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閑話【ユク村から遺跡までの道中にて…②】

 真っ暗になり、焚き火の明かりだけが辺りを照らしている頃。

 わたしは出来上がったキノコ鍋をみんなで食べようと人数分のお椀に分けていた。

 うーん、いい香り……食欲をそそるなぁ……。


「ハル、手が止まってるぞ」

「あ、ごめんごめん。はい、ソラの分」


 ソラにお椀と木のスプーンを手渡して、全員の分を配り終わった。

 ユク村で貰った野菜などの食材とたくさんのキノコを合わせたキノコ鍋。

 いつもの野営の食事よりも豪華で、自然と笑みがこぼれちゃう。


「それじゃ配り終わったし、いっただきまーす!」


 我慢できずに早速一口。熱っ、がっつきすぎたっ。

 むぐ……ほぉあ……っ! 芳醇な香りと旨みのあるスープ……!

 新鮮なキノコやお野菜のシャキシャキとした感じ……!

 うんっ、たまらないなぁこれ! 美味すぎるっ!


「ほう、これは中々美味だな。気に入ったぞ」

「ええ、キノコから良い出汁が出てますね。とても美味しいです」


 ソラもリエッタさんも気に入ったみたいで、嬉しそうに食べている。

 キノコを入れるだけでこんなに美味しくなるなんてなぁ、すごいぞキノコ!


「むふ……天然のキノコは、旨みがすごく出るんです……養殖モノじゃ敵わない点ですね」


 トアムナちゃんもお椀のスープをちびちび飲みながら、満足げな表情を浮かべている。

 いやぁ、たしかにとっても美味しい。新鮮なキノコは初めて食べたけど、こんなにもおいしいものなんだね……!


「このキノコ、あまり市場では見ないキノコね? トアムナちゃん」

「えへ……実はその、結構珍しいキノコでして、"カクレミノガサタケ"っていう、野生にしかないとっても美味しいキノコなんですよ……むふふ……」


 疑問をぶつけるリエッタさん。嬉しそうに答えるトアムナちゃん。


「むぐむぐ……おいハル、おかわり」

「ちょ、自分で取りなよ、わたしも食べてるんだからさ……はい、どうぞ」

「うむ、かたじけな……って汁だけって酷くないかお前!?」

「へへん、いーだっ」


 わたしをこき使おうとするソラに対して、意地悪をしちゃうわたし。

 その様子をみて、くすくすとリエッタさんとトアムナちゃんは笑ってみてて。

 美味しい食事もあって、会話も弾んで……とっても楽しい時間が流れていた。


 時間はあっという間に過ぎて、キノコ鍋も空っぽになった頃合い。

 もうそろそろ寝ようかって時間だったけど、つい楽しくてみんなで話をしていた。


「ハーピニア……ヴァラム……私、都会は"ティグレス"しか知らないので、いつかどちらにも行ってみたいです、ね……」

「うん、歓迎するよ! ちなみに、ティグレスってどんなところなの?」

「ええと、ですね……私もその、実際に行ったわけではないのですけど……アウェロー大陸で一番の大都市で、人間学が盛んな学術都市、なんです」


 トアムナちゃんの話によると、ティグレスという街にはたくさんの学生や学者が居るという。

 彼らを率いているのは"エイル学長"って呼ばれる謎の人物で、常に仮面とローブを着ている素性の知れない者なんだとか。

 それでも、学長さんの持つ知識量はティグレスの中でもトップクラスで、性格も優しいからティグレス中の人たちに慕われてるんだって。

 うーん……なんだか不思議で魅力的だな! ワクワクするよ!


