。
「やった!?」
「当たったが……駄目だ、まだ動いてる!」
よろめきはしたものの、動きを止めるまでには至らず。
ドロテアはまるで怒るかのように、金属音をぎしぎし鳴らした。
すると、背中の箱が開いて中から何かが現れる。
あれは……筒?
「まずい、大砲だ!」
「大砲!? ちょ、こんなところで撃つ気なの!?」
「だろうな! 死ぬ気で避けろ!」
そんな滅茶苦茶な! ああもうっ!
次の瞬間、轟音と共にわたしめがけて大砲が放たれる。
ぴょんと大慌てで前に跳んで、なんとか回避。わたしが居た場所に鉄球が突き刺さった。
ふう、なんとかなっ……うわっ、まだ撃ってくる!?
そのままわたしは跳ねるボールように逃げ回り、いくつもの鉄球を避け続けた。
「あの大きさだ、そんなに搭載されてないはず……よしっ、弾切れしたみたいだぞ!」
「ぜえ……ぜえ……ソラぁ、今ので体力凄い持ってかれたんだけど……!」
「まだ追いかけっこは終わってないぞ、逃げろ!」
「うえええ……っ!」
泣き言の一つもまともに言えないまま、わたしは再び逃走する。
ドロテアは大砲を箱に格納すると、わたしを再び追い始めた。
最悪なことに、鉄球で荒らされた室内は非常に逃げづらい。
それにドロテア自身も鉄球分身体が軽くなったらしく、さっきよりも素早くなっているのだ。
しかも凄く疲れてきた……! このままじゃ追いつかれちゃうよぉ!
「バーストッ! ……くっ、まだ浅いか!」
ソラが引き続き斬撃を飛ばし続けるけど、どうしてもアレを操縦している場所にたどり着かないらしい。
砂鉄の斬撃じゃ威力が足りないんだ……! ドロテアの足止めにしかなってない!
「そ、ソラ……わたしもう……!」
「頑張れハル! 考えろ僕、考えろ……!」
わたしも限界だし、ソラも作戦が思いつかないみたいだし。
ドロテアとの距離は縮まる一方、もしかしたら次の攻撃は避けられないかもしれない……!
ああ、せめて鉄の斬撃の威力が上がればいいのに。
そう思った瞬間、目に入ったものはドロテアが撃ちだした鉄球だった。
鉄球……鉄……あれ? もしかしたら!
「ソラ! あの鉄球使えない!?」
「鉄球……ああそうか!」
わたしは鉄球の一つに近づいて、ソラは鉄球に剣をカンッと当てる。
すると鉄球は剣先にくっつく様に持ち上がり、その剣先はドロテアの胴体へと向けられる。
「チャンスは一回! ちゃんと決めてよ!」
「もちろんだとも!」
そう言うとわたしは急ブレーキ。ドロテアが真後ろに迫る。
もうちょっと……! あとちょっと……! よし、この距離なら! いっけぇ!
「──バーストッッ!」
ドロテアが拳を振り上げた瞬間、勢いよく放たれる鉄球。
砂鉄で作った斬撃でさえも胴体に突き刺さる威力。
それが質量のある鉄球で、これだけ近ければ──!
ドンッ、と鈍い音と共に、鉄球が胴体に突き刺さる。
同時、振り下ろそうとしたドロテアの拳が動きを止めた。
鉄球の突き刺さった場所はぽっかりと穴が開き、貫通寸前の所でとどまったみたい。
バチバチと火花を散らすドロテアから逃げて、遠くから様子を見る。
まるで痙攣するかのように、がしゃがしゃと震えた後。
ボンッと開いた穴から大きな煙を吐いて、どしゃりと倒れた。
「……や、やった、よね」
「うむ……そのはずだ」
ドロテアが動かなくなったと同時、入り口の扉がキイキイ言いながら開き始める。
これは……やったってことだよね? もう心配ないよね?
