第四十八話【扉の奥にあるもの】
ゴロさんたちから貰った地図を頼りに、わたしたちは洞窟を出て遺跡へと戻ってきた。
ゴブリンたちはわたしたちが迷わないよう、道沿いに松明を立ててくれたみたい。
明るく照らされてて、とても進みやすかった。
「しかし、何故彼らは暗い場所に住んでるんだ?」
「ゴブリンは夜目が効くんだって、明かりがなくてもよく見えるらしいよ」
「ふむ、それは便利なことだ」
ソラが感心した様子でそう呟いている。
確かに暗がりでもよく見えるのは少し羨ましいかも?
まあ、そのせいでゴブリンは夜に子供をさらうーだとか、色々言われちゃってるんだけどね。
「……む、ハル。見えたぞ」
そんな話をしていたら、ソラが指を差す先に大きな扉が見えてきた。
非常に大きく、分厚そうな金属の扉。
とても頑丈そうで、何かを使わない限り開かなさそうな感じだった。
「ここが最深部……! ついに辿り着いたんだね! やったぁ!」
「ああ、早速開けよう」
「……むぅ、もうちょっと余韻に浸らさせてくれてもいいじゃん」
「余韻って何だ……まったく、遊びじゃないんだぞ」
もう、ソラってば分かってないなぁ。
わたしがむう、と口を尖らせてるのを無視して、ソラは剣を抜いた。
そして、ひゅんと扉の方へと向けてみる。
『ピピッ──研──所へ──ようこそ──ル卿』
おっ、また喋った! なんて驚いていると、ゆっくりと扉が開き始める。
ギギギギ……と、分厚い鉄板が横に動いていく。
さーて、中は何があるんだろうっ? 研ナントカって聞こえたし、きっと中は──えっ!?
開いたと同時、中から急に何かがどしゃりと倒れてきた。
驚いてぴょんと飛び退いたわたしは、その倒れてきたものを見る。
これまた金属で出来た、何かの遺物。
足と手のようなものがあって、背中には大きな箱を背負ったような……ううん、なんだろこれ。
「これは……"ドロテア"か? 形はあまり似てないが、初期の型だろうか」
「ドロテア?」
「人間が作った機械……簡単に言えば"兵器"だ。これに乗って城の周りを警備しているのをよく見た」
「機械……へえ、これ乗れるんだ」
人間って乗り物作るの好きなんだなぁ、なんてその時は軽く考えてたけれど。
ソラが言うには、大砲よりも恐ろしい兵器らしい。
「これには付いてないみたいだが、普段はガトリー砲という二門の回転式機関砲を装備している。生身の生物には太刀打ちできん」
「ガトリー砲……? 回転式……えっと……?」
「ああそうか、地上にそもそも存在しないか……まあ、そのうち詳しく話そう」
よく分からない単語を並べるソラは、そんなことよりもと言葉を続ける。
「なぜドロテアがこんな所にあるのか……ただの警備か、それとも……」
「うーん、倒れてきたってことは扉に寄りかかってたのかな? もしかしたら出れなくなっちゃったとか」
「……出れなくなった、か。嫌な予感がする」
不安が言葉に漏れるソラ。確かに妙だよね……。
ドロテアだかなんだか知らないけど、この倒れてきた機械の横を通り過ぎて、中へ入ろうとする。
どうか動きませんように、なんておっかなびっくりになりつつ。
「気をつけろハル、何がいるかわからん」
「うん、分かってるけど……うわっ!」
中に入ったわたしとソラは言葉を失った。
まるで何かが大暴れしたかのような、とにかくめちゃくちゃになっていた。
大小様々な骨がいくつも転がってて、多分恐ろしいことが起こったんだと察することができる。
「この骨……人間とゴブリンのものだろう」
「うっ……ね、ねえソラ、わたし帰りたいなー、なんて」
「ここまで来て帰れるわけないだろう、我慢しろ」
だよね、アハハ……はあ。
骨を避けて中を進むわたしとソラ。
あまりまじまじと見たくないけど、どの骨も凄い力で砕かれたような感じ。
一体、この部屋で何が起きたんだろう……なんて、部屋の奥まで進んで、ある扉の前で立ち止まった。
「……えっと、ソラ、これ読めるよね?」
「ああ、共通語だ」
そこには赤黒い文字で『開けるな』と何度も書かれている扉があったの。
更には中からすごい力で殴られたかのような痕がある。
まるで、恐ろしい化け物を閉じ込めているかのような……そんな様相に、少し恐怖を覚えていた。
「この文字はペンキ……では無さそうだな」
「やめて、あんまり考えたくない」
「うむ、そうしよう……」
その扉から逃げるように離れるわたしたち。
願わくば何もない事を祈りつつ……。
「さて、何か探そうにもこの様子じゃ大変だな」
「わたし、あんまり骨とか触りたくないんだけど……」
「まったく、軟弱者め……お前が探さなければ誰が探すと言うのだ」
「ソラでしょ」
「…………うむ、ゴブリンたちの手を借りるか」
あっ、ソラもやっぱり嫌なんだ。軟弱者め。
でも、ゴロさんに言えば手伝ってくれるかな? 優しいしきっと──。
次の瞬間、ダンッと思い切り何かを殴る音が聞こえてくる。
わたしとソラはびっくりして身体を跳ねさせて、音のした方を見た。
ダン、ダン、と断続的に鳴るその音は……あの開けるなって書いてある扉から聞こえてきてたの。
そう、何かが扉を叩いている。
「う、うそ……お、オバケ……!?」
「そっ、そんな非現実的なことあるわけが……」
「でも現実に起こってるじゃんっ!」
慌てるわたしとソラの言い合いに気付いてるのか、扉を叩く音はさらに強く。
しまいには留め具が外れ、今にも突破されそうだった。
「や、ヤバいよソラ! 逃げようよ!」
「しかしここの調査が終わってない!」
「命あってのなんとやらでしょ! 逃げ──」
『被験体脱走──検──メイ──ドア、閉鎖──』
え、ちょっと、と言う間もなかった。
入り口の大扉は勢いよく閉まり、うんともすんとも言わなくなったの。
「そ、ソラぁ! 剣! 剣使って!」
「やってる! くそっ、反応しろ! 反応しろよっ!」
剣をいくら大扉に近づけてもピクリとも動かない。
さっきはすんなり開いたのに、なんでなの……!?
そうこうしてるうちに、ガコンと嫌な音が後方から鳴る。
振り向くと、さっきの扉が完全に外れて地面に転がっていた。
「そ、ソラ……あ、あれってさ……」
「あ、ああ……信じたく無いが……」
わたしとソラの目線の先には、あの扉を叩いていたヌシが居た。
金属で出来た大きな機械。手足があり、大きな箱を背に背負った──。
「ドロテアだ……! 無人のドロテアだ!」
そう、入り口に入ってきた時に倒れてきたあの機械。
人が乗って動くはずのそれが、ひとりでに動いてわたしたちに立ちはだかったのだ!