「ふむ、人間学が盛んな学術都市か……もしかしたら何かソラジマへ行く手がかりもあるかも知れないな」

「スノウベル村に着いた後、ヴァラムへ行くかティグレスへ行くか……少し悩みますね、王子」


 確かに、わたしたちの目的は"ソラジマへ向かうための手がかりを探す"こと。

 ティグレスならもしかしたら何か得られるかもしれないけれど……うーん。


「まあ、スノウベル村に着いたら考えればいいんじゃない?」

「……ハル、気楽だなお前」

「だって今から気にしてたってしょうがないと思うんだよね、せっかくの旅なんだから楽しみたいじゃん?」

「楽しむための旅じゃないんだぞ、まったく……だがまあ、言うことは一理あるか、今は目の前のことに集中しなくてはな」


 そういってうんうんとうなづくソラ。

 こういう所子供らしくないんだよなぁ、わたしも子供だけど。

 もうちょっと気楽に構えてもいいと思うんだけど……焦っても良いことないしね。


「……そうね、ハルちゃん。せっかくの旅なんだもの、楽しまなくちゃね」


 リエッタさんはにこりと笑って返してくれた。

 ソラもリエッタさんも、故郷が気になるから焦っちゃってる所があると思う。

 急いては事を仕損じる……だっけ? そういう言葉もあるし、焦りは禁物、ってね。


「よーしっ、という訳で明日も楽しくやっていこうっ! えいえいおー!」

「急になんだお前」

「もうっ、つれないなぁソラ! ここは一緒にえいえいおーってする流れでしょ!」

「……そういうものなのか?」


 腑に落ちない様子のソラがううんと唸っているけれど。


「ふふっ、ハルちゃんったら……えいえいおーっ」

「え、えいえいおー……です、むふふ……」


 と、リエッタさんとトアムナちゃんは流れに乗ってくれた。

 その様子を見てばつが悪かったのか、腕を組んで少しうつむいたソラは……。


「……えいえいおー」


 と、片腕を小さくあげて、恥ずかしそうにやっていた。

 ふふっ、なんだかんだ良いパーティだね、このメンバー。


「ふふんっ! よしっ、明日に向けて今日はそろそろ寝る?」

「ええ、そうしましょう。今日の火の番はいつもどおり──」


 そうリエッタさんが言いかけた時、ソラが口を挟んだ。


「いや、今日はなんだか目が冴えてる、僕がやろう」

「えっ、良いんですか王子?」

「たまにはやらんと示しがつかんからな、安心して寝るといいぞ」


 リエッタさんもわたしも驚いたけれど、いつもはさっさと寝るソラが今日はなんだかやる気。


「えと……じゃあその、私もお手伝いしますので、メイドとして……」

「ふむ、では今日の火の番は僕とトアムナでやるとしよう。二人はしっかり休むように」


 トアムナちゃんも番をするということで、わたしとリエッタさんはゆっくり休めることになった。

 うーん、何かあるのかな……? でもまあ、お言葉に甘えて寝させてもらおうっと!


「じゃあお願いね、二人とも!」

「よろしくおねがいします、王子、トアムナちゃん」


 わたしとリエッタさんは二人にお願いすると、それぞれの寝袋にもぞもぞと入り込む。

 今日はキノコ探し楽しかったなぁ、なんて考えてると、まぶたがどんどん重く……。

 ……あ、そうだ日記日記。


 ──ユク村でトアムナちゃんを仲間にして、旅がよりいっそう楽しくなってきた。

 トアムナちゃんと一緒にキノコをたくさん採ったり、キノコ鍋の味に感動したり。

 最初は辛い旅になるのかな、なんて不安もあったけれど、今は全然そうは思わない。

 これからも楽しい旅になるだろうって、確信があるんだ。


 ハーピニアが恋しくなる時もあるけれど、それでも今の仲間たちと旅が出来て幸せ。

 これからも楽しい旅が続けばいいな、なんて思ってしまってる自分が居たり。

 でも目的もちゃんと果たさないとね。ソラジマへと向かう手段を見つけなくちゃ。

 もうすぐで遺跡だ。何が待っているのか分からないけれど、

 でもきっとみんなと一緒なら乗り越えられる、そんな気がするの──


 ふあ、ぁ……こんな感じでいいかな……。

 寝ぼけ眼をこすりながら、私は日記をぱたんと閉じる。

 ソラとトアムナちゃんは何か話してるみたい……盗み聞きできるかもしれないけれど。

 ううん、それよりも眠いや……おやすみなさい……しちゃお……。


                  ◇


 翌日、わたしが目を覚ますと──。


「とっ、トアムナっ! はやくっ、早くどけろっ! お前に溺れるだろっ!」

「ふええぇ……な、なんで、なんでこうなるんですかぁ……っ!?」


 ……トアムナちゃんの身体にソラが突き刺さってた。


 正確には、怪物状態のトアムナちゃんに座った状態のソラが沈んでる、みたいな。

 ええと……どうしてこうなった。


「あ、ハルちゃん起きたのね……」

「ええと……リエッタさん、何事なの?」

「えっと、順序を説明するとね──」


 リエッタさんの話によると、トアムナちゃんがわたしの代わりにソラを運ぼうとしたらしいの。

 どうもわたしを気遣ってやろうとしたみたいだけど、結果はまあ、見ての通り。

 ソラもトアムナちゃんもパニックになっちゃって、リエッタさんが一生懸命落ち着かせてた所みたい。


「ハルかっ!? おい、見てないで助け、ゴボォッ!?」

「わっ、あっ、あううっ! 暴れちゃダメですよぉ! ひぃーっ、だれかあぁぁっ……!」

「ううん……どうすればいいのかしら、これは……」


 パニックになる二人、唖然とする二人。

 全員がどうすれば良いのか分からず、時間だけが過ぎていく。


 その後、なんとか落ち着かせてベタベタになったソラを引っ張り出したり、しょぼくれるトアムナちゃんを慰めたりしたの。

 そんな騒動があったものだから、出発は結局お昼前ぐらいになっちゃったのでした。


 ……これからも、うん……楽しい旅になる、といいなぁ……。

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