…… …… ……。
「はぁぁぁ~~……っ」
わたしは喜びよりも、疲れでその場にへたり込んだ。
ソラは気遣ってか、わたしの背から降りてくれる。
「よかったぁ……なんとか勝てて」
「うむ、ハルの機転で勝ったんだ」
「ソラが上手くやったんだよ、わたし逃げてただけだし……ふう」
息を整え、ドロテアの方を見ながら互いに拳を打ち合わせる。
一時はどうなるかと思ったけど、無事に危機を乗り越えられた。
喜ぶよりも、ひとまず息を整えたいな……ふう。
「ハルサマ、ソラサマ! ご無事デズガ!?」
入り口の扉から、ゴロさんと仲間のゴブリンたちが急いでやってくる。
どうやら心配して来てくれたみたい。良い人たちだなぁ。
「ゴロさーん、また会えて嬉しいよー……アハハ」
疲れた表情で手を振るわたしを見て、安堵した様子のゴロさんたち。
ソラも何か反応してあげたらいいのに、ドロテアの方を見てううむと唸っていた。
「……無人のドロテア、どういうことなんだ」
「もう、ソラったら。反応してあげたらどう?」
「それどころじゃない、無人のドロテアなんて僕たちでも実用化できてない代物なんだぞ」
ソラはそう言うと、わたしの方を見る。
「ハル、これは徹底的に調べ……っ!」
「え、どうしたの驚いた表情して──って、えっ!?」
そして、座るわたしに飛び掛かって、いきなり押し倒してきたのだ。
……へっ!? えっ、ちょ、ソラ!?
「あ、あワワ……っ」
あまりの出来事に声も出せず、ゴロさんも驚いて顔を隠している。
まって、まって、一体何なの!? みんなが見てる前で、ちょっと、そんな……!
「そ、ソラ、何が──」
「ぐ、ぅ……っ……無事、か……」
え……? ソラの背中の上に、何かが……っ!
れ、レッドラインスパイダー……!?
わたしは慌てて毒蜘蛛にパンチを浴びせると、毒蜘蛛は慌てて逃げていく。
それをゴブリンたちは騒ぎながら追っていったけれど。
──ソラの首筋に、大きな噛み跡が残っていた。
「ちょっと、ソラ、嘘でしょ……!」
「気を抜くな、馬鹿者が……後ろから来てる敵にも気づかんのか……」
息を荒くするソラは、わたしの身体の上から転がるように落ちた。
わたしは急いで起き上がって、ソラの傷を見た。
思い切り噛みつかれてる……これ、きっと毒が……!
「はぁ、うぐ……気分が、悪い……噛まれた場所が悪かったか……」
毒がもう回り始めてる……このままじゃ、ソラが……!
「ゴロさん! 解毒剤ありませんか!? ソラが、ソラが!」
「今あの蜘蛛を追ってマズガ……間に合うかどヴガ……」
「そんな……ソラ、やめてよ! こんなところで死なないでよ……!」
わたしが焦ってソラに言うと、彼はいつものように生意気そうに鼻で笑って。
「ふんっ……死ぬわけ、ないだろ……死んでたまるか……」
と、強がっていたけれど、毒が回ってどんどん弱っていくソラを見て、わたしは何もできずにいた。
完全に毒が回ったら、次は激痛が襲ってくる。まだ子供のソラがそれに耐えられるかどうか……。
「やだよソラ、死なないで……! お別れなんてやだよ……!」
声を震わせながら、ソラの傍に居ることしか出来ない自分。
わたしのせいだ……わたしが蜘蛛に気付かなかったから……!
自分を責めることしか出来ないわたしは、あまりにも無力だった。
でも、神様はわたしたちを見捨ててなかったの。
「ハルちゃんっ! 王子っ!」
「あうぅ……や、やっとたどり着きました……」
聞きなれた仲間たちの声が、入り口の方から聞こえてきた。
ああ、リエッタさん、トアムナちゃん──。
「二人とも……ソラが……ソラが……!」
「……! 診せてください!」
トアムナちゃんが慌てて駆け寄ってきて、ソラの容態を診てくれる。
症状から現状をすぐに把握したのか、液体の入ったフラスコと注射器を取り出す。
フラスコの液で注射器を満たしソラに打つと、少しだけ症状が和らいだのか、ソラの表情が良くなってきた。
「ハルちゃん落ち着いて、何があったのか話してちょうだい?」
「う、うん……えっとね──」
トアムナちゃんが看病している間、わたしはリエッタさんにこれまでの経緯を話す。
穴に落ちたこと、ゴブリンに救われたこと、ドロテアと戦ったこと。
──ソラが蜘蛛から助けてくれたこと。
全てを聞いたリエッタさんは、何も言わずにわたしを抱きしめてくれた。
安堵からか、わたしはそのまま泣いてしまったの。
泣き虫は小さい頃に卒業したんだけどな……でも……。
でも……ソラが助かって、本当に良かった。





