第四十四話【ちくちく、ちくちく】
「す、すみませんハルちゃん……縫ってもらっちゃって……」
「いいのいいの! 可愛いお洋服なんだし、大事にしなくちゃね!」
ちくちく、ちくちく……。
私はカバンから裁縫道具を取り出して、トアムナちゃんのお洋服を縫っていた。
黒のローブに花の装飾が飾られた可愛いお洋服。昔から大事にしている物らしい。
使うかもって思って持ってきてた裁縫道具が役立って良かったぁ、ふふん。
「ハルちゃん、裁縫上手だね? ハーピーの子はみんなそうなのかな」
「お母さんが仕事でやってるから時々教わったんだよねー、授業でもやるけどクラスでも上の方の実力なんだよ」
「そうだったんだね、すごいなぁ……王子のローブ作る時、頼めばよかったかな?」
「あ、そうだよね、道具あるんだしわたしがやれば良かったかな……じゃあ、これからはそういうのは任せてよ、嫌いじゃないし!」
「ふふ、ありがとうハルちゃん。お願いするわね?」
リエッタさんがわたしの裁縫を褒めてくれて、ちょっと上機嫌になりながらちくちく、ちくちく。
あっという間にトアムナちゃんの服は元通り! どんなもんだい、なんてねっ。
「はい、出来たよトアムナちゃん!」
「あ、ありがとうございます……おぉ、前からあったほつれも直ってる……感激、です……」
「えへへ、喜んでもらえてなによりだよ」
トアムナちゃんは綺麗になったローブを嬉しそうに持っている。
その表情をみて、つられてわたしも笑顔になってしまった。
……作ったお洋服を手にした人の、目が輝く瞬間が好きだってお母さん言ってたっけ。
なんだか気持ちが分かる気がするよ、ふふっ。
「終わったか?」
「今ちょうど終わったよ、ソラ。こっち来て大丈夫」
ソラには瓦礫を挟んで待機してもらってた。
気の知れた仲間とはいえ、下着姿のトアムナちゃんを見せるわけにはいかないからね。
まあ、ソラのことだから恥ずかしがって見ないだろうけど。
……それはそれで面白くない、なんて思ってしまうわたし、結構酷い?
「ご、ご迷惑おかけしました、ソラくん」
「迷惑も何も、お前の機転で助かったからな。これぐらい待つ」
相変わらずそっけない態度だけど、そっけないなりにトアムナちゃんに感謝してるソラ。
確かにあの大群をせき止めてくれたんだもの、頭が上がらない。
「それより、次はどう動くかだな」
ソラは目線をさっきの通路へと向ける。
もう蜘蛛たちは巣へと帰って、鉄柵だけが残っていた。
「鉄柵は再びフェルムを使えば消せると思うが、問題はあの先に居る蜘蛛だな」
「あの広間をどう突破するかですね? 王子」
「うむ、一匹一匹なら問題ないだろうが、あの数だと奥の通路にたどり着く前に囲まれてしまうからな」
確かに、あの数はリエッタさんだけじゃ裁き切れないだろう。
わたしとソラが加勢してもたぶん厳しい。トアムナちゃんは戦えないし……。
……うーん、いい案が思い浮かばないな。
「あ、あのぅ……私がみなさんを運ぶというのは、どうでしょう……? 粘液の中なら、蜘蛛も攻撃してこないと思う、のですが……」
「恐らく逃げ切るのが難しいだろうな。トアムナが守りつつ、僕たちが攻撃することも考えたが、あの数だと一日かけても終わらないだろう」
すごい大群だったもんね……あれを全部倒すのは難しそう。
仮に奥の通路へ行けたとしても、あの執拗さだとついてきちゃうだろうし。
それに、その先も安全かどうかなんて分からない。もしかしたらさっきの大蜘蛛がまた出てくるかも。
……そういえば、あの大蜘蛛どこから来たんだろ?
「王子、一つ気掛かりが。あの大蜘蛛、一体どこからやってきたのでしょう?」
「あ、わたしもそれ思った。どこか抜け道があるのかな?」
来た時は居なかったし、騒ぎを感知してやってきたか、もとより挟み撃ちにするつもりだったか……。
どちらにしても、あんな大きさの蜘蛛を見落とすはずないし、隠れられる場所か抜け道があるんだと思う。
ソラはふむ、と考えて。
「……少しこの辺りを探索してみるのもアリか」
と、呟いた。
わたしは賛成、とばかりにうなづく。どこかに通路があるなら御の字だ。
なかったら……うん、諦めてゆっくり進むしかないかなぁ……。
「手分けして探そう、頼めるか?」
「分かりました、二手に分かれましょう。私は広間の東を、王子は西をお願いします」
この広間はかなり広いから、手分けした方が確実に早い。
何かあった時に戦えるよう、ソラとリエッタさんで分かれるのも賛成だ。
じゃあ、わたしはどちらについていくかって話だけど……。
「んー……わたしはソラについていくね」
「じゃ、じゃあ私は、リエッタさんの方に」
まあ、走れないソラの代わりになるって決めてるし、これが一番妥当かなぁ。
というわけで、わたしとソラ、リエッタさんとトアムナちゃんで分かれて、この広間を詳しく調べることになった。
「何かあったらすぐに合流しよう、場所はこの鉄柵の前でいいな?」
「分かりました、二人とも気を付けて」
わたしはソラを背に乗せて、リエッタさんはトアムナちゃんを連れて。
互いの無事を祈りつつ、広間の探索を開始した。





