第四十五話【広間の探索】
広間の探索を初めて十分が経過。
わたしはソラを乗せて、広間の西側を探索していた。
この広間は中央付近にわたしたちが通ってきた通路があり、東と西に伸びるように部屋が広がっている。
簡単に言えば長方形みたいな形をしているんだけど、かなり広い作りだ。
石で出来た長椅子、崩れた噴水、雑草しか生えてない花壇……。
多分ここは公園か遊歩道か、それに近い場所だったんだと思う。
「似た造りのものをソラジマで見たことがある。ここほど大きくは無いが」
「へえ、公園とか?」
「うむ、ガリヴァー国立記念公園と言ってな、ソラジマが空を飛ぶ前から存在する由緒ある公園なのだ。父上とよく遊びに行ったのを覚えている」
ソラが言うには、古代の建築様式そのままが残された公園なんだとか。
ソラジマにも遺跡がいくつかあって、勉強のために寄ったこともあるらしい。
だから遺跡の構造を見ても大して驚かなかったのかな?
「もし僕の知っている遺跡と一緒なら、最奥には研究所か王族の部屋……王室があるかもしれない。そうならばどちらがあるにしろ、飛ぶために必要な物が存在しているはずだ」
「研究所は分かるけど、王室に何があるの? 空を飛ぶのとは無縁だと思うけど……」
「『ラプタ』だ」
「なにそれ」
ラプタ……? 初めて聞く名前だ。
「もう存在しない古の魔法で生成された魔力の塊だ。見た目は青い宝石だが」
「青い……あ、もしかしてソラの剣にも使われてたりする?」
「ああ、鞘と剣身にラプタが混ぜ込まれている、らしい」
「らしいって……」
「すでに失われた技術なんだ、研究するにしても宝剣を解体するわけにはいくまい?」
うーん、まあそっか、大事な物だしね。
ソラが言うには、ラプタって宝石は半永久的なエネルギーを供給してくれるらしい。
理屈は分からないけれど、魔法に常識なんて通用しないものってソラは語ってた。
「かつて古代の王族たちは魔術師にラプタを作らせ、その輝きで権力を誇示したとされている。魔法が失われた今、あの宝石の価値はそのエネルギーにあるんだ」
「エネルギーってことは、燃料になるってこと?」
「それだけじゃない、ラプタのエネルギーは浮力ももたらすんだ。つまり、どんな重たいものでも浮かび上がらせることができる。大きさによって限度はあるが……」
「あ、それってつまり空を飛ぶためのものに必要な材料ってことね!」
ソラはうむ、と強く頷いた。
なるほど、確かに空を飛ぶための試作品を見つけても動くか分かんないし、一から作るとしても材料がないと意味がない。
実際に最奥を見てみないと分からないけれど、ソラの言う通りなら絶対に何かあるはずだ。
……それにしても、浮力を持たせる宝石だなんて夢があるよね。
もし首飾りとかにしてわたしが身に着けたら、飛べるようになったりしないかなぁ……。
「……む、ハル。……おいハルっ!」
「……はっ! ご、ごめん、考え事してた」
「まったく……あそこを見ろ、壁が崩れている」
ソラが指差す方向を見ると、確かに壁の崩れた部分がある。
その先は暗がりになっていてよくわからないけれど、洞窟になってるみたい。
多分、大蜘蛛はここから来たのかな……?
「行ってみる?」
「聞くまでもなかろう」
わたしはその崩れた壁の方へと向かった。
そのまま瓦礫を乗り越え、洞窟の中へ。
中は広々としてて、あの大蜘蛛も余裕で行き来できるほどの大きさだ。
薄暗いけれど、外から差し込む明かりで何とか歩くことができる。
この洞窟は天然でできたって感じじゃなく、掘って作られた……ような気がする。
洞窟なんて入ったことないし、もしかしたらこれが普通かもしれないけれど。
……あ、いや、よく見たら壁際に支え柱みたいなのがある。じゃあここは人工の洞窟なのかな?
蜘蛛が穴を掘ったり柱を立てるとは思えない。もしかしたら遺跡にだれか住んでたりして。
「ねえソラ、言いたいこと分かる?」
「ああ、ここは意図的に掘られた洞窟だ。この先にこれを作った者が居るかもしれない」
「うん、友好的だといいんだけれど……って、危なっ」
そう話しているうちに、危うく目の前の崖を見過ごして落ちるところだった。
覗くと底が見えず、飛び降りれないくらいには高い……多分、戻ってくることは出来なさそう。
どうしてこんな形になってるかは分からないけれど、これは一度戻ったほうがいいのかな?
「崖……行き止まりか」
「うーん……一度リエッタさんたちと合流した方がいいかも」
「だな、向こうに道がなければ改めて考えるしか──」
と、ソラが言いかけた瞬間。
ぽとっと、わたしの肩に何かが落ちてくる感覚が。
ふと、その方向を見ると──あ、蜘蛛。手のひらサイズ。
…… …… ……。
「ぎゃあああああああああ!?」
「うわあああああああああ!?」
洞窟にわたしたちの叫び声が響き渡る。
「ソラぁ!? 取って! 取ってぇ!」
「いやだっ! というか降ろせ! 降ろしてくれ! ああっ目の前に蜘蛛が! 蜘蛛がぁ!」
「ちょ、暴れないで! ひいいいいカサカサ動いてるぅ! やだぁぁぁぁぁぁ!」
パニックになったわたしたちはその場でぐるぐると暴れて。
足を踏み外したと気が付いた時には、もう遅かった。
「あっ」
「えっ」
ぐらりと傾く身体。急いで立て直そうとするけれど、間に合わない。
ソラを背負ったまま、崖下まで真っ逆さまに落ちていくわたしたち。
景色がスローモーションになっていくのを感じる。あ、これもしかして走馬灯……的な?
再び叫び声が、洞窟の中に響き渡った。